平成19年度原料部会見学会開催報告

 

今年度の原料部会見学会は、1011日(木)と12日(金)の2日間に渡り、山口県の瀬戸内側に位置する化学工業地帯を訪問した。この地域では明治時代の殖産興業で海からの資源採取を源流としたコンビナートが形成されている。参加者は16名。

1日目の株式会社トクヤマの徳山製造所では、窒化アルミニウム粉末とセメントの製造工場を見学した。窒化アルミニウムは炭素とアルミナを原料とした還元窒化法で製造されており、日本のトップシェアであるとの説明があった。炭素で衣服が黒くならないようにとのご配慮で白衣を身にまとい、2班に分かれて工場に入った。工程は高度に自動化されてほとんど無人工場で、ロボットがまるで人間が行っているかのように原料粉体を上手に均して、セッターに詰めているのが興味深かった。黒い原料から還元窒化法で白い製品が生まれることが何とも不思議な印象であった。

徳山製造所での廃棄物有効利用率は、94%に達するとのことであった。特にセメント工場では燃料には廃プラスチックを使い、セメント原料としての粘土の替わりに工場内の火力発電所から発生するフライアッシュを利用するなど、ゼロエミッションの要となっている。見学では乾式サスペンションプラントをエレベータで一気に昇り、高所から見た化学コンビナートの眺望はまさに絶景であった。

続いて、秋吉台近くの美東町長登銅山跡の見学を行った。美東町教育委員会の森田氏のお話では、近年発掘された木簡から奈良の大仏建立に大量の銅を提供した鉱山であることが証明されたとのこと。古代の重要な産業拠点であったことが明らかになりつつあり、将来は資料館建設も予定されているそうだ。宿泊地の湯田温泉では名湯で汗を流し、また懇親会では日ごろ様々な立場で活躍されている参加者の皆様と楽しく歓談することができ、特に若い方々にとっては得難い体験になったようである。

2日目は宇部市まで足を進め、宇部マテリアルズ株式会社で海水からマグネシアを製造する工程を見学した。石灰石から作った水酸化カルシウムを海水に投入し、水酸化マグネシウムを沈殿させる数多くの巨大なシックナーと、それらの間を連結した水路を蕩々と流れる膨大な量の海水に圧倒され、化学工業の原点を見た思いであった。さらに1800のロータリーキルンから出てきた赤熱したマグネシアクリンカーは、火山から噴き出される溶岩を連想させ圧巻であった。マグネシアクリンカーといえば耐火物原料であろうが、説明では化粧品や歯磨きなどヘルスケア商品への展開について紹介があり、素材産業における川下戦略の一端を学ぶことができた。

小野田市の対岸に九州を望む景勝の地で昼食をとった後、旧小野田セメント製造株式会社の「徳利窯」を訪れた。明治時代にセメントを焼いた焼成炉であり、前日に見た徳山製造所の巨大なロータリーキルンと比べて、100年間の技術の進化を実感した。

 後日参加者からは、普段見る機会のない工場を見学でき、有意義であったとの感想を多数いただいた。最後に、現場で懇切丁寧にご説明いただいたトクヤマの久戸瀬泰司徳山製造所副所長、宇部マテリアルズの岡村滋宇部工場長をはじめお世話になった両社の皆様に感謝いたします。

写真:潟gクヤマ徳山製造所のロータリーキルンの前で

 

(長崎県窯業技術センター 武内浩一・産業技術総合研究所 岩崎孝志)