部会長からの
メッセージ

ご挨拶

(公社)日本セラミックス協会

エンジニアリングセラミックス部会 部会長
京セラ株式会社 
織田 武廣

1.はじめに

 このたび、一般財団法人ファインセラミックスセンター 北岡諭 前部会長の後任として、本部会の部会長を拝命いたしました京セラ株式会社の織田武廣と申します。長年にわたりファインセラミックスの発展を牽引してきた本部会の重責を担うこととなり、大変光栄に存じますとともに、身の引き締まる思いです。歴代部会長をはじめ、本部会関係者の皆様のご尽力に、改めて深く敬意を表します。

2.エンジニアリングセラミックスへの期待と社会的役割

 近年、エンジニアリングセラミックスは、耐熱・耐食・耐摩耗・高強度などの特性を活かした構造部品用途にとどまらず、半導体、電子デバイス、エネルギー、医療、天文・宇宙、さらには環境対応分野など、多岐にわたる分野で応用範囲が広がっており、他素材では成し得ないさまざまな過酷な環境下での活用が進んでおります。たとえば、最先端半導体デバイスの微細化・高集積化を実現する半導体製造プロセスにおいては、エンジニアリングセラミックスが不可欠な役割を担っています。高温・高エネルギープラズマなどの過酷な環境下でも優れた耐食性・絶縁性・熱的安定性・機械的特性を発揮するセラミックス構造部材は、半導体製造装置を支えるキーマテリアルとして、現代のICT基盤を支えています。また、従来の耐熱エンジン用途としても、2024年に日本初の月面着陸に成功したJAXAの小型月着陸実証機SLIMにおいて、エンジニアリングセラミックスの代表的な素材である窒化ケイ素がSLIMメインエンジンのスラスタ用材料として採用され、月面着陸に大きく貢献しました。
 このような用途拡大とともに、セラミックスに対するニーズやそれを取り巻く環境もますます多様化しています。たとえば、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー社会の実現に向けた材料設計、プロセス開発、用途開発、評価技術、量産化技術など、グリーン化に向けた進化が強く求められています。また、AIや機械学習などの情報技術を活用したマテリアルズ・インフォマティクス分野の発展により、材料組成やプロセス条件、特性データの効率的な解析や新規材料探索、さらにはデバイスやシステムへの適用など、従来以上に迅速な開発が可能となりつつあります。こうした先進的な手法で得られた解析結果を適切に評価・解釈し、創造的な研究へとつなげていくためには、優れた研究者・技術者の知見と経験が不可欠です。
 このように、多様化するニーズに的確に応えるためには、セラミックス業界を担う次世代の研究者・技術者が継続的に成長できる環境づくりが、ますます重要になっております。

3.エンジニアリングセラミックス部会の主な活動

 こうした社会ニーズの変化に対応するため、本部会では、世界をリードする大学・研究機関の先生方や、優れた技術を有する企業技術者など、多くの幹事の皆様が、人材育成と課題解決に向けてさまざまな活動を展開されています。日本セラミックス協会の年会・秋季シンポジウムでの研究発表、各種学術誌や協会誌への論文発表、最新の重要テーマを学べるエンジニアリングセラミックスセミナー、学生や若手研究者の育成の場となるエンジニアリングセラミックス若手セミナーの主催など、社会ニーズに即したテーマについて、活発な情報発信と意見交換が行われております。
 さらに、国際会議におきましても、本部会主催の焼結国際会議 Sintering 2023 が日本政府観光局2024年度国際会議誘致・開催貢献賞を受賞するなど、高い評価をいただいております。2025年にはセラミックスのグリーンプロセスに関するIGPAC2025(本部会と電子材料部会との共催)、2026年には第11回国際セラミックス会議 ICC11 への参加など、今後も多くの国際的な会議が計画されています。
 このように、幹事の皆様があらゆる場でセラミックスの発展や課題解決に精力的に取り組まれていることを拝見しますと、急速に変化する社会ニーズにも柔軟に対応していけるものと強く信じております。

4.さいごに

 私自身も、窒化ケイ素をはじめとする各種ファインセラミックスの開発を通じ、「ファインセラミックス材料をあらゆる産業に普及させる」一心で、長年セラミックスの普及に取り組んでまいりました。今後は部会長として、皆様とともにエンジニアリングセラミックスのあるべき姿を考え、新たな価値創造に努め、業界のさらなる発展に尽力する所存です。そして何より、部会の活動を通じて、所属機関を越えた研究者・技術者の皆様との交流がより一層深まることを、私自身、楽しみにしております。引き続き、エンジニアリングセラミックス分野の発展に向け、皆様とともに歩んでまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。


2025年6月吉日

更新日:2025年06月2日