『21世紀に向けたセラミックスの研究開発について』
平成11年3月 日本学術会議無機材料専門委員会
目 次 【参考資料】セラミックスの分野別研究の方向と課題 わが国のセラミックスの科学技術は、戦後の産業構造の変化に対応して、大きく変貌し、産官学の国をあげての取り組みにより、学術的にも産業的にも世界の最先端のレベルまでに進歩した。しかしながら、最近我が国を取り巻く社会情勢は大きく変化し、従来の産業振興のための材料研究から、地球環境、福祉、国際性などを考慮に入れた材料研究への変換が必要になってきている。 日本学術会議においては、無機材料に関する研究の連絡を図り、学術の発展に貢献するため、第16期の材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会に引き続き、第17期においても物質創製工学研究連絡委員会無機材料専門委員会が設置され、活動してきている。第16期の専門委員会では、わが国のセラミックスに関する唯一の総合的学協会である日本セラミックス協会のビジョン委員会の協力を得て、セラミックスの科学技術の現状と研究開発の推進について調査研究を行い、平成9年に中間報告書を作成した。 一方、行政改革による中央省庁の再編に伴い、国立研究所は独立行政法人化し、国立大学の独立行政法人化を中心とした改変も進行中であり、無機材料の研究を進めてきた研究組織も新しい時代を迎えようとしている。このような情勢下で、材料の大きな柱の一つであるセラミックスの科学技術をさらに発展させるためには、これまでのセラミックスの科学技術を見直し、21世紀へ向けて研究開発の方向を探っておく必要があった。そこで、第17期の専門委員会では、上記中間報告をもとにセラミックスに関する日本学術会議対外報告書(案)を作成したが、それを公表するに先立ち、この対外報告書(案)を委員会報告として配布し、セラミックス関係者の意見を広く聴取することとした。従って、改訂前の委員会報告書は、日本学術会議対外報告類似の形態となっている。しかしながら、後半の各分野の研究開発の動向と将来展望は、日本セラミックス協会の各部会に対応する形となっている。この報告書が協会会員のみならず広くセラミックス関係者に読まれることを期待している。 報告書では、まず、セラミックスの科学技術、産業をとりまく環境を分析して、セラミックスの現状と問題点について、産業界、研究、教育の現状を詳述している。次に、無機材料の科学技術の研究分野として、セラミックスの基礎科学、新エネルギー対応材料、電子・情報分野の材料、生体関連材料、環境の保全と改善についての5分野について問題点の提示と今後注力していく重要性を述べている。さらに、今後望まれる研究開発と人材育成のために施策として、無機材料に関する底辺の拡大、高等教育の充実、セラミックス博物館設立の提案、留学生教育などの具体的な政策を提示するとともに、学協会活動への公的支援の重要性を強調している。引き続いて、セラミックスの各分野における国内外の研究・技術の動向、必要とされる科学技術、具体的研究課題と方策ならびにその波及効果に関する調査結果を参考資料として示している。 報告書の作成後、省庁の統廃合や、米国の科学技術政策の策定、平成13年3月には総合科学技術会議より、科学技術基本計画が提示などの大きな動きがあった。この計画によると、今後は4分野、すなわち、バイオ、情報、環境、ナノテクノロジー・材料、に重点をおくことが公表された。基本的には報告書はこれらの4分野について十分記述されているが、これらの科学技術政策の変化に対応したセラミックス研究ビジョンの改訂の必要があり、本改訂版の作成に至った。
ガラス、セメント、陶磁器、耐火物を中心とする伝統的窯業製品は、現在でもその生産量や用途から見て、金属材料、有機材料とともに3大素材を構成する無機材料の主要な部分を占めている。窯業製品は日用品や芸術品として古くから我が国の代表的輸出品の一つとして知られていたものであるが、第2次世界大戦後の高度成長期にこれらの伝統的製品が基礎素材として我が国産業の発展に大きく貢献したことはいうまでもない。その後、我が国の産業構造は重厚長大型から高付加価値を生み出す型に移行したが、この産業構造の変化は全ての材料関連の学術と産業に大きな影響を与えた。この科学技術、産業の急激な発展の時期におけるファインセラミックスの登場により、セラミックスの学術と産業は大きな変貌を遂げた。