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第34回セラミックスに関する顕微鏡写真展 日本セラミックス協会学術写真賞入賞作品 <最優秀賞> (写真の説明)WO3薄膜は可視光応答性を持つ光触媒として期待されおり,反応性DCマグマトロンスパッタ法を用いて特定条件下で作製すると幅100 nmの柱状結晶体で構成される膜構造を示す.その表面は高低差100~200 nmの凹凸を示し,高い比表面積を持つ.一方,光触媒表面への金属担持効果は多数報告されており,その担持金属の粒径サイズは数nm以下が望ましいとされている.そこで,我々は簡易スパッタ法によりWO3薄膜表面にPtを島状に成長させ(Volmer-Weber型結晶成長),Ptナノ粒子担持WO3薄膜を作製した.このPtナノ粒子の担持により,可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解活性が飛躍的に増加した.また,検証として透過電子顕微鏡観察によって,WO3薄膜表面上のPtナノ粒子の形態評価を行った.その結果,ナノ粒子は薄膜全表面を覆うように分散しており,かつ形成ナノ粒子径が1~3 nmであることを確認した.TEM試料作製においては,表面損傷の少ない加速電圧2 kV,照射角度5°のイオンミリング法で仕上げることで,WO3柱状結晶膜表面上のナノサイズのPt粒子の結着状態を鮮像に捉えた. <優秀賞> (写真の説明) <優秀賞> (写真の説明)粒子表面の静電相互作用を積極的に利用することで任意の集積構造を有する集積複合粒子を作製する手法に関して検討した.静電相互作用を利用した機能性材料の作製プロセスの一例として,正・負電荷を有する物質を交互に積層させナノ薄膜の積層体を作製する方法(交互吸着法)が良く知られている.我々は,この交互吸着法を応用し,粒子表面の電荷,および電荷密度を制御することで,静電相互作用により集積複合粒子を作製した.写真は,粒径の異なる二種類の単分散球状SiO2粒子(平均粒径1,及び,15.6 pm)をモデル粒子として用い集積複合粒子を作製した例である.それぞれのSiO2粒子表面に,あらかじめ,表面電荷を制御するため,二種類の高分子電解質(PDDA:Poly(diallyldimethyl anmoniumchloride),PSS:Poly(sodium 4-styrenesulfonate))を,それぞれ,複数回積層させ,異なる電荷を有し,十分な電荷密度を有するSiO2粒子を調製した(図中挿絵参照).その後,両者の混合することで,負の表面電荷を有する直径15.6 μmの粒子表面に,正の電荷をもつ1pmの粒子が選択的に静電吸着することで集積複合粒子が作製された((a)).更に,溶媒乾燥法により集積複合粒子から構成される規則集積体を作製した((b, c)). <優秀賞> (写真の説明)次世代の超高密度磁気記録材料として,磁性ナノ粒子を規則的に自己配列させた膜の特性に興味が持たれている.また,磁性物理学的にも各粒子が持つ磁気ダイポール相互作用により,どのような磁気構造を形成するかについて議論がなされている.例えば,粒子が規則的にfcc構造をもって配列すると,集団的に磁化ベクトルが揃った領域が出現しドメイン構造を形成すると予想されている.この現象は,超強磁性(or ダイポール強磁性)と呼ばれている.しかし,これまでそのドメイン構造は観察されておらず,その存在や振る舞いは不明であった.今回,我々は電子線ホログラフィーを用いて,初めて超強磁性の直接観察に成功し,その振る舞いを明らかにした. <優秀賞> (写真の説明)応力を負荷すると材料自体が発光する(応力発光)材料としてEu添加SrAl2O4(以下,SAOと記す)がある.応力発光には格子欠陥等の微細組織変化およびその応力負荷に伴う変化が関与していると考えられているが,その詳細は不明である.そのような観点から,SAOに外部エネルギーを導入した際の微細組織変化を明らかにすることは重要と考えられる.