第29回東海若手セラミスト懇話会・2004年夏期セミナー報告

 去る5月27日(木)〜28日(金)の2日間、日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2004年夏期セミナーが、南知多町内海温泉の南知多観光ホテル大新で開催されました。今回は天候にも恵まれ、108名の参加となり、招待講演3件、テーブルディスカッション42件、学位論文紹介1件、海外報告1件、国際協力報告1件の発表が行われました。以下、進行順に簡単な内容を報告いたします。

 1日目、5/27(木)13:25、定刻通り名古屋工業大学の福田運営委員長の挨拶により会が始まりました。引き続き、招待講演1として、三重大学教授の神谷寛一先生より「ゾル-ゲル法とセラミックスの低温合成」と題してお話しをいただきました。ゾル-ゲル法を利用してセラミックスという“材料”を(機能を発揮した形で)低温で合成するプロセスに関する研究について、詳しくご教授いただきました。常温・常圧合成という大きな夢にチャレンジする内容は、若手の研究者や学生にとり大きな刺激となるものでした。(なお、写真1は招待講演の様子を示したものです。)

 続く招待講演2では、ナノ炭素研究所社長で豊橋技術科学大学名誉教授の大澤映二先生から「ベンチャービジネスの体験から」というタイトルでお話しをいただきました。近年、ナノ粒子は大変注目されてはいるが、凝集という大問題点をもつことを、フラーレンやナノダイヤモンドを例に、その解決の可能性も含めてご講演いただきました。ベンチャービジネスの理想と現実のお話しも学生さんにも大変興味深かったと思われます。

 講演終了後の自由時間には、ホテルから海までが目と鼻の先であったこともあり、海辺の散歩(海水浴にはまだ早い?)を楽しまれた参加者も多かったようです。夕食を兼ねた懇親会では新鮮な海の幸に舌鼓を打ちながら、講師の先生から発表では聞けなかったお話を伺ったりして、議論に華を咲かせました。料理の量も食べきれないほどで、若い学生さんもお腹を十分に満たし、20時からのテーブルディスカッションに臨みました。

 テーブルディスカッションは42件(一般10件、学生32件)もの発表があり、4グループに分け、コアタイムを設定する形で進められました。このテーブルディスカッションとはポスターセッションの変形版で、発表ポスター以外に資料その他の展示物をテーブル上に一緒に並べて発表できるようにした形式です。アルコール飲料を片手に進められたこともあり、空いている発表ブースを見つけることが難しいほど熱心な討論が最後まで続きました(写真2)。なお、招待講演の講師の先生、福田運営委員長、及び一般参加者の投票により優秀賞6件が選ばれました。受賞者氏名、所属と発表題目は、本報告の最後に記したとおりです。また、学生発表者全員に懇話会の銘の入ったボールペンが参加賞として配布されました。

 テーブルディスカッションに引き続き、二次会が催されました。学会のみならず、このような場では同じ大学の学生同士で集まりがちなのですが、二次会の頃にはそのような垣根も取り払われていたようです。テーブルディスカッションで議論を戦わせることをとおして知り合った、他大学の人とも和気藹々(ちょっとしたハプニングもありましたが)、会は3時半過ぎまで続きました。

 2日目は、宇宙航空研究開発機構、宇宙構造・材料工学研究系助教授の佐藤英一先生による「宇宙用材料技術の信頼性向上」と題した招待講演3で始まりました。黒鉛を中心にロケット用部材としての信頼性をいかに向上していくかの研究開発について講演をいただきました。信頼性評価については初心者にはかなり難しい話になりがちですが、先生の講演では、H-IIロケットの開発過程(失敗談も交えて)や新型垂直離着陸ロケットの打ち上げ試験成功の動画などを取り入れていただき、学生さんも大変興味深く拝聴できたと思われます。

 休憩をはさみ、学位論文紹介では(株)豊田中央研究所の谷 孝夫先生が「Flame Spray Pyrolysis of Zinc Oxide / Sillica Particles(噴霧火炎法による酸化亜鉛/シリカ系粒子の合成に関する研究)」というタイトルで、研究成果を丁寧に説明してくださりました。学位取得に向けて大いに刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか。

 次に、海外報告として、岐阜大学の伴 隆幸先生より、スイスのベルン大学、カルツァフェリ教授の研究室に、文部科学省の在外研究員として滞在されていた際の生活について紹介していただきました。スイスは日本人にとって大変なじみの深い国ではあるのですが、日常生活をはじめとして短期間の旅行ではなかなか感じ取ることのできない逸話を、公私の話をうまくミックスしながら楽しく報告して頂きました。

 続いて、東海ものづくり創生協議会アドバイザーの桑原好孝先生より、国際協力報告としてJICAコスタリカ生産性向上プロジェクトの内容をコスタリカの紹介を交えながら報告していただきました。先生も指摘されていましたが、コスタリカという国が世界のどこに位置しているか思い浮かべることができる人は、参加者のなかでもかなり少ないと思われ、その見聞録は大変興味深いものでありました。

 最後に、昼食をとりながらテーブルディスカッション優秀賞の発表と表彰を行いました(写真3)。受賞された学生さんの喜びの声を聞きながら、秋期に再会の約束をし、閉会しました。

 例年ながら合宿形式の夏期セミナーでは、講演会とはまた違った和気藹々とした中で東海地区の若手が親睦を深める良い機会となりました。この場を借りて、次回にも、より多くの方々のご参加を頂けますよう、ご案内する次第です。
 

優秀賞受賞者(敬称略)

久米 廷志 (岐阜大)
P10「溶液法による酸化亜鉛薄膜の作製と薄膜トランジスタへの応用」

安達 直己 (岐阜大)
P12「酢酸ジルコニウムで分散安定化したアルミナ泥漿を用いたその場成形法の検討」

板倉 剛 (名大)
P15「水熱処理を用いたNd-Fe-B焼結磁石スクラップからの資源回収」

松永 拓也 (名工大)
P20「g-アルミナ溶液浸浸法によるアルミナ/ニッケルナノコンポジットの作製と特性評価」

下池 和徳 (豊橋技科大)
P28「PhSiO2/3単分散微粒子の作製と周期配列」

上垣 裕則 (三重大)
P42「パイロクロア型酸化物のプロトン導電性」
 

written by 大澤善美(愛工大)
 


写真1 招待講演の様子


写真2 テーブルディスカッションの様子


写真3 テーブルディスカッション優秀賞の授賞式の様子

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