特にファインセラミックスが国家プロジェクトとして採り上げられ、産・官・学が一体となってその研究開発の推進に当たり、多大な成果を挙げたが、さらに、この国をあげての取り組みは、我が国のセラミックスの科学技術全般を飛躍的に進展させ、今や我が国のセラミックスを学術的にも産業的にも世界の最先端のレベルまでに進歩させた。これらの発展の状況と期待については、第14期日本学術会議材料研究連絡委員会セラミックス分科会の報告書「セラミックス研究の最先端とその未来予測」、および第15期日本学術会議材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会の報告書「無機材料における微視的制御」に記載されている。 しかし、近年我が国の科学技術を取り巻く状況はさらに大きく変化し、単に産業空洞化対策としての科学技術から、地球環境、福祉、国際性などの視点に立って、その転換を図らねばならない時機に立ち至っており、この時期においてセラミックスの科学技術をもう一度綿密に見直して、21世紀へ向けての一層の発展を期すべきと思われる。そこで、第16期日本学術会議材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会では、無機材料として主要な位置を占めるセラミックスの重要性に鑑み、日本セラミックス協会ビジョン委員会の協力を得て、その科学技術の現状と研究開発の推進について調査研究を行った。その結果は第16期の材料工学研究連絡委員会において審議されたあと、内部資料の中間報告として纏められた。 一方、平成8年7月2日に科学技術基本計画が策定され、我が国としての新たな研究開発システムの構築に向けた総合的、計画的施策が急速に展開されるようになった。その結果、セラミックスと関係する物質材料系研究開発についても、広範多岐にわたるニーズを背景に、各省庁において様々な研究開発が活発に進められるようになった。例えば、科学技術会議政策委員会研究開発基本計画等フォローアップ委員会(物質・材料系科学技術)の報告書には、既存の限界を越えた高性能・新機能物質や材料の研究開発を推進する積極的な対応に対する期待が述べられており、科学技術振興調整費や創造科学技術推進制度、国際共同研究事業、産業科学技術研究開発制度などによって幾つかの具体的な研究課題が実施されている。これらにより、先の中間報告書に盛り込まれた研究開発推進のための方策の幾つかは実現の方向に進んでいるものの、我が国が技術立国としての地位を確立するためには、これらをより積極的に進める必要がある。 さらに、我が国の科学・技術の発展に中核的な役割を担ってきた組織についても、行政改革における中央省庁の再編に伴い大きな変動が起こっている。平成13年1月には、経済産業省、文部科学省が発足し、4月に国立研究機関は独立法人化した。伝統的セラミックスの技術開発で中心的役割を果たした通産省工業技術院の技術試験所やそれを受け継いだ技術研究所は産業技術総合研究所に、セラミックスの先進的な研究を行ってきた科学技術庁無機材質研究所は物質・材料研究機構として活動を開始した。また、国立大学についても大学改革の一環として法人化が検討されており、2003年までに結論を出すことになっている。これらの最近の情勢を考えると、我が国の無機材料の研究開発について従来の伝統的な分野や既存の組織を越えて総合的に見直し、将来の発展につなげる時期に来ているといえる。 このような将来展望には、現状の認識と問題点の整理、および今後の研究課題と具体的方策を知ることが不可欠である。この観点から、第16期に作成された中間報告は、セラミックスを主な対称としているものの、我が国の無機材料の今後の研究開発の方向を僻撤的な視野に立って見極めるための基礎資料として極めて有用である。そこで、本無機材料専門委員会として、第16期の材料工学研究連絡委員会無機材料工学専門委員会で作成された中間報告に加筆・訂正を行い、「21世紀に向けた無機材料の研究開発について-セラミックスの現状と研究開発の推進-」として改めて公表した。しかし、報告書の作成後、米国の科学技術政策の策定などがあり、平成13年3月には総合科学技術会議より、科学技術基本計画が提示などの大きな動きがあった。計画によると今後重点をおく4分野、すなわち、バイオ、情報、環境、ナノテクノロジー・材料、が公表された。基本的には報告書はこれらの4分野について十分記述されているが、これらの科学技術政策の変化に対応したセラミックス研究ビジョンを改訂する必要があり、本改訂版を作成した。今後の議論や施策の策定に際して本報告書が有効な指針となれば幸甚である。
