功労賞
電子セラミックスの合成法の開発と
評価法の確立,電子材料部会,編集委員会,出版委員会,関東支部の各活動における貢献
掛川 一幸 氏
掛川一幸氏は,電子材料の合成法と評価法に関して長年研究を行い多大な成果を上げている.特に同氏が開発した湿式法と乾式法を組み合わせた合成法 は均一なセラミックスを容易に得る方法として有用である.また,セラミックスの組成均一性の評価法を多くの系で確立している.さらに,スパークプ ラズマシンタリング法を用いた焼結では,化学反応を進めずにほぼ理論密度まで緻密化できることを示した.その応用として,複数の組成の特性を組み 合わせた特性をもつ緻密な焼結体を得ることに成功している.
日本セラミックス協会への貢献も顕著であり,特に,プロバイダのなかった時代に協会ビルに初めて専用回線によるネットを導入した.電子材料部会で は,電子材料研究会主査,入門講座主査を務め,出版委員会では,出版物の電子化,啓発ビデオ出版などで中心的な役割を果たし出版委員長も務めた. また,関東支部では,支部常任幹事として長年貢献し,HP委員長,研究発表会委員長(2回),秋季教室委員長などを務めた.
以上のように,セラミックス分野における研究および協会活動への貢献は顕著であり,日本セラミックス協会功労賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1971年千葉大学工学部卒業.1973年同大学大学院工学研究科修了.1981年工学博士(東京工業大学).1973年同大学助手,1988年助教授,1998年教授.2014年同大学定年,同年同大学名誉教授,グランドフェロー.2017~2019年同大学特任研究員.2019年~技術アドバイザー.
功労賞
機能性酸化物バルク単結晶の育成と
協会活動への貢献
田中 功 氏
田中 功氏は,溶融法による機能性酸化物のバルク単結晶の育成に関して研究し,分解溶融酸化物や固溶体の高品質大型単結晶の育成技術を確立した.なかでも,高温超伝導体,強誘電体,アルミン酸カルシウムなど機能性酸化物の単結晶育成に成功し,それらの単結晶を用いた機構解明や新機能発現によりセラミックス分野の発展に大いに貢献している.日本セラミックス協会においては,教育委員会委員長としてセラミックス教育の啓蒙普及活動に貢献し,行事企画委員会委員として秋季シンポジウムの現地開催に尽力を尽くしている.さらに,関東支部においては,長年にわたって常任幹事として研究発表会等を担当するとともに支部長として支部の活性化など支部活動に貢献している.
以上のように,セラミックス分野における研究および協会活動への貢献は顕著であり,日本セラミックス協会功績賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1982年同山梨大学大学院工学研究科修士課程修了.同年同大学工学部助手.1993年助教授.2002年より教授.博士(工学).2015〜2017年日本セラミックス協会常任理事(教育委員会委員長).2019年より日本セラミックス協会支部担当理事(関東支部長).
功労賞
セラミックス製品の生産性向上およびセラミックスの価値向上への貢献と
協会運営への貢献
中川 正弘 氏
中川正弘氏は,1979年ノリタケに入社し,研究開発部門でセラミック部品の型材の開発などに従事した.自動車の電子機器の基板として使用される高耐熱セラミックス回路基板の設備設計にも携わり,フレキシブルな生産に対応可能な自動生産システムなどを構築して大幅な生産能力の向上と省人化を実現,自動車の電子化の一助を担った.また,生産技術担当としてその他のさまざまなセラミックス製品の生産性向上のための設備開発,ライン設計,生産システムの構築に尽力した.その後は,幅広いセラミックスの知識を活かし,同社の開発責任者として,セラミックスの特性を活用した新たな製品開発に力を注ぎセラミックスの価値向上に努めた.日本セラミックス協会においては,東海支部長として支部運営に貢献すると共に,支部担当理事として理事会審議に携わった.さらに,副会長として会長を補佐して協会運営に貢献した.
