- 日本セラミックス協会学術写真賞入賞作品(2007)

第34回セラミックスに関する顕微鏡写真展  日本セラミックス協会学術写真賞入賞作品

<最優秀賞>
柱状WO3多結晶体上に担持したPt島状構造の観察

1

(写真の説明)WO3薄膜は可視光応答性を持つ光触媒として期待されおり,反応性DCマグマトロンスパッタ法を用いて特定条件下で作製すると幅100 nmの柱状結晶体で構成される膜構造を示す.その表面は高低差100~200 nmの凹凸を示し,高い比表面積を持つ.一方,光触媒表面への金属担持効果は多数報告されており,その担持金属の粒径サイズは数nm以下が望ましいとされている.そこで,我々は簡易スパッタ法によりWO3薄膜表面にPtを島状に成長させ(Volmer-Weber型結晶成長),Ptナノ粒子担持WO3薄膜を作製した.このPtナノ粒子の担持により,可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解活性が飛躍的に増加した.また,検証として透過電子顕微鏡観察によって,WO3薄膜表面上のPtナノ粒子の形態評価を行った.その結果,ナノ粒子は薄膜全表面を覆うように分散しており,かつ形成ナノ粒子径が1~3 nmであることを確認した.TEM試料作製においては,表面損傷の少ない加速電圧2 kV,照射角度5°のイオンミリング法で仕上げることで,WO3柱状結晶膜表面上のナノサイズのPt粒子の結着状態を鮮像に捉えた.
(装置・撮影条件)透過電子顕微鏡(日本電子製JEM-4010,加速電圧400 kV)
(出品者所属・氏名)(青山学院大学)村田亜紀代,中村新一,重里有三
(撮影者所属・氏名)(青山学院大学)村田亜紀代


<優秀賞>
水溶液法により作成したc軸配向酸化亜鉛ナノブランケット

(写真の説明)
写真は水溶液方法により作成したブランケット状構造を有する酸化亜鉛自立薄膜である.これまでにブランケット状構造を有する酸化亜鉛の集積体の報告例がなく,学術的にも応用の観点からも興味深い.この特徴的な自立膜の構造は,二段処理で制御した.第一段階では,酢酸亜鉛水和物をエタノール中に十分溶解し,基板にコーティングした後,350℃で熱処理行った.異なる熱膨張係数により基板から剥離した酸化亜鉛シード層が得られた.次に,硝酸亜鉛,ヘキサメチレンテトラミン,ポリエチレンイミンとの水溶液中において88℃で1時間,不均一核生成と成長を進めた.c軸配向成長した単結晶酸化亜鉛ウィスカーが酸化亜鉛のシードの全面に集積した.ウィスカーの長さや直径を成長時間や溶液濃度を変化させることにより容易に制御することができる.このブランケット状構造を有する酸化亜鉛ウィスカー自立膜が高い比表面積を示すことから,光触媒,太陽電池またはセンサーへの応用が期待される.
(装置・撮影条件)JEOL JSM-6335FM・5kV
(出品者所属・氏名)(産業技術総合研究所)胡 秀らん・増田佳丈・大司達樹・加藤一実
(撮影者所属・氏名)(産業技術総合研究所)胡 秀らん


<優秀賞>
静電相互作用を利用した集積複合粒子の創製

3

(写真の説明)粒子表面の静電相互作用を積極的に利用することで任意の集積構造を有する集積複合粒子を作製する手法に関して検討した.静電相互作用を利用した機能性材料の作製プロセスの一例として,正・負電荷を有する物質を交互に積層させナノ薄膜の積層体を作製する方法(交互吸着法)が良く知られている.我々は,この交互吸着法を応用し,粒子表面の電荷,および電荷密度を制御することで,静電相互作用により集積複合粒子を作製した.写真は,粒径の異なる二種類の単分散球状SiO2粒子(平均粒径1,及び,15.6 pm)をモデル粒子として用い集積複合粒子を作製した例である.それぞれのSiO2粒子表面に,あらかじめ,表面電荷を制御するため,二種類の高分子電解質(PDDA:Poly(diallyldimethyl anmoniumchloride),PSS:Poly(sodium 4-styrenesulfonate))を,それぞれ,複数回積層させ,異なる電荷を有し,十分な電荷密度を有するSiO2粒子を調製した(図中挿絵参照).その後,両者の混合することで,負の表面電荷を有する直径15.6 μmの粒子表面に,正の電荷をもつ1pmの粒子が選択的に静電吸着することで集積複合粒子が作製された((a)).更に,溶媒乾燥法により集積複合粒子から構成される規則集積体を作製した((b, c)).
  本集積粒子作製技術は,表面電荷を制御するだけであるため,球状粒子のみならず,ナノ粉末,ファイバー,ゾル,錯化合物など種類を選ばず適用可能であり,汎用性の高い技術であることから様々な応用が期待される.
(装置・撮影条件)超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡,日立S-4800,10 kV
(出品者所属・氏名)(豊橋技術科学大学)武藤浩行・三谷明洋・松田厚範・逆井基次
(撮影者所属・氏名)(豊橋技術科学大学)三谷明洋