平成13年3月には総合科学技術会議より、科学技術基本計画が提示され、今後重点をおく4分野、すなわち、バイオ、情報、環境、ナノテクノロジー・材料、について以下のように述べられている。すなわち、 「経済や産業の活性化により持続的に発展を遂げていくため、また、国民が安心して安全な生活を送るためには、重点分野に積極的、戦略的に投資を行い、研究開発の推進を図らねばならない。重点化の方針としては、我が国が目指すべき国の姿の実現に向けて必要となる科学技術分野の中から
等について、特に寄与の大きいものを評価し [1]少子高齢化社会における疾病の予防・治療や食料問題の解決に寄与するライフサイエンス分野 [2]急速に進展し、高度情報通信社会の構築と情報通信産業やハイテク産業の拡大に直結する情報通信分野 [3]人の健康の維持や生活環境の保全に加え、人類の生存基盤の維持に不可欠な環境分野 [4]広範な分野に大きな波及効果を及ぼす基盤であり、我が国が優勢であるナノテクノロジー・材料分野 の4分野に対して、特に重点を置き、優先的に研究開発資源を配分することとする。 また、科学技術の発展が急速であり、かつ知識が細分化されてきている中で、新しい科学技術は異なる分野の手法や考え方の間の触発や融合の中から生まれることが多いので、研究開発の推進に当たって、境界領域や異分野の融合領域に特に留意する必要がある。 特に、 ナノテクノロジー・材料分野については以下のように述べられている。ナノテクノロジー・材料分野は、上記3分野を含め、広範な科学技術分野の飛躍的な発展の基盤を支える重要分野であるとともに、特にナノテクノロジーは、21世紀においてあらゆる科学技術の基幹をなすものとして期待される。 ○ナノテクノロジー ナノテクノロジーは、情報通信、環境、ライフサイエンス、材料等広範な分野にわたる融合的かつ総合的な科学技術であり、ナノ(10億分の1)メートルのオーダーで原子・分子を操作・制御すること等により、ナノサイズ特有の物質特性等を利用して全く新しい機能を発現させ、科学技術の新たな領域を切り拓くとともに、幅広い産業の技術革新を先導する物である。ナノテクノロジーの活用により、情報通信、エネルギー、バイオテクノロジー、医療などに新しい材料、デバイス、革新的システム等を提供することが可能になる。 ナノテクノロジーの研究開発水準については、我が国は欧米と対等ないしリードしているが、米国等諸外国の国策的取り組みが急速に進みつつある。このため、我が国における産学官の英知を結集した戦略的取り組みが急務である。ナノテクノロジーの具体的課題としては、例えば、ナノレベルで物質構造等を制御することで、超高強度化、超計量化、超高効率発光等の革新的機能を有するナノ物質・材料、超微細化技術や量子効果の活用等により、次世代超高速通信、超高速情報処理を実現するナノ情報デバイス、体内の患部に極小のシステムを直接送達し、診断・治療する医療技術、様々な生物現象をナノメートルレベルで観察し、そのメカニズムを活用し制御するナノバイオロジーなどの研究開発が挙げられる。 ナノテクノロジーの推進に当たっては、基礎的・先導的な研究開発と産業化を視野に入れた研究開発をバランス良く、かつ重点的に推進することが重要である。また、異分野間や研究者間の融合及び情報交換を促進する研究ネットワークの構築や新たな融合領域における人材養成等が重要である。 ○物質・材料 物質・材料の研究水準については、我が国は、既存材料技術では欧米より優勢である。物質・材料は、広範な分野での飛躍的発展の鍵を握るという意味において重要であり、かつ、これまで我が国は高い研究開発水準を維持してきており、今後とも重点的投資を行うことにより積極的に研究開発を進め、世界に先駆け技術革新を先導していくこととする。