以上のセラミックス産業界における貢献および日本セラミックス協会運営に対する貢献は大きく,日本セラミックス協会の功労賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1979年大阪大学大学院工学研究科卒業・同年,日本陶器(現ノリタケ)入社.2005年ノリタケインドネシア社長.2010年ノリタケカンパニーリミテド 取締役 セラミックス事業部長.2011年同社 取締役常務 開発・技術本部長.2013年同社 取締役専務.
2017年退任.
功労賞
ガラス材料の開発,ガラス産業の振興および産学官交流活性化への貢献
山本 茂 氏
山本 茂氏は1978年日本電気硝子(株)に入社.永年特殊ガラスの材料設計や物性評価に携わり,ガラス産業の発展に貢献した.特に,電子部品用ガラス,ディスプレイ用ガラス,ガラス繊維および結晶化ガラスなどの製品開発とその事業化で成果をあげた.1998年から技術部長,2005年から取締役を務めた.清澄剤開発を推進し,種々ガラスで従来使用されてきたヒ素の代替に成功した.
当協会活動では,理事を6年間努めるとともに,2012~2016年度アドバイザリーボード,2017~2018年度副会長を務め,会員増強のための施策の検討などに携わった.また,関西支部においては,2004~2009年度企画委員,2010~2011年度支部長を務め,イベントやPR方法の見直しにより活性化を図った.ガラス部会においては,2008~2009年度部会長を務め,ICG委員も兼務した.ガラス産業連合会(GIC)のプロセス材料技術部会委員として,現在も続くGICシンポジウムを創設.併催されるガラス部会主催ガラスおよびフォトニクス材料討論会の活性化に尽力し,産学官の交流を図った.2018年横浜で開催されたICG年会ではその準備から関わり国際交流に貢献した.
以上のように,同氏のセラミックス業界への貢献は顕著であり,日本セラミックス協会功労賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1978年京都大学大学院工学研究科修士課程修了.1978年日本電気硝子(株)入社.1997年技術部長.2005年取締役.2016年特別技術顧問.2019年技術顧問.
学術賞
組成とナノ構造の制御による酸化物サーモエレクトロニクスの開拓
大瀧 倫卓 氏
熱エネルギーを電力に直接変換する熱電変換材料には,高いキャリア移動度と低い格子熱伝導率が求められる.得られる電力は温度差の2乗に比例するため耐熱性材料が有利だが,従来の重金属化合物系材料は低融点で酸化分解しやすく,稀少元素を含むなどの欠点を抱えている.導電性酸化物は,一般に高温耐久性に優れているが,強いイオン結合性による低キャリア移動度や軽い酸素原子による高格子熱伝導率のため,かつては議論の俎上に載ることもなかった.大瀧 倫卓氏は,大きな温度差を利用でき稀少元素を含まない熱電変換材料として酸化物セラミックスにいち早く着目し,1990年代初頭から先導的な材料探索研究を推進した.単なる部分置換を超える組成制御と結晶構造や自己形成ナノ構造のインタープレイを駆使し,n型p型ともバルク材料の世界最高性能を実現するなど,その優れた先見性と高い独創性は論文の被引用総数4100以上にも表れ,国際的に高く評価されている.「酸化物サーモエレクトロニクス」という学術領域を開拓し世界的に認知・定着させた業績はセラミックス科学への貢献が極めて大きいことから,日本セラミックス協会学術賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1985年東京大学工学部工業化学科卒業, 1990年同大学大学院工学系研究科工業化学専門課程博士後期課程修了(工学博士). 同年九州大学助手(大学院総合理工学研究科材料開発工学専攻), 1998年同助教授(同物質理工学専攻), 2013年同教授(総合理工学研究院エネルギー物質科学部門)
学術賞
ガラスの押し込み変形機構の解析と
その組成依存性に関する研究
吉田 智 氏
脆さの克服は実用ガラスでは究極の課題であり,近年の薄型ディスプレイの台頭により重要性はさらに高まっている.しかし破壊メカニズムは複雑であり,その解明の困難さ故に,学術的な観点から破壊現象を定量的に把握し,ガラスの強度の支配因子を解明しようとする研究は少なかった.このような背景から吉田智氏は,ガラス表面の傷(クラック)の発生メカニズムに着目し,研究に取り組んできた.代表的な研究業績は次の2点である.①異物の衝突や接触を想定した押し込み変形において,ガラスの高密度化体積を定量的に決定する方法を開発し,永久高密度化が起こりやすいガラスほどクラックが発生しにくくなることを初めて示した.②圧子押し込みによるガラスの変形や応力分布の「その場」観察に世界で初めて成功するとともに,クラック発生挙動の定量的評価を可能とした.同氏が提案したガラスの変形機構の評価指標は,ガラス強度の支配因子の一つの標準として,国内外の多くの研究者に利用されている.