<優秀賞>
磁性ナノ粒子アレイ膜中に形成された超強磁性ドメイン構造

4

(写真の説明)次世代の超高密度磁気記録材料として,磁性ナノ粒子を規則的に自己配列させた膜の特性に興味が持たれている.また,磁性物理学的にも各粒子が持つ磁気ダイポール相互作用により,どのような磁気構造を形成するかについて議論がなされている.例えば,粒子が規則的にfcc構造をもって配列すると,集団的に磁化ベクトルが揃った領域が出現しドメイン構造を形成すると予想されている.この現象は,超強磁性(or ダイポール強磁性)と呼ばれている.しかし,これまでそのドメイン構造は観察されておらず,その存在や振る舞いは不明であった.今回,我々は電子線ホログラフィーを用いて,初めて超強磁性の直接観察に成功し,その振る舞いを明らかにした.
  サイズの揃ったCo粒子(8 nm径)を液相法で生成し,カーボン膜上に自己配列させた単層アレイ膜を作製した.図(a)はその高倍TEM像である.各粒子は界面活性剤で覆われており,それがスペーサーの役割を果たしている.この試料を無磁場中で108 Kまで冷却した.図(b)は,低倍のTEM 像で,膜のエッジ付近を広範囲に撮影したものである.この領域でホログラフィー観察を行った磁束分布を図(c)に示す.ナノサイズである磁化ベクトルが集団挙動をもってある方向に向き,緩やかにその方向を変えていることがわかる.このボルテックスライクなドメインの大きさは10ミクロンを越える.定量的に解析した結果,各粒子が持つ磁化ベクトルは,ドメイン内ではふらつきながらある方向を向き,ウォール付近では同じ方向に勢ぞろいしていることがわかった.図(d)は,TEM 内で磁場を印加した後の像であり,ドメインが一斉にシフトしたことが観察される.総合的な結果から,超強磁性は図(e)のような磁気構造を形成していることが明らかになった.人工的に作った膜の磁気パターンが,宇宙の銀河を想像させるところが興味深い.
(装置・撮影条件)透過型電子顕微鏡(Philips CM 200),加速電圧:200 kV,位相増幅:5倍
(出品者所属・氏名)(JFCCナノ構造研究所)山本和生,加藤丈晴,平山 司 (カーネギーメロン大学)S.A. Majetich,S. Madhur (愛媛大学)山室佐益
(撮影者所属・氏名)(JFCCナノ構造研究所)山本和生


<優秀賞>
SrAl2O4系応力発光材に導入された面欠陥の透過型電子顕微鏡観察

5

(写真の説明)応力を負荷すると材料自体が発光する(応力発光)材料としてEu添加SrAl2O4(以下,SAOと記す)がある.応力発光には格子欠陥等の微細組織変化およびその応力負荷に伴う変化が関与していると考えられているが,その詳細は不明である.そのような観点から,SAOに外部エネルギーを導入した際の微細組織変化を明らかにすることは重要と考えられる.本作品は,電子線照射によるSAOの微細組織変化を捉えたものである.
  試料の薄膜化にはJEOL製イオンスライサEM-09100ISを用い,研磨等による加工ひずみの導入を防いだ.また,ULVAC製PLASMA CUBE C50-MKを用いて,薄膜化により生じたダメージ層を除去した.図(a)は照射量1.6 pA/cm2,照射時間3 minの条件で電子線を照射した後のHR-TEM像と[100]入射の電子回折図形を示している.矢印は双晶界面を示し,双晶内部の黒線は(010)面を示す.初期組織はくさび型の双晶(wedge twin)となっており,双晶内部に面欠陥が導入されていた.HR-TEM像をフーリエ変換により解析した結果,電子回折図形は[100]入射の電子回折図形を60=cd=bd32,120=cd=bd32もしくは180=cd=bd32回転させることで得られることがわかった.図(b)は,(a)と同一の視野に照射量1.6 pA//cm2,照射時間10minの条件で電子線を照射した後のHR-TEM像と電子回折図形である.Wedge twinの内部における面欠陥の密度が上昇しており,回折図形にストリークが生じていることが分かる.これは,SAOに外部エネルギーを与えると,面欠陥が導入されることを意味している.このことから,面欠陥の導入が応力発光に寄与していることが示唆された.
(装置・撮影条件)JEOL製 JEM-2000EX/T・加速電圧200 kV
(出品者所属・氏名)(九州大学)松尾 孟,池田賢一,波多 聰,中島英治 (産業技術総合研究所)山田浩志,徐 超男
(撮影者所属・氏名)(九州大学)松尾 孟


