第27回セラミックスに関する顕微鏡写真展  日本セラミックス協会学術写真賞入賞作品

本年度の応募作品数は33点で,昨年の27点を上回った.応募していただいた皆さまにまず厚く御礼を申し上げたい.審査は例年通り学術写真賞の選考マニュアルにそって行われた.まず,応募総数(33)から,最優秀賞は1作品,優秀賞は5作品とすることが決定された.

 次いで一次審査では,応募作品とその説明文を一点ずつ時間をかけて観賞した後,各選考委員が6作品ずつを優先順位なしで無記名投票し,合計評点の高い作品から順に10作品を選出した.

 二次審査においては,一次審査で選出された10作品について,各作品ごとに各員間の意見表明と討論が行われた.最終的に各委員による記名投票を,(1)持ち点10点,(2)1作品の上限5点,という条件で行い,合計得票数の多い順に,最優秀賞1件,優秀賞5件を選出した.選出された各作品名とその受賞理由は下記の通りである.


<最優秀賞>MgO/ZnOヘテロウイスカー

(写真の説明)大気開放型化学気相析出(CVD)法によりcカットサファイア学結晶上にエピタキシャル成長した酸化亜鉛ウイスカー(柱状)上に,さらにMgOウイスカー(樹枝状)をエピタキシャル成長させた.極点図形法から,エピタキシャル関係は面外および面内でそれぞれMgO[111]‖Al203[0001],MgO[112]‖Al2O3[1120]であることがわかっている.ウイスカーのヘテロ接合はきわめて珍しい.走査型電子顕微鏡により酸化亜鉛ウイスカーの主成長方位であるc軸に垂直な方向から撮影した.

(装置・撮影条件)JEOL JSM-6700F,加速電圧;5kV

(出品者所属・氏名)(長岡技科大)鷲尾 司・岡田雄介・大塩茂夫・斎藤秀俊

(撮影者所属・氏名)(長岡技科大)鷲尾 司

<選評>

本作品はサファイア(Al2O3)単結晶に酸化亜鉛(ZnO)をエピタキシャル成長させ,その上にさらに酸化マグネシウム(MgO )を化学気相析出(CVD)法にて成長させたものを,走査型電子顕微鏡(SEM)にて断面観察したものである.平坦なサファイア上に柱状に真っすぐ延びた酸化亜鉛ウィスカー,そして樹の枝葉のように成長したMgO結晶のコントラストが大変美しくユニークで,圧倒的な票数で最優秀作品に選ばれた.


<優秀賞>右手巻きカーボンマイクロコイル

(写真の説明)Ni触媒存在下で硫化水素を含むアセチレンを750〜800℃で熱分解すると,3D-へリカル状のカーボンマイクロコイルが得られる.コイル形態,コイル径やコイルピッチなどは,用いた触媒の種類や反応条件により著しく影響される.写真は,一定のコイル径(3〜4μm)とコイルピッチで非常に規則的に巻いたカーボンマイクロコイルである.コイルの長さは5〜10mmに達する.コイルを構成しているカーボンファイバーの断面は矩形(扁平)である.得られるカーボンコイルの巻き方向は,一般に右手巻きと左手巻きがほぼ同数である.この写真は,すべて右手巻きコイルである.

(装置・撮影条件)トプコン,ABT-150F,10kV

(出品者所属・氏名)(岐阜大)元島栖二・楊 少明・陳 秀琴

(撮影者所属・氏名)(岐阜大)楊 少明

<選評>

カーボンマイクロコイルはナノチューブと並ぶ,ナノテクノロジーを代表する材料であり,そのコイル径やコイルピッチの制御は極めて難しい課題とされている.とりわけ右巻きコイルと左巻きコイルの作り分けは至難の業とされ,通常の合成プロセスでは両者が混在する.本作品は,すべてが右巻きのカーボンマイクロコイルを走査電顕で見事に捉えたもので,学術的にも芸術的にも高い評価を得た.


<優秀賞>ナノの糸で縫い合わされたZnO粒のパッチワーク

(写真の説明)多結晶材料の特性を左右する粒界の構造を原子レベルで把握するためには,9つもの幾何学的自由度をふまえた系統的な研究が必要となる.その際に,高分解能透過型電子顕微鏡法が有用であることは言うまでもないが,興味の対象となる特定の粒界を通常の多結晶体の中から探し出して観察していくのは莫大な労力を要する.そこで,例えば共通の回転紬を持つ粒界のみを含む多結晶試料が作製できれば,傾角粒界の原子構造の系統的な研究に最適なものとなろう.