同氏の業績は,ガラスの基礎科学のみならず,先端ガラス材料の開発においても学術上意義深いものであり,日本セラミックス協会学術賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1995年京都大学大学院工学研究科材料化学専攻修士課程修了.同年滋賀県立大学工学部助手,2007年同准教授,現在に至る.博士(人間・環境学).
学術賞
異方性制御による生命機能セラミックスの創製とその生物学的評価
相澤 守 氏
相澤 守氏は,材料自身が細胞や生体に積極的に働きかけて,細胞分化や組織再生の促進などの生命機能を発現する「生命機能セラミックス」を創製し,その機能発現メカニズムを材料と細胞・生体組織との相互作用にもとづく生物学的評価により解明している.水酸アパタイト(HAp)は六方晶系に属し,a面およびc面という二つの結晶面をもつ.同氏は生体組織の異方性が生命機能の発現に寄与していると考え,そのモデル材料創製のため,HAp粒子の異方性制御プロセスを確立した.気-液界面を反応場とする特殊な環境がHAp粒子の結晶成長方向に異方性を与えることを明らかにし,世界で初めて歯のエナメル質のモデルとなる「c面を多く露出した板状HAp単結晶粒子」の合成に成功した.また,生体骨モデルとなる「a面を多く露出した繊維状HAp単結晶粒子」の形状と配向性を活用して細胞の「足場材料」を創製し,その材料が「骨再生」のみならず「肝再生」にも有用であることを示した.これはHApのような硬い素材が軟組織にも適用可能であることを示すとともに,材料の異方性と細胞機能とを結びつける貴重な報告である.上記の研究成果は,日本セラミックス協会学術賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1990年上智大学理工学部応用化学科卒業.1992年同大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士前期課程修了.花王(株)素材研究所,上智大学理工学部助手を経て,2003年から明治大学理工学部准教授.2008年から現職.1996年 博士(工学) 上智大学.2019年8月より明治大学生命機能マテリアル国際インスティテュート所長.
学術賞
サイアロン蛍光体の開発と固体照明
への応用
解 栄軍 氏
解 栄軍氏は,希土類ドープサイアロン蛍光体の開発を行い,白色LED固体照明への応用を提案,実用化に結びつけた世界を先導する独創的な研究を行ってきた.
具体的には,従来耐熱・構造材料として研究されてきたサイアロン系セラミックスに希土類をドープすることで,白色LED固体照明に適した青色励起可能,高い量子効率,高い熱安定性を持つ数多くのサイアロン蛍光体を開発した.それらの組成-構造-特性を実験および計算を用いて調べることで発光機構を明らかにしてきた.開発蛍光体を用いた白色LEDの試作を行い,電球色の白色LEDや広色域液晶ディスプレイ用バックライトを世界に先駆けて発表した.現在,開発された多くのサイアロン蛍光体は日本の化学メーカーによって市販され,白色LED固体照明,液晶ディスプレイで広く使用されている.
上記のように,同氏は,希土類ドープサイアロン蛍光体で数多くの研究業績を挙げ,今後の展開も大いに期待されており,日本セラミックス協会賞学術賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1998年中国科学院上海セラミックス研究所博士後期課程修了(工学博士).同年科学技術庁無機材質研究所STAフェロー, 2001年通産省産業技術総合研究所JSTフェロー,2002年ドイツDarmstdat工科大学フンボルトフェロー.2003年物質・材料研究機構入所,2018年厦門大学教授.
