2.エンジニアリングセラミックスへの期待と社会的役割
近年、エンジニアリングセラミックスは、耐熱・耐食・耐摩耗・高強度などの特性を活かした構造部品用途にとどまらず、半導体、電子デバイス、エネルギー、医療、天文・宇宙、さらには環境対応分野など、多岐にわたる分野で応用範囲が広がっており、他素材では成し得ないさまざまな過酷な環境下での活用が進んでおります。たとえば、最先端半導体デバイスの微細化・高集積化を実現する半導体製造プロセスにおいては、エンジニアリングセラミックスが不可欠な役割を担っています。高温・高エネルギープラズマなどの過酷な環境下でも優れた耐食性・絶縁性・熱的安定性・機械的特性を発揮するセラミックス構造部材は、半導体製造装置を支えるキーマテリアルとして、現代のICT基盤を支えています。また、従来の耐熱エンジン用途としても、2024年に日本初の月面着陸に成功したJAXAの小型月着陸実証機SLIMにおいて、エンジニアリングセラミックスの代表的な素材である窒化ケイ素がSLIMメインエンジンのスラスタ用材料として採用され、月面着陸に大きく貢献しました。
このような用途拡大とともに、セラミックスに対するニーズやそれを取り巻く環境もますます多様化しています。たとえば、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー社会の実現に向けた材料設計、プロセス開発、用途開発、評価技術、量産化技術など、グリーン化に向けた進化が強く求められています。また、AIや機械学習などの情報技術を活用したマテリアルズ・インフォマティクス分野の発展により、材料組成やプロセス条件、特性データの効率的な解析や新規材料探索、さらにはデバイスやシステムへの適用など、従来以上に迅速な開発が可能となりつつあります。こうした先進的な手法で得られた解析結果を適切に評価・解釈し、創造的な研究へとつなげていくためには、優れた研究者・技術者の知見と経験が不可欠です。
このように、多様化するニーズに的確に応えるためには、セラミックス業界を担う次世代の研究者・技術者が継続的に成長できる環境づくりが、ますます重要になっております。