 写真(a)は,pulsed laser deposition法により石英ガラス基板上に成長させたZnO薄膜のplan-view高分解能像と制限視野回折像である.各粒は[0001]軸配向したまま任意に回転していることがわかる.つまり,試料中のすべての粒界が回転軸[0001]の傾角粒界であり,ランダム粒界に加えて小角粒界や対応粒界など様々な性格を有する粒界が含まれている.写真(b)-(d)は,このうちの?=7,13,31対応粒界の構造を拡大して示したものである.いずれも特定の周期構造をもつ対称傾角粒界となっている.(c)にはファセット構造が見られるが,これが粒界面の異なる2つの対称構造間の遷移によって形成されていることは興味深い.これらの例に限らず,粒界は各々に特有な構造ユニットを有しており,写真(a)の粒界部分に見られるような模様を作り出す.あたかもナノスケールの糸で粒同士を縫い合わせているかのように見える.

(装置・撮影条件)日本電子JEM-4010,加速電圧;400kV

(出品者所属・氏名)(東大)大場史康・山本剛久・幾原雄一,(科技団透明電子活性PJ)太田裕道

(撮影者所属・氏名)(東大)大場史康

<選評>

本作品も粒界コントラストの多様性を巧みに利用した作品である.試料はPulsed Laser Deposition法によって作製された多結晶ZnO膜である.すべての結晶粒は基板と[0001]配向しているが,面内では互いに様々の回転関係で接している.このため粒界には多様な周期的コントラストが見られ,あたかもパッチワーク作品のように見えている.本作品には様々の対応粒界が含まれており,これも界面構造の教科書に使えそうな作品と言えよう.


<優秀賞>SrTiO3双結晶の小角粒界転位網組織

(写真の説明)粒界構造は隣接する結晶の方位関係に依存して変化することが知られており,一般に,その方位差が小さい場合にはその構造として粒界転位組織が形成される.ここに示した結果は,SrTiO3単結晶をわずかに回転させて接合したときに形成される小角粒界について,構造解析を行った結果の一部を示したものである.写真(a)に示すような直線状の粒界を,電子線に対して大きく傾斜させると,粒界に形成された転位網構造が明瞭に現れる.この方法を用いて異なる複数の回折条件下で粒界転位を観察することにより,粒界転位のバーガースベクトルを決定することができる.

(a)小角粒界の明視野像.

(b)(a)に示した粒界を,電子線に対して大きく傾斜させたときの明視野像.粒界転位網構造が明瞭に観察される.

(c)(b)とは異なる回折波で撮影した明視野像.特定の転位のコントラストが消失している.

(d)ウイークビーム像.(b)の回折波条件からウイークビーム状態にすることで転位網組織をより鮮明に観察することができる.

(装置・撮影条件) JEOL 2010HC(200kV,高角度傾斜型TEM)

(出品者所属・氏名)(東大)山本剛久・大場史康・幾原雄一

(撮影者所属・氏名)(東大)山本剛久・大場史康・幾原雄一

<選評>

わずかに傾いて接合する二つのSrTiO3結晶の接合面(小角粒界)には網目状の転位が形成される.接合面が電子線と平行(edge-on)の状態から徐々に傾斜させていくと転位網が明瞭に観察される.本作品は,回折条件や観察モード(明視野,暗視野,ウィークビーム等)を選ぶことによって,転位のコントラストが様々に変化することを捉えたもので,電子顕微鏡の教科書にも使えそうな見事な作品と言える.