学術賞
無機有機界面相互作用を利用した
リン酸カルシウム系人工骨の開発
菊池 正紀 氏
菊池正紀氏は,リン酸カルシウム系材料の基礎的知見を用い,有機高分子との界面相互作用を利用することで,数種のリン酸カルシウム系骨補填材を研究開発・実用化した.最も顕著なものは,Caイオンとカルボキシ基の相互作用に基づく自己組織化を利用した,水酸アパタイト/コラーゲン骨類似ナノ複合体(HAp/Col)線維の合成とその細胞機能に与える影響の基礎研究である.HAp/Colの自己組織化の機序・骨形成・骨吸収の促進機能・HAp/Colが世界初の骨リモデリング代謝に取り込まれる材料であることを明らかにした.粘弾性を示す多孔体は実用化され,整形外科などで応用が広がっている.さらに,生体吸収性セメントや金属と骨の結合を3倍早めるコーティングなどの応用研究も進めている.これらの成果は,国際レビュー論文で紹介され,また,多くの国内外の学会で招待講演をおこなうなど,学術的に国内外から高い評価を得ている.
以上のように,同氏は骨補填材の研究で世界から注目される多くの先駆的で顕著な業績をあげており,セラミックスの科学技術の発展に大きく貢献してきた.よって日本セラミックス協会学術賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1995 年早稲田大学大学院資源および材料工学専攻博士後期課程修了, 博士(工学).早稲田大学理工学総合研究センター客員研究員,ハーバード大医学部客員研究員などを経て,現職(グループリーダー).専門はリン酸カルシウム系材料.
学術賞
水溶液中での結晶成長による
セラミックスナノ構造体の創製
増田 佳丈 氏
増田佳丈氏は,セラミックスの常温合成と形態制御に先導的に取り組み,水溶液中での結晶成長を巧みに利用した常温結晶化およびナノ構造制御を提案した.特に,酸化スズにおいて,常温,常圧,水溶液中での結晶化を実現するとともに,結晶成長の精密制御により,ナノシートへの形態制御および自己組織化によるナノ構造膜形成を実現し,新規デバイス開発を実証した意義は大きい.ナノ構造膜は,高表面積,傾斜構造等の特長を有しており,分子修飾を組み合わせることで,水中分子センサおよび液中がんセンサを提案した.また,特異な結晶面への分子吸着,酸化反応に着目し,肺がん向けガスセンサとしての高い特性も引き出した.JCS-Japanを含む多数の原著論文を公表し,解説・総説も執筆している.また,研究機関や企業と共同研究を実施し,国内外特許を取得している.国際会議での基調・招待講演等を行い,当該学術分野の発展と活性化に大きく貢献している.このように,同氏は水溶液中での結晶成長によるセラミックスナノ構造体の創製およびその機能開拓について数多くの優れた研究業績を挙げており,日本セラミックス協会学術賞に値するものとして推薦する.
略 歴 1996年 筑波大学大学院工学研究科博士前期課程修了.1996-1998年 日本特殊陶業(株).1998-2000年 名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程.2000-2006年 同大学大学院工学研究科助手.2004年 同大学大学院博士(工学)学位取得.2006年 産業技術総合研究所 研究員.2011年 同所 主任研究員.2018年 同所 研究グループ長.
進歩賞
化学反応を用いた機能性セラミックスの低温焼結技術の研究
山口 祐貴 氏
山口祐貴氏は,酸塩基反応などの化学反応を活用し,複合金属酸化物の微粒子や薄膜を低温合成するプロセスを研究している.これまでに燃料電池や全固体蓄電池に用いるペロブスカイト型金属酸化物等のイオン伝導性酸化物材料を基板上に成膜し,粒子間が結合する焼結構造を酸塩基作用に基づき形成し,組織構造を精密制御する技術を見出した.さらに,難焼結性のBaZrO3等でも75℃付近で常圧にて焼結構造を形成する技術にチャレンジし,ナノサイズレベルの緻密体を得ることに成功している.また,それらの反応における結合の形成過程や生成温度の結晶構造に与える影響等を明らかにした.その他,同氏は,2018年9月の日本セラミックス協会第31回秋季シンポジウム において,「複合酸化物微粒子粉体の合成温度にあたえる結晶構造の影響」との演題にて,酸化物微粒子の革新的合成手法についての基礎的な研究成果発表を行い,若手の発表の中で最も優秀と認められグリーン・プロセッシングセッション 最優秀賞を授与されている.本推薦業績に関連し,JOURNAL OF THE CERAMIC SOCIETY OF JAPANを含む10報の筆頭論文と10報の共著論文を発表している.
