- 日本セラミックス協会学術写真賞入賞作品(2007)

第33回セラミックスに関する顕微鏡写真展  日本セラミックス協会学術写真賞入賞作品

 


<最優秀賞>

FIBを用いた超小型電磁気変換デバイスの作製と電子線ホログラフィによるその場磁場観察

(写真の説明)

カーボンマイクロコイル(CMC)は,そのユニークな形状から,さまざまな用途に応用されつつある.その一つに超小型の電流―磁場変換デバイス(ソレノイド)が挙げられる.我々は,FIB マイクロサンプリング技術を駆使し,無数にあるCMC の束から一本だけを取り上げ,タングステンデポジションによりその両端に金細線(直径5 μm)をピンポイントで配線した.図(a)はFIB 装置内で撮影した世界一小さいソレノイドの走査イオ微鏡像である.このソレノイドは,電圧印加TEMホルダーの両電極間に橋渡しにして取り付けられており,TEM内で電流を流すことができる.図(b), (c)は,それぞれ電流を4.5 mA,14.0 mA 導入したときに発生する磁場を,電子線ホログラフィを用いて直接観察したものである.N 極から磁束が漏れ出ている様子がはっきりと観察されている.また,電流の増加にともない磁束が密になっており,理論通りに磁束の量が増えていることもわかった.これらの写真は,最新の電子顕微鏡技術を使って,電磁気理論の基礎となる現象を,初めてその場観察したものである.

 

(装置・撮影条件)集束イオンビーム装置(Hitachi FB-2100),Ga イオン加速電圧:40 kV,透過型電子顕微鏡(Hitachi HF-2000),加速電圧:200 kV,2 倍位相増幅干渉顕微鏡像

(出品者所属・氏名)JFCC ナノ構造研究所・山本和生,楠美智子,平山司 岐阜大学・楊少明,元島栖二

(撮影者所属・氏名)JFCC ナノ構造研究所・山本和生


<優秀賞>
球面収差補正TEM を用いたTiO2 中の酸素原子コラム直視観察

(写真の説明)

酸化物半導体の物性はその非化学量論な酸素組成によって顕著に変化する。これまでに二酸化チタン中の酸素原子は容易に脱離し酸化チタン(TiOX)相が生じること、そしてTiOX 相中では歪みや酸素空孔のために二酸化チタンとは異なる電子状態となることがマクロな分光計測とX 線分析によって明らかにされている。今回、我々は世界最高峰の空間分解能を有する球面収差補正透過電子顕微鏡を用いて、酸化チタン結晶中の酸素原子を捕捉した。従来の透過電子顕微鏡の空間分解能0.19nm を凌駕する0.119nm の空間分解を達成しrutile 型二酸化チタン中の酸素原子を直視観察することに成功した。図中には観察された酸素原子コラムが矢印で示されている。酸化チタン中の酸素原子コラムを視覚的に補足したのは本研究が世界で初めてである。さらに試料中に酸素とチタン原子がなす特異なジグザグ構造を観察した。シミュレーションとEELS を用いた組成分析の結果、その局所的な結晶構造は酸素欠陥に起因するマグネリ相であることを解明した。収差補正機を搭載した透過電子顕微鏡(TEM)は走査透過電子顕微鏡(STEM)と比べて、半導体試料に与える照射ダメージも少なく、80 万倍の超高倍率で安定した観察を行える。局所的な非化学量論組成の構造解析に非常に有効な解析法である。


(装置・撮影条件)透過電子顕微鏡・JEOL JEM-2100(CEOS Cs-corrector)

(出品者所属・氏名)JFCC ナノ研・吉田健太,佐藤幸生,種村榮 名大エコトピア・齋藤晃,田中信夫

(撮影者所属・氏名)JFCC ナノ研・吉田健太


<優秀賞>
大細孔径メソポーラス金属のTEMトモグラフィー

(写真の説明)