<優秀賞>Morning Glory of Ba2TiGe208 Crystals

(写真の説明)Ba2TiGe2O8結晶(BTG)の類似組成を有するガラスに熱処理を施した結果,ガラス内部にデンドライト結晶およびその周囲に成長した花状結晶を発見した.BTGはfresnoite型構造を有する強弾性体1)である.この結晶は電気機械結合係数が大きく,かつ共振周波数の温度安定性が良好な圧電結晶としても知られているが2),光非線形性の研究は成されていない.本研究室において,BTGが析出した透明結晶化ガラスの作製に成功し,それから強い第二高調波発生も確認している3).写真で見られる結晶はBTGの類似組成を有する30BaO.15TiO2.55GeO2ガラスにTHT=750℃,3hで熱処理を施し作製した透明結晶化ガラスの内部から見出された.中心には金米糖のようなデンドライト状結晶,それを取り巻く花弁のようにさらに結晶が析出しているのが見て取れる.顕微ラマン分析およびEPMAの結果から,中心の結晶はBaTiGe3O9,花状結晶はBTGであることが判明した.この花状BTG結晶の形成は,まずBaTiGe3O9デンドライト結晶が結晶外部のガラス組成を変化させながら成長し,次にこの結晶を核サイトとしてBTGが形成するものと考えられ,ガラスの結晶化の観点からも非常に興味深い.またこの花状BTG結晶は“Morning Glory”(朝顔)に良く似ている.鋭敏検色板によるピンク色の背景にサイケデリックな朝顔が映えて美しい.

(装置・撮影条件)偏光顕微鏡(オリンパス社製)・デジタルスチールカメラにて操影

(出品者所属・氏名)(長岡技科大)高橋儀宏・紅野安彦・藤原 巧・小松高行

(撮影者所属・氏名)(長岡技科大)高橋儀宏

<選評>

光学顕微鏡による唯一の受賞作で,見事なカラー作品である.Ba2TiGe2O8 (BTG)に近い組成のガラスを適当な条件で熱処理を施すことによって,デンドライト結晶(BaTiGe309)とその周りに花びらのように形成されたBGT結晶を成長させ,これを朝顔(Morning Glory)に見立てた作品である.結晶化ガラスの生成機構や材料開発の観点からも極めて興味深い作品と言える.


<優秀賞>Co-Fe-Si-O/SiO2人工周期構造制御によるギガヘルツ帯域対応自己組織化ナノグラニュラー磁性薄膜

(写真の説明)熱力学的非平衡プロセスであるスパッター法により件製したCoFeSiO薄膜は,自己組織化現象によりナノ強磁性金属粒子が非晶質SiO2中に分散した極めて興味深い微細構造(ナノグラニュラー構造)を形成する.SiO2による高絶縁性と磁性粒子の微細化による磁化機構の最適化により,高周波帯域で優れた軟磁気特性を示す.しかしながら,自己組織化による構造制御には限界があり,次世代情報通信デバイスの主動作帯域であるGHz帯での十分な特性は得られない.

 上の写真は,この自己組織化現象と人工周期構造制御技術を組み合わせ,磁性粒子の粒径と配置構造をナノスケールで最適化することにより,GHz帯域での動作を可能とした新開発のナノグラニュラー磁性薄膜の高分解能断面透過型電子顕微鏡像である(左図は右図の一部を拡大したもの).

 本試料は,SiO2層を積層することで磁性粒子の粒成長を制御して粒径の最適化を行い,隣接粒子とのスピン間交換結合を増加させて軟磁気特性を向上させた.さらに,SiO2層は膜厚方向の磁性粒子を完全に分離するため,最隣接磁性粒子が必ず面内方向に存在することになり,磁化方向が面内方向に強く束縛される.このような磁化方向の強い異方性は強磁性共振周波数を高めるため,従来の磁性薄膜では適用が困難であったGHz帯域での動作を可能にする.

 なお,この薄膜は準安定的な構造をもつため,観察時の電子線照射に極めて弱く,かつ強い磁性のため,高分解能での撮影は極めて難易度が高い.

(装置・撮影条件)透過型電子顕微鏡Model002B(TOPCON),加速電圧200kV

(出品者所属・氏名)(太陽誘電)池田賢司・鈴木利昌・小林和義・藤本正之

(撮影者所属・氏名)(太陽誘電)鈴木利昌

<選評>

本作品は見た目には比較的地味であるが,ナノサイズの磁性体微粒子が非晶質のSiO2に分断され,規則性良く並んでいる様子を,高分解能電顕法で見事に捉えたものである.一般に磁性材料の電顕観察は,試料から発する磁場が画像にもろに影響を与えるため,鮮明な高分解能像の撮影は極めて難しいとされている.この困難を克服して得られた本作品は高く評価されるべきものである.


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