よって,日本セラミックス協会進歩賞に値するものとして推薦する.
略 歴 2008年東京理科大学基礎工学部材料工学科卒業,2010年同大学院基礎工学研究科材料工学専攻修士課程修了,2013年同博士課程修了.博士(工学)同年より東京理科大学理工学部工業化学科助教. 2016年産業技術総合研究所無機機能材料研究部門研究員,現在に至る.
進歩賞
配向・凝集構造制御による
金属水酸化物ナノ材料の機能創出
岡田 健司 氏
岡田健司氏は1次元ナノ構造の金属水酸化物に着目し,メソからマクロスケールでの配向や凝集の制御による機能創出を目的とした研究において優れた研究成果を報告している.同氏は,配向成長が困難とされていたチタン酸ナノチューブ(TNT)について,前駆体である酸化チタン薄膜表面での不均一核生成を誘起することにより,基板に垂直に配向させるための手法を確立した.基板全面での高い構造異方性を利用することで,超撥水性を示しながら強い吸着性を示す吸着性超撥水表面の形成にも成功した.また,原料酸化チタン間の局所反応場でのTNT成長様式を制御し,μmスケールの細孔を有し,優れたイオン吸着特性や高い光触媒機能を示すTNTバルク体が得られることを見出した.さらに金属水酸化物を足場とした金属有機構造体(MOF)の形成に関する研究では,金属水酸化物表面の規則的な水酸基を利用することで,配向MOF薄膜を世界に先駆けて実現した.この手法は完全に配向したMOF薄膜を形成できることから,電子,光機能性など様々な応用展開が期待される.
以上のように,同氏の業績はセラミックス科学の新しい地平を拓くものであり,日本セラミックス協会進歩賞に値するものとして推薦する.
略 歴 2011年3月大阪府立大学工学部マテリアル工学科中退(飛び級進学のため). 2013年3月同大学大学院工学研究科博士前期課程修了. 2014年9月同大学大学院工学研究科博士後期課程修了. 2013年4月~2014年9月日本学術振興会特別研究員(DC1). 2014年10月~2015年10月日本学術振興会特別研究員(PD). 2015年11月~2017年10月大阪大学工学研究科応用化学専攻助教. 2017年11月~現在 大阪府立大学工学研究科物質・化学系専攻マテリアル工学分野助教. 2019年10月~現在 JSTさきがけ研究員兼任.
進歩賞
骨修復用ガラス系材料における
細胞活性化機能の強化に関する研究
李 誠鎬 氏
李 誠鎬氏は,従来よりも短期間で高い骨質(力学特性)に修復可能な生体材料の創成を目指した研究を行い,イオン徐放性ガラスの組成と骨形成性細胞のスキャフォールド(足場材)の形状を巧みに制御することで,骨修復材料の細胞活性化機能を強化できることを示した.同氏は,組成により配位数が変化する中間酸化物をリン酸塩インバートガラスに導入することで,イオン徐放性の制御に成功した.さらに,骨形成機能の強化に有用なMg²+イオンをガラスに大量導入することで,鎖状リン酸塩構造を持たない新規生体用リン酸塩ガラスを開発した.また,スキャフォールドとなる生分解性ファイバーの形状制御により,接着する細胞を一方向に配列させることで,配向度の高いアパタイト結晶を産生させることに成功した.これらの研究により,細胞の骨形成機能を強化し,骨量のみならず骨質まで短期間で修復可能とする生体材料の設計指針を確立した.