本作品は,電子線照射によるSAOの微細組織変化を捉えたものである. <優秀賞> (写真の説明)我々は,膜厚を2-3 nmまで薄くすることで室温でも正方相を準安定化でき,正方-単斜二相共存組織を持つ平滑な超薄膜を形成できることを見出した[T. Kiguchi et al. Mater. Sci. Eng. B, 148, 30(2008)].正方-単斜相転移には巨大な歪みを伴うマルテンサイト変態であり,その相境界面には大きな歪みが蓄積されていると考えられる.本観察では,(001)Si基板上に[001]軸方向にエピタキシャル成長したZrO2超薄膜をSi基板側からバックエッチングした薄片試料を用いてPlan-view観察を行った.断面観察よりZrO2層は約2 nmであったので,イオンミリングによる薄膜のダメージを避けるため0.3 kVの低加速Arイオンビームで最終処理を行った.図(a)は正方/単斜相境界界面近傍における収差補正高分解能像であり,Multislice simulationから酸素副格子も明瞭に分解できていることを確認している.ここで,正方相から単斜相への構造変化を定量化するために,正方相及び単斜相[010]軸方向のZr-Zr原子間の紙面への投影距離を枠内の単位格子列に沿って原子コラムごとに計測した結果を図(b)に示す.なお,青は水色の枠内の単位格子列の上半分,緑は下半分に対応する.正方相内では一定な原子間距離(A)が,単斜層中ではB,Cにスプリットしている(A,B,Cの定義は図中に示した).ここで両相の境界領域に注目すると,正方相から単斜相へ向かって徐々に投影原子間距離が交互に伸縮して行く様子が分かる.この境界領域は単斜相3単位格子の長さに相当する約1.5 nmの幅を持つ構造遷移層であり,像の非局在化は見られず僅かな原子変位を定量化できた.計測誤差は約±0.005 nmであった.構造遷移層の成因としては,正方.単斜相転移では体積膨張を伴い,[010]軸方向には1.4%もの格子ミスマッチが生じるが,転位を導入せずに整合界面のまま歪みを緩和するために構造遷移層を形成したと考えられる.その内部ではZr原子が徐々に交互に逆向きに変位して単斜相へ構造変化している(図(c)).これは,正方相のBrillouin zone Γ点におけるEg1+Eg2ソフトモードの振動パターンに対応していることから,正方-単斜相転移におけるソフトモードのうちEg1+Eg2を反映した原子変位を示している. <優秀賞> (写真の説明)ZnOセラミックスの特性は微量不純物や粒界などの微構造に大きく依存することが知られている.デバイスとしてのさらなる信頼性向上や新しい材料の開発のためには微視的スケールでの電気的特性の分布の評価が重要である.上記の写真は,c軸配向させたBi2O3添加ZnOセラミックスを,走査型プローブ顕微鏡の走査型非線形誘電率顕微鏡(Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy, SNDM)モードを使用して観察したものである.この試料は,c軸に平行方向(紙面左右方向)の絶縁耐力と電気抵抗が垂直方向(紙面上下方向)と比較して高いことがわかっている.SNDMは,試料に交流電圧を印可しながら短針を走査した時のLC発振器の周波数変化から,試料表面近傍の非線形誘電率の変化を評価する装置である.半導体に適用することでpn型の判別とキャリア濃度像分布の評価が可能であるが,これまでSiのキャリア濃度分布表かなどに用いられているだけで,セラミックス半導体については適用されてこなかった.広域のSNDM像より,粒界にキャリア濃度が0に近い絶縁領域が存在していることがわかる.この領域は粒界の空乏層に対応すると考えられる.c軸方向に垂直な粒界の空乏層の厚さは平行方向のものと比較して大きく,絶縁耐力と電気抵抗の傾向と良く一致しており,c軸配向Bi2O3添加ZnOセラミックスの電気的特性の異方性を説明することができた.このようなSNDMによるセラミックス半導体の評価は,他の材料系にも適用が可能であり,物性発現メカニズムの解明や新規物質の開発などに大きく役立つものと期待される. |