等の推進に重点を置く。 なお、材料は、使われてこそその進化を発揮するものであり、研究者の生み出すシーズが利用者側のニーズに的確に応えるものとなるように十分配慮しつつ研究開発を推進する。またシミュレーション技術等の情報通信技術との融合による革新的材料開発、国際標準化の促進、知的基盤の従事湯、環境・安全等の総合的評価技術等の確立に取り組む。 材料技術の推進に当たっては、国は、基礎的・先導的な研究開発や産業化をも視野に入れた基盤的技術の研究開発といった、市場原理のみでは戦略的、効果的に達成し得ない領域の研究開発を重点的推進する。 上記4分野以外にエネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアの4分野があるが、これらの分野においても、国の存立にとって基盤的であり、国として取り組むことが不可欠な領域を重視して研究開発を推進する。 セラミックスとは高温反応や化学反応を利用して合成された非金属無機固体材料である。その内容は伝統的には天然の粘土、けい砂、石灰石、石墨等を原料として製造した陶磁器、耐火物、研削材、セメント、ガラス、炭素等からなっていた。科学技術の進歩とともに多様な元素が取り込まれ、出発物質の厳密な調製と焼成条件の選択により材料組織の制御技術が開発されてきた。その結果、ファインセラミックスやニューガラスと呼ばれる一群の高性能な機能材料が得られるようになった。更にセラミックスと金属や有機高分子との複合化により、関連する材料の範囲は拡大しつつある。 セラミックスは本来物性的に耐熱性、耐久性に優れ、安定な代表的材料である.最近の研究の進展に伴い、断熱材から熱の良導体、電気の絶縁体から超電導体、透明から不透明までの相反する性質の材料が開発され、衣食住の生活関連、土木建築、電気・電子、情報・通信、機械部品・工具、原子力、医用材料と非常に広い分野において使われ、それぞれの製品や設備の機能を支配する重要な材料となっている。また、セラミックスは化学組成、構造・組織において多様であり、今後とも新規な特性の発見される可能性が非常に高く、科学技術立国を目指す我が国においてセラミックスに対する期待はきわめて大きい。 このセラミックスを取り巻く環境も変化しつつある。人口の増加、経済活動の活発化によって、有限の地球における人間の収容能力及びその活動の範囲は次第に限界に近づいてきている。セラミックスの製造においては、原料鉱物の採取から製造、消費、廃棄に至るまでの過程で地球環境に与える負荷が高く、エネルギー多消費産業であって炭酸ガス発生量も多い。一方、セメントのように他産業の廃棄物の処理を製造プロセスに組み込み、環境浄化に貢献している分野もある。セラミックスにおいても、今後は省エネルギー、リサイクル、廃棄物の有効活用等に一般市民も巻き込んだシステムの中で、より真剣に取り組まねばならなくなっている。また、廃ガスの浄化用触媒、廃液処理用フィルタなど無機材料に適した応用範囲は広く、環境保全材料としての重要度は今後一層増してくる。 社会環境に関する問題では、急速な科学の進歩と生活への利便性、技術内容の超高度化が日常の機械装置の仕組みをブラックボックス化してきたため、社会人さらには中学生・高校生の理科離れという現象を引き起こしている。このことは将来の技術者の減少につながり、我が国の貴重な財産である“技術力”の低下が懸念されている。また高度の工業化に伴う技術者の増加は技術者の地位の相対的低下を招いた。今後若者の技術者への憧れを増大させるには、技術者の社会的地位の向上を図ることが重要である。 技術の国際化もセラミックスを取り巻く環境における重要な課題である。米国セラミック学会は積極的な海外戦略を展開している。ヨーロッパはヨーロッパセラミック学会を作り、ECのセラミックスの飛躍的発展を狙っている。アジアでは、産業のアジア地区への移転の進展、アジア地域の技術力の向上がめざましい。これに伴い、今後のアジア地区の指導者の養成について、米国などの先進国はアジアへの接近を精力的に進めて、主導的立場を強化しつつあることに注意を払うべきである。日本セラミックス協会は1998年9月の韓国における「PacRim3」において「アジアセラミックス連盟」の構想を各国に打診している。またこの構想の実現を促進するため、平成13年9月、日本セラミックス協会21世紀記念行事の一環として、中国、韓国、台湾、オーストラリア各地域のセラミックス関係学協会の代表を招待し、相互友好協力協定の調印式を行った。 技術の事実上の世界標準(defacto-Standard)の進展も注目すべき問題である。我が国はセラミックス電子部品の世界への供給基地となっている。この優位性を活用し、電子部品のみならず先端的セラミックス全般について、国際規格における主導的立場を確立する必要がある。 