以上の成果は,同氏の独創的な発案により得られたもので,今後の生体材料開発の重要な指針となるなど,学術的意義も高い.よって,日本セラミックス協会進歩賞に値するものとして推薦する.
略 歴 2016年名古屋工業大学大学院未来材料創成工学専攻博士後期課程修了,博士(工学).同年大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻特任助教.2019年産業技術総合研究所主任研究員.同年大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻招へい教員.
進歩賞
セラミックスの高機能化のための
粒子集合構造制御と新規評価法
高橋 拓実 氏
高橋拓実氏は,磁場を用いた結晶配向技術により,多様な物質で高度な配向構造制御に起因する高機能化を実現した.また,粒子複合化技術では,高度な粒子分散制御を行い,成形体内部構造を高均質化し,微細かつ緻密な微構造の焼結体を得た.磁場を用いた結晶配向と粒子複合化の異種技術融合では,Nd磁石級の極低磁場印加による粒子配向技術を創出するなど,粒子集合構造制御に立脚した高機能化と独創的プロセス技術の確立に成功した.他方,マイクロカンチレバー法によりSi₃N₄粒子や粒界の破壊靭性の直接測定を実現し,表面近傍の化学的腐食に起因する破壊メカニズムを解明した.また,光コヒーレンストモグラフィー観察により,非破壊検査からの強度予測や,加圧下や高温下での粒子集合構造変化過程を動的かつ3次元的に観察するなど,材料特性に直結するプロセス因子の根本的な制御に必要な新規評価法の創出にも成功した.同氏はこれらの成果を学術論文と特許出願にまとめており,学術から実学まで幅広い業績を有している.
さらに,同氏の業績は各学会において数々の賞を受賞するなど高く評価されており,日本セラミックス協会進歩賞に値するものとして推薦する.
略 歴 2013年長岡技術科学大学大学院工学研究科材料工学専攻博士後期課程修了.同年神奈川科学技術アカデミー(現神奈川県立産業技術総合研究所)戦略的研究シーズ育成事業常勤研究員.2016年同所有望シーズ展開事業常勤研究員.2019年同所機械・材料技術部,現在に至る.
技術賞
SCR(選択触媒還元)触媒コート用
SiC製微粒子フィルタの開発
松本 祐 氏/児玉 優 氏/ 鈴木 道生 氏
独自のSi結合SiCを用い高温で耐熱衝撃性を有する高気孔率SiC製微粒子フィルタ(DPF)を開発した.細孔径の精密制御によりSCR(選択的触媒還元)触媒コート量を増大させ,ディーゼル車輛から発生するPM(スス等)とNOxの同時浄化性能を大きく向上させることができた.高触媒量担持のためのフィルタ基材高気孔率化と強度との背反,およびCO₂削減のための圧力損失低減とPM捕集性能との背反に対し,新規開発の微構造解析技術により好適なフィルタ基材細孔特性を見出し,独自の造孔技術と細孔制御技術によりその量産化を実現した.2012年から欧州や米国ディーゼル乗用車向けに400万個以上を出荷した.その後も強化される排ガス規制への対応を進め,欧州にて導入開始される実路走行試験下においてもPM個数を規制値以下に抑制可能な捕集効率を有することを実証した.既に将来的に強化される排ガス規制への対応のための基幹技術となっており,今後700万個を超える需要が見込まれる.本発明は自動車排気ガス浄化技術への波及効果が大きく,国内外で高く評価されているため,日本セラミックス協会技術賞に値するものとして推薦する.
