平成14年度 日本セラミックス協会関西支部
支部セミナー開催報告

 去る平成14年12月3日(火)に、日本セラミックス協会関西支部セミナーが開催されました。本年度の支部セミナーでは『出番を待つ期待のセラミックス技術』をテーマに、関西地区の企業・大学に最新の研究成果の講演を依頼し、6人の講師の方により中身の濃い講演が行われ、ぞれぞれの講演に対して活発な質疑が交わされました。

概 要
 ・開催日時:平成14年12月 3日(火)
 ・場  所:メルパルクOSAKA
       大阪市淀川区宮原4-2-1 TEL 06-6350-2111
 ・開催概要(プログラム)はこちら

 
<微細加工技術>
ナノ・インプリント法による集積化ナノ構造作製
大阪府立大学大学院 工学研究科 平井義彦

 簡便でコストパフォーマンスの良いプレス加工技術を応用してナノサイズデバイスを作製するナノ・インプリント法について概説すると共に、この技術を応用してアクリル樹脂やセラミックス等の集積化ナノ構造作製についての最近の成果の発表が行われました。はじめに本技術の歴史的背景や現状についての説明が行われ、次いで基礎技術について詳細な発表が行われました。特に本手法で重要となる樹脂の機械的性質(高温粘弾性挙動)の解明やモールド形状による加工メカニズムの解明に加え、モールド作成技術や精密なプレスのための装置技術についても詳細な発表が行われ、線幅200nmで高さ1.2マイクロメーターの高アスペクトPMMAパターンや従来では複雑な半導体作製プロセスでないと作製不可能であった2次元局面形状パターンの作製例、マイクロピラーなどが示されました。また、樹脂のみならずガラス材料へもインプリント法が適用可能なことを実例を踏まえて講演いただき、ごく簡便なプロセスでナノ集積化が可能な本技術に対して注目がされ活発な質疑が行われました。

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LIGAプロセスのセラミックスへの応用
住友電気工業(株)播磨研究所
平田嘉裕、沼澤稔之、○仲前一男、高田博史

 シンクロトロン放射光を用いた微細加工技術であるLIGAプロセスについての概説に加え、本法法を用いて実際に作製されたセラミックス複合材料圧電振動子とその製品化について詳しく発表頂きました。放射光を利用したリソグラフィでは、放射光特有の性質に基づき、厚いレジスト材料でも露光できること、優れた直進性に由来した加工精度を実現できることなどから特に高アスペクト比を持つパターンへの応用が可能であることなどが発表され、この特徴を活かしたデバイス作製例について紹介されました。特に精密金型作製技術、リソグラフィのための高感度レジスト開発、セラミックス成型技術など一連のプロセスについて詳しく講演いただくと共に、作製した素子が従来のものよりも優れた特性を示すことや、超音波内視鏡用素子としての製品への応用例や開発例などを紹介いただきました。放射光リソグラフィについては多くの研究開発が行われているが、実際の製品生産まで結びついた例は殆ど無く、総合的なプロセス技術開発の成果として注目されました。

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<ナイトライドセラミックス>
希土類系複合金属窒化物の合成と機能
大阪大学 先端科学技術共同研究センター 町田憲一

 これまで報告されている窒化物について、周期律表と対応してその特徴を概説すると共に、希土類窒化物材料の合成やその物性について、磁性材料や窒素吸蔵材料としての基礎的な性質から応用を指向した研究例について講演頂きました。希土類窒化物磁性体については、希土類の持つ特徴的なf軌道に基づく興味深い物性が見られること、またこうした特徴を活かした磁性体としての可能性が説明され、Sm2Fe14Nxを例として構造や作製方法、磁気物性などが詳細に発表されました。また、この様な窒化物では耐候性に問題があるため、金属や有機ケイ素化合物を用いた表面被覆方法とそれによる効果が詳しく紹介されました。特に後者の方法は水を嫌う窒化物などに対して有効な被覆プロセスであり、非極性有機溶液中で表面にM-O-Si結合を有効に形成できること、本手法で表面被覆した磁性体を用いたボンド磁石の場合、磁性体と有機樹脂の親和性が向上することや良好な耐候性を持つことなどが発表されました。また、こうした窒化物は窒素を可逆的に吸蔵-放出が可能であろうとの見地からその特性を調べ、アンモニアを媒介として窒素吸蔵性を示すこという最近の研究成果についても講演いただき、新たな材料としての注目を集めました。