<優秀賞>
ZrO2正方-単斜相境界面における構造遷移層の原子直視観察

6

(写真の説明)我々は,膜厚を2-3 nmまで薄くすることで室温でも正方相を準安定化でき,正方-単斜二相共存組織を持つ平滑な超薄膜を形成できることを見出した[T. Kiguchi et al. Mater. Sci. Eng. B, 148, 30(2008)].正方-単斜相転移には巨大な歪みを伴うマルテンサイト変態であり,その相境界面には大きな歪みが蓄積されていると考えられる.本観察では,(001)Si基板上に[001]軸方向にエピタキシャル成長したZrO2超薄膜をSi基板側からバックエッチングした薄片試料を用いてPlan-view観察を行った.断面観察よりZrO2層は約2 nmであったので,イオンミリングによる薄膜のダメージを避けるため0.3 kVの低加速Arイオンビームで最終処理を行った.図(a)は正方/単斜相境界界面近傍における収差補正高分解能像であり,Multislice simulationから酸素副格子も明瞭に分解できていることを確認している.ここで,正方相から単斜相への構造変化を定量化するために,正方相及び単斜相[010]軸方向のZr-Zr原子間の紙面への投影距離を枠内の単位格子列に沿って原子コラムごとに計測した結果を図(b)に示す.なお,青は水色の枠内の単位格子列の上半分,緑は下半分に対応する.正方相内では一定な原子間距離(A)が,単斜層中ではB,Cにスプリットしている(A,B,Cの定義は図中に示した).ここで両相の境界領域に注目すると,正方相から単斜相へ向かって徐々に投影原子間距離が交互に伸縮して行く様子が分かる.この境界領域は単斜相3単位格子の長さに相当する約1.5 nmの幅を持つ構造遷移層であり,像の非局在化は見られず僅かな原子変位を定量化できた.計測誤差は約±0.005 nmであった.構造遷移層の成因としては,正方.単斜相転移では体積膨張を伴い,[010]軸方向には1.4%もの格子ミスマッチが生じるが,転位を導入せずに整合界面のまま歪みを緩和するために構造遷移層を形成したと考えられる.その内部ではZr原子が徐々に交互に逆向きに変位して単斜相へ構造変化している(図(c)).これは,正方相のBrillouin zone Γ点におけるEg1+Eg2ソフトモードの振動パターンに対応していることから,正方-単斜相転移におけるソフトモードのうちEg1+Eg2を反映した原子変位を示している.
(装置・撮影条件)TEM・TITAN80-300・300kV(FEI)Rose-Haider型収差補正装置・CETCOR(CEOS)
(出品者所属・氏名)(東北大学)木口賢紀,今野豊彦 (静岡大学)脇谷尚樹 (東京工業大学)篠崎和夫
(撮影者所属・氏名)(東北大学)木口賢紀


<優秀賞>
走査型非線形誘電率顕微鏡によるc軸配向Bi2O3添加ZnOセラミックスの局所的電気特性評価

7

(写真の説明)ZnOセラミックスの特性は微量不純物や粒界などの微構造に大きく依存することが知られている.デバイスとしてのさらなる信頼性向上や新しい材料の開発のためには微視的スケールでの電気的特性の分布の評価が重要である.上記の写真は,c軸配向させたBi2O3添加ZnOセラミックスを,走査型プローブ顕微鏡の走査型非線形誘電率顕微鏡(Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy, SNDM)モードを使用して観察したものである.この試料は,c軸に平行方向(紙面左右方向)の絶縁耐力と電気抵抗が垂直方向(紙面上下方向)と比較して高いことがわかっている.SNDMは,試料に交流電圧を印可しながら短針を走査した時のLC発振器の周波数変化から,試料表面近傍の非線形誘電率の変化を評価する装置である.半導体に適用することでpn型の判別とキャリア濃度像分布の評価が可能であるが,これまでSiのキャリア濃度分布表かなどに用いられているだけで,セラミックス半導体については適用されてこなかった.広域のSNDM像より,粒界にキャリア濃度が0に近い絶縁領域が存在していることがわかる.この領域は粒界の空乏層に対応すると考えられる.c軸方向に垂直な粒界の空乏層の厚さは平行方向のものと比較して大きく,絶縁耐力と電気抵抗の傾向と良く一致しており,c軸配向Bi2O3添加ZnOセラミックスの電気的特性の異方性を説明することができた.このようなSNDMによるセラミックス半導体の評価は,他の材料系にも適用が可能であり,物性発現メカニズムの解明や新規物質の開発などに大きく役立つものと期待される.
(装置・撮影条件)走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ・NanoNaviステーション,SPA-400).Rhコートカンチレバー,走査型非線形誘電率顕微鏡モード使用.
(出品者所属・氏名)(横浜国立大学)田崎智子,多々見純一,脇原 徹,米屋勝利 (産業技術総合研究所)岡上久美,杵鞭義明,渡利広司
(撮影者所属・氏名)(横浜国立大学)田崎智子


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