所属等
松本 祐 日本ガイシ(株) セラミックス事業本部 技術統括部 設計部
児玉 優 日本ガイシ(株) セラミックス事業本部 製造統括部 材料技術部
鈴木道生 日本ガイシ(株) セラミックス事業本部 製造統括部 生産技術部
技術賞
白色LED用蛍光体含有ガラス
(ルミファス®)の開発と実用化
馬屋原芳夫 氏/藤田 俊輔 氏/ 古山 忠仁 氏/ 岩尾 克 氏
馬屋原芳夫氏らはガラス粉末を用いてYAG蛍光体を焼結させることで,一般照明と比べてさらに高い輝度,耐熱性,耐候性が求められる自動車用ヘッドランプや高輝度LD光源用の波長変換材料を実現した.一般的な白色LEDは樹脂中に蛍光体を分散,固化したものが用いられているが,蛍光体の発光時の発熱によりマトリックス樹脂が変質するなどの理由で,高輝度ヘッドランプなどへの適用は困難であった.同氏らは耐熱性,耐候性などに優れるガラスマトリックス構造による白色LED用波長変換材料に取り組み,ガラス粉末と蛍光体粉末を混合し焼結させる方法,最適なガラス組成,焼結条件,蛍光体の分散状態,波長変換部材の表面状態,加工方法と制御方法を開発するなどの成果をあげ,高出力の青色光源を用いても変質,変色のない高い信頼性をもつ白色光源を可能とした.
開発された蛍光体含有ガラスは自動車用ヘッドランプに採用が進んでおり,そのLED化に大きな貢献を果たしている.同氏らの成果は,日本セラミックス協会技術賞に値するものとして推薦する.
所属等
馬屋原芳夫 日本電気硝子(株) 電子部品事業部第一製造部第一開発グループ
藤田俊輔 日本電気硝子(株) 研究開発本部 研究部 担当課長 博士
古山忠仁 日本電気硝子(株) 研究開発本部 開発部 主管研究員
岩尾 克 日本電気硝子(株) 研究開発本部 開発部 主管研究員 博士(理学)
技術賞
高エーライトクリンカーと
それを利用した混合セメントの開発
久我 龍一郎 氏/平尾 宙 氏/ 二戸 信和 氏 / 坂井 悦郎 氏
フライアッシュ(FA)セメントは低環境負荷や高耐久性の建設材料であるものの,通常は普通ポルトランドセメント(OPC)とFAを混合して製造するため,初期の強度発現性が低いことが技術的課題の一つである.本技術は,FAセメント専用のポルトランドセメントを新たに設計・製造することで,OPC同等の強度発現性とFAセメントとしての高耐久性を両立することに成功したものである.具体的には,セメントクリンカー中の各種構成成分やセメントの粉末度,添加材の量などを最適化することで,OPC同等の強度発現性を実現した.また,本技術のセメント材料はOPCと比べて製造時のCO₂排出量を20%程度削減することが可能であり,流動性の向上や水和熱の低減にも有効であるほか,塩分浸透性等の耐久性にも優れることを実証している.既に建築用途での実施工や,コンクリート2次製品用途としての試験施工を実施し,いずれも優れた施工性や強度発現性が証明されている.
今後,本技術のセメント材料が幅広い用途で普及拡大することで,我が国の低炭素社会の実現への寄与が期待されるものであり,日本セラミックス協会技術賞に値するものとして推薦する.
所属等
久我龍一郎 太平洋セメント(株) 中央研究所 第1研究部 セメント技術チーム 研究員
平尾 宙 太平洋セメント(株) 中央研究所 第1研究部 副部長
二戸信和 (株)デイ・シイ 技術センター 主査
坂井悦郎 東京工業大学 名誉教授
技術賞
水アトマイズ法による電子デバイス向け貴金属粉末の開発
久保 敏彦 氏/ 青柳 伸宣 氏/ 有田 茂博 氏
シリコン太陽電池の市場拡大と共に,発電時の安定性,セル変換効率および寿命を向上させる外部電極材料として高純度微粒銀粉末が望まれていた.