写真の説明:シリカを中心とするメソポーラス物質の合成においては、数nm~数十nm の幅広い範囲で細孔径の制御が可能である。一方、電気化学的な手法で合成されるメソポーラス金属の細孔径は、現在のところ3~4nm 程度に限られ、大きな分子のアクセスや物質拡散能の向上を実現するためには、更に大きな細孔径を有するメソポーラス金属が求められていた。本研究では、分子設計されたブロックコポリマーをテンプレートに用いて、精密な電解析出の制御のもと、今までにない大きなメソ細孔を有するメソポーラス白金の合成に成功した。この試料を回転させながらTEM によりHAADF(High-Angle-Annular-Dark-Field)-STEM 像を160 枚ほど撮影し、3 次元データとして構築させトモグラフィーを行った。ここに示すのは、コンピュータ上に3 次元データとして構築された3D-imaging と、任意の面でスライスした画像である。これらの結果、粒子内部まで10nmをこえる大きなメソ細孔が形成しており、またメソ細孔同士は小さなメソ細孔(Small window pores)で連結している新しい構造であることが明らかになった。従来2D-ヘキサゴナル構造しか得られていなかったメソポーラス金属の物質系を大きく広げる成果である。HAADF-STEM 像によるTEM トモグラフィーは初めての例であり、HAADF-STEM 像は金属ナノ構造の比較的内部まで情報が得られるため、この手法はメソポーラス金属の構造解析の手法として有効であることがわかった。

(装置・撮影条件)JEM-2100(日本電子)

(出品者所属・氏名)(物質・材料研究機構)山内悠輔 (早稲田大学)高井あずさ・黒田一幸

(撮影者所属・氏名)(物質・材料研究機構)山内悠輔


<優秀賞>大気圧ハライド気相成長法により作製したフラワー状InN

(写真の説明)

写真は大気圧ハライド気相成長法(AP-HCVD)により作製したフラワー構造を有するInN 結晶である。フラワー状構造を有する結晶は報告例が非常に少なく、学術的に興味深い。原料にはInCl3、NH3 を用い、それぞれN2 キャリアガスにより成長領域に供給した。フラワー構造を得るための条件は、成長温度が550℃でⅤ/Ⅲ比は50 とし、成長場におけるガスの流れも含め精密に制御する必要がある。フラワー状InN は中央の花柱を中心に6 枚の花弁により構成され、それぞれが単結晶である。また、花柱、花弁の先端には明確な6 つの結晶面が見られ、InN の安定構造が六方晶構造であることと一致する。これほど形状の整ったフラワー状結晶は他に例がない。また、本作品のSi(100)基板上のもの以外に􀁄-Al2O3 基板あるいはガラス基板などの様々な基板上で成長能であることから、特異な形状を生かして多方向発光素子などへの応用が期待される。

(装置・撮影条件):JEOL JSM-5510LV・12kV

(出品者所属・氏名)(静岡大学)坂元尚紀,杉浦永

(撮影者所属・氏名)(静岡大学)杉浦永


<優秀賞>
強弾性β’-Gd2(MoO4)3 結晶の特異な結晶成長

(写真の説明)

β’-Gd2(MoO4)3(以下GMO)は強誘電性、強弾性を持つ結晶として知られており、最近GMO 結晶が析出するガラスを見出した。溶融急冷法により作製した21.25Gd2O3-63.75MoO3-15B2O3 ガラスを結晶化ピーク温度(590°C)にて熱処理することにより結晶化させた。結晶粒の多くは写真のような筍状の特異な異方形状を持ち、偏光ラマンスペクトル測定により長手方向に沿って配向していることが確認された。偏光顕微鏡観察(a)により、この結晶粒には周期的なレタデーションの異なる領域が交互に存在していることが分かった。また、Q スイッチYAG レーザ(波長1064nm)を光源とした第二高調波(以下SHG)顕微鏡による観察においても鮮やかな緑色(532nm)のSHG が周期的に観察された(b)。GMO 結晶はGd サイトを各種希土類イオンで置換することが可能である。Gd を一部Sm に置換し、我々によって見出されたYAG レーザー照射による位置選択的結晶化を適用することで、ガラス基板上に幅3 μm ほどの結晶ラインパターン(c)を作製した。ラインパターンにおいても熱処理試料同様に周期的なレタデーションが観察され、一様な配向を有することを確認した。SHG を観察(d)したところ、偏光顕微鏡像でレタデーションがある部分においてSHG活性が強いことが分かる。この周期構造の原因については現在調査中であるが、GMO 結晶の常誘電‐強誘電相転移、自発歪などが起因してこのような周期構造が自己形成したものと考えられる。

(装置・撮影条件)

偏光顕微鏡(OLYMPUS BX51, UMPlanFl 40x, 検色板使用)
第二高調波顕微鏡(OLYMPUS IX71, 20x,
レーザー光源:Spectra-Phsics GCR-130)

(出品者所属・氏名)長岡技術科学大学 塚田雄太,本間剛,小松高行

(撮影者所属・氏名)長岡技術科学大学 塚田雄太


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