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昇華近接法による単結晶AlNの成長
京都工芸繊維大学 工芸学部 ○古庄智明、大島 悟、西野茂弘

 単結晶を比較的簡便な手法で作製可能な昇華近接法について、この方法の概説と炭化ケイ素、窒化アルミニウム単結晶膜製造プロセス技術およびその特徴に関しての講演を頂きました。 この方法はルツボに入れた原料を溶解し、その上部に基板材料を配することで蒸気を直接用いて成膜できるもので、一般的な単結晶製造プロセスと比較してシンプルな装置構成であるという特徴を持っていること、基板と原料との距離を制御することで成膜速度が50ミクロン/時間と非常に早いにも関わらずエピタキシャル成長が可能なことなどの特徴が示されました。ついでこの方法を炭化ケイ素に適用する場合の様々な技術的課題やそれを解決するための装置構成、基板選定などが説明され、良好な単結晶膜の製造が可能であることが発表されました。ついで本手法を窒化アルミニウムへ適用した例について詳細な講演が行われ、Ta金属を成膜ルツボ中にセパレーターなどとして使用すること、雰囲気を選定することや基板オフ角を制御することで良好なAlN膜が拘束に生成できることなどが作製した材料の分光学的な測定結果やモルフォロジー観察の結果を踏まえて発表されました。本手法は簡便且つ低コストな装置で良質な単結晶を得る方法であることなどの点でも多くの注目を集めました。

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エアブリッジ構造を用いた低欠陥GaN基板の作製
松下電器産業(株)先端技術研究所
石橋明彦、川口靖利、菅原 岳、長谷川義晃、○横川俊哉

 半導体レーザーを使用した光ディスクおよびその技術について、最近の動向を概説していただくと共に、次世代高密度光ディスクであるBlue-ray DIsk用レーザー光源として開発が行われている青紫レーザー素子開発に関する最新の研究開発成果を講演いただきました。この光源としてはGaNが最も注目されている材料であるが、その性質上サファイア基板が用いられること、しかしその場合、格子不整合や熱膨張ミスマッチにより界面で多くの転位生成や伝播に伴う素子不良が生じるなどの問題点があることが示され、これを解決するために基板とMOVPE法による成膜層の間に空隙を設けるエアブリッジ構造を提案し、これに基づいた素子開発例がプロセス条件や膜のキャラクタリゼーション結果などと合わせて紹介されました。本手法でGaN膜を作製した場合、基板から受ける転位の影響を最小限にすることが可能であり、ウィング領域での転位密度を大幅に低下できること、2段式のエアブリッジ構造とした場合さらに良好な膜形成が出来ることなどが示されました。最新の半導体プロセス技術を用いたこうした膜形成時術について多くの注目を集め活発な質疑も行われました。

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多結晶GaN、室温強磁性半導体GaCrNと新機能デバイス
大阪大学 産業科学研究所 朝日 一

 光デバイスや電子デバイスとして注目されているGaNについて、石英ガラスを基板としてMOMBE法で成膜することで強いフォトルミネッセンス発光を持つ多結晶GaN膜が良好に形成可能であること、また遷移金属などをドープした場合強磁性窒化物薄膜が作製可能であることなど、これら材料が新機能デバイスとして大きな可能性を持つことなどについて講演いただきました。ガラス基板を用いたGaN膜の場合、c軸が基板に垂直に配向した多結晶であるが成膜条件および化学組成によって配向性が異なること、この配向性に依存してMOVPE成長した単結晶薄膜と同等のフォトルミネッセンス発光強度が得られることなどの特徴について詳しく説明いただきました。また、金属基板を用いた場合にもGaN成膜が可能であり、基板種類によりヘテロ構造体がオーミックまたはショットキー型となること、さらには小さい立ち上がり電界で高い飽和値を持つ電界電子放出特性が得られることなどが発表されました。一方、Crなどの遷移金属をドープすることで室温で強磁性を示すことが報告され、添加量により相分離が生じることとこれに関連して磁気的性質が異なることなどが説明されました。加えてごく最近の成果として希土類を添加した場合も同様の効果が認められることも紹介されるなど、半導体と磁性体の融合による電気・光・磁気機能を一体化した半導体スピントロニクス材料および新機能デバイスとしての将来性について注目を受けました。

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本セミナー予稿集に残りがあります。詳細は事務局までお問い合せ下さい。

平成14年12月4日(事務局記)


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