久保敏彦氏らは,独自の噴霧技術を確立したことで,高純度微粒銀粉末が製造可能な窒素雰囲気型水アトマイズ装置の開発に成功した.水アトマイズ噴霧時の微粒化因子解明により,形態が均一な粒度5μmの銀粉末が製造可能となり,さらにノズルの材質に窒化ケイ素を採用,かつ,アトマイザーノズルにダイヤモンド薄膜コーティングと水膜技術を導入することにより連続生産性と長期品質安定性を実現した.液相法と比較して,原油換算6.96kℓ/年の省エネ効果のあるプロセスであり,2008年には年産24トンのパイロットプラントを完成させている.本技術で開発した銀粉末は,シリコン太陽電池の外部電極材料として電子材料メーカーに採用され,さらにはLTCCやディスプレイ用タッチパネル,インダクタにも展開させ,新たな電極材料市場を創出した.
このように同氏らの功績は,電子デバイス向け貴金属粉末の高品質化に大きく貢献するものであり,日本セラミックス協会技術賞に値するものとして推薦する.
所属等
久保敏彦 大研化学製造販売(株) 顧問 兼 HPG事業部 部長
青柳伸宣 大研化学製造販売(株) 開発部 部員
有田茂博 大研化学製造販売(株) 福井工場 工場長
技術賞
世界初!ドライバー視界部をクリアに保つ曇りにくいガラスの商品化
入江 哲司 氏/佐藤 奈々 氏/木村 壮志 氏 / 杉原 洋亮 氏
自動車のフロントガラス防曇手段としてはデフロスタによる温風での対処が一般的であるが,燃費低下や操作の煩わしさを低減したいという強いニーズがあった.
入江哲司氏らは,吸水性有機無機複合材料の開発設計および高品位なコーティングプロセスの開発により,フロントガラスに必要な光学品質,防曇性能,高耐久性の全てを満足する技術を確立し,自動車用に具現化した.さらに劣化特性と実車データとの紐づけにより,実使用環境での耐久性を判断する寿命予測手法を構築することで開発の妥当性を高め,実用化に繋げた.
以上のような自動車用ガラスの高い要求性能を満たす技術開発と評価技術の開発,さらに商品価値を見える化するシミュレーション構築により商品化に漕ぎ着けた一連の取り組みは,日本セラミックス協会技術賞に値するものとして推薦する.
所属等
入江哲司 AGC(株) オートモーティブカンパニー 技術統括室 プロセス技術グループ
佐藤奈々 AGC(株) オートモーティブカンパニー アジア事業本部 プロセス技術部 加工技術センター プロセス技術グループ
木村壮志 AGC(株) オートモーティブカンパニーアジア事業本部 新商品開発部 商品開発センター 開発第3グループ
杉原洋亮 AGC(株) 技術本部 材料融合研究所 機能部材部 コーティングチーム
技術奨励賞
積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗劣化メカニズムに関する研究
井澤 一欽 氏
(京セラ(株))
近年,内部電極にNiを用いたBaTiO₃系積層セラミックコンデンサ(MLCC)はスマートフォンに代表される通信端末をはじめとする多くの電子機器に使用され,必要不可欠な電子部品となっている.MLCCの主要な特性のひとつに,高温環境下で直流電圧を連続的に印加した際の絶縁抵抗がある.製品の寿命に直結する本特性は,これまで多くの研究者の関心を集めており,組成や微構造の制御による誘電体材料の改良が精力的に行われてきた.一方,近年の研究により抵抗劣化の主要因は酸素空孔であると考えられている.
井澤一欽氏らは,上記試験環境下でMLCCを詳細に調査し,①機械的破損なく,誘電体を絶縁破壊直前まで局所的に低抵抗化させることに成功した.また、②上記局所領域の誘電体抵抗分布を積層方向断面から可視化した.これらにより,従来から提唱されている酸素空孔由来の絶縁抵抗劣化メカニズムの妥当性を視覚的に初めて明らかにした.
以上の業績は,誘電体の絶縁抵抗劣化に関する学術的な貢献に留まらず,工業的にもMLCCの更なる品質向上および次世代高信頼性材料開発につながる可能性があり,日本セラミックス協会技術奨励賞に値するものとして推薦する.
略 歴 2008年熊本大学大学院自然科学研究科複合新領域科学専攻博士後期課程修了,博士(工学).同年京セラ(株)入社.現在,誘電体材料の構造物性に関する研究開発に従事.