我が国のセラミックスは、歴史的には焼物から始まり、多くの人々に愛用される貴重な日用品として作られてきた。しかし、今日我々が身近に接する耐火物、研削材、衛生陶器、碍子、板ガラス、各種ガラス製品、セメントのような現代の生活や各種の産業を支える材料としてのセラミックスは欧米諸国からもたらされ、明治時代に工業生産が始まったものである。その後、我が国のセラミックス産業は歴史と伝統に育まれ、しかも絶えまぬ研究開発の成果も加わって、順調に力をつけ、今やその全ての分野で世界のトップクラスの生産量を誇るに至っている。そしてセラミックスは国民の生活と産業の中に深く根を下ろしているばかりでなく、雇用の面でも大きな貢献をしてきた。 セラミックス産業の統計は、耐火物、セメント、ガラス、陶磁器、炭素製品等の窯業製品とファインセラミックスに分かれているが、平成11年における製品出荷額は、窯業製品で8.8兆円、ファインセラミックスで1.1兆円、計9.9兆円である。窯業製品出荷額は、日本経済の低迷の影響を受け、平成8年以降減少しているが、ファインセラミックスは平成8年に比し平成11年は約6%増となっている。製造業全体に占める割合は3.4%(9.9兆円/291.5兆円)である。平成11年におけるセラミックスの事業所数は17,764で、製造業全体の事業所数345,457に対して5.1%であり,その従業員数は37.3万人で製造業全体937.8万人の4.0%であった。出荷額は全体としては、日本経済低迷の影響を受けているが、ファインセラミックス製品は伸びており、また全体として高機能製品への移行が進行し、製品や事業内容の変化が激しい。 セラミックスのうち、近年進展の著しいファインセラミックスについてみると、日本ファインセラミックス協会の産業動向調査によれば、ファインセラミックス部材の生産額は、平成11年において17,697億円である。そのうち70.5%(12,473億円)を占めているのは電磁気・光学用部材で、機械的部材に属するものは11.9%の2,114億円、熱的部材・原子力関連部材が7.1%の1,261億円、その他化学用・医療用部材などが10.5%の1,850億円である。機械的部材の80%を占めるのが工具・高硬度部材であって、これらはWC、サーメット、酸化物セラミックス、ダイヤモンド、CBNもしくはこれらにコーティングを施した工具類等である。 なお、近年登場して産業的に重要な役割を果たしている主なセラミックスの開発製品を見ると、フェライト、圧電体、カラーCRT、固体レーザー、鉄鋼用マグネシアカーボン煉瓦、自動車排気ガス浄化用のハニカム触媒担体、合成石英ガラス、透光性アルミナ、ITO透明導電膜、炭素繊維、光ファイバー、高温超伝導体、新種スパークプラグ、酸素センサー、高周波誘電体、生体活性セラミックスがあげられる。このうちには我が国が独自に開発したものも少なくない。 セラミックス産業における生産技術の大きな流れを見ると、その初期には経験と技能に支えられた製造技術が支配的であった。高度成長時代へ入ると自動化を取り入れて労働力への依存を減らし、低コストの部品の大量生産技術が確立された。石油危機は省エネルギー対策によって乗り切り、現在では生産技術に加えて製品設計にも着目し、その機能の多様化と高信頼性化に重点をおく時代となっている。 セラミックスに関連する研究者は、多くの学術団体に所属しているが、この分野の日本における最大の学術団体である(社)日本セラミックス協会の普通会員数の推移をみると、平成10年度5,164人、同11年度4,981人、同12年度4,795人、平成13年度4,614人(平成14年2月末現在)となっている。会員の構成については大学1,040人、独立行政法人をふくむ公立研究機関570人、その他主に企業関係3,004人である。 セラミックスの研究は、これに携わる大学、公的研究機関、民間研究所等のいわゆる研究実施機関の成果に負っている。セラミックスについての公的研究機関としては大学の他に、科学技術庁の無機材質研究所、通産省の物質工学工業技術研究所、電子技術総合研究所、産業技術融合領域研究所、名古屋工業技術研究所、大阪工業技術研究所、九州工業技術研究所をはじめとする多くの工業技術研究所があったが、平成13年4月には、経済産業省、文部科学省になり、前述の国立研究機関は、独立法人化して、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構に大きく変わった。また、第三セクターのファインセラミックスセンターがあり、それぞれ重要な役割を果たしている。また地域の公立研究機関は地場産業の育成と転換に貢献している。 平成13年版科学技術白書によれば、我が国の研究費の総額は平成11年度では16.1兆円と、GDPの3.12%を占め、民間負担が78%、国の負担が22%である。研究費の総額は平成10年に比し0.8%減となり、5年ぶりの減少となった。また、総務庁統計局「科学技術研究調査報告」によれば平成11年度の窯業関連企業の総研究費は1,836億円、研究者数8,994人である。しかしこの数値には電気機械、金属、あるいは化学関連の企業の無機材料に関する研究費は含まれていないので、実際には相当多いと思われる。この総研究開発費は民間全体の研究費の1.7%で、研究者一人当たりの研究費は全産業の平均値に比し、約400万円(15%)少ない。 無機材料にかかわる大学の学科・講座・分野を日本セラミックス協会会員の所属機関から調査した結果、大学・大学校総数は51校、これらに所属する学科・講座・分野数は366であった。これらの学科・講座は次の5系列に分類できる。 1.総合的な系列 2.基礎的な系列 3.材料・物質を中心とした系列 4.応用を中心とした系列 5.その他の系列 全体的には、工業化学系と材料物性工学系を基本とする1~3が主であるが、セラミックスの応用の広がりとともに精密構造材料、エレクトロニクス機能、生体機能に主体を置いた講座や分野、さらには地球環境やエネルギー、資源のような工学の進歩に伴い、これらと融合した無機材料関連の講座や分野も設立されつつある。 我が国のセラミックスが現在世界において先導的地位にあることは、このような広範な教育環境に支えられているためといってもよい。今後ともこれまでの我が国の知的財産である「技術力」を維持していくことが望まれる。大学における無機材料の教育あるいは研究が分化するにつれて、基礎的なカリキュラムとは何か、またその修学の程度はどの程度か、あるいは問題解決聴力はあるレベル以上にあるかというような基準が必要となろう。 最近の「理科離れ」現象から生じる理系志望学生の減少は、華やかなソフトやエレクトロニクス関係はともかく、「物造り」の材料分野への志望の減少をもたらしている。小中学校教育において材料に対する適切な考え方を導入することが重要である。 また、近年国際的な傾向として、技術者の資格PEの制度化がクローズアップしつつある。産業技術について国境の垣根が低くなりつつある今日、本件は検討に値する重要な問題である。これに対応し平成11年「日本技術者教育認定機構(JABEE)」が設立された。日本セラミックス協会も平成12年6月、JABEEに加盟し、教育委員会を中心に、セラミックスが関係する化学分野、材料分野及び応用物理分野の分野別要件の策定に関与し、審査員養成を進めている。しかし「材料技術士」の資格がないために、「化学」の中に組み込まれかちであり、「材料屋」の独り立ちが強く望まれる。 セラミックスは結晶質材料と非結晶質材料に分類できる。このうち結晶質材料の機能は、組成、構造、組織、形態に依存している。すなわち、材料における、主構成結晶の結晶構造の探索・決定、主成分から超微量成分に至る組成の制御と、ナノメートルから数ミリの規模に至る組織の制御が特性発現の基礎となっている。このための材料創製のプロセッシングが研究の主題である。また、今後はセラミックス単独での材料化に留まらず、無機・有機ハイブリッド、無機・金属融合材料による、機能融合が重要となろう。そのためには、セラミックスの研究分野ばかりでなく、有機材料や金属材料の分野との強い連携がとれるような体制が必要となるであろう。また、この広領域にわたる材料開発が可能となる融合材料研究の推進とそのための組織化を検討することも必要であろう。 セラミックスの今後の研究の動向を考えてみると、材料自体の設計に研究の先端が移るように思われる。光通信のような新しい用途に最も適した物性を備えた材料を分子設計し、理論的に決定された組成と構造・組織を備えた材料を気相、液相からの薄膜技術等を駆使して合成し、これをデバイス化する時代が遠からず到来するものと思われる。目標とされるのは、特性が正確に制御された電子セラミックス、選択機能が高く高感度なセンシング材料、自らの欠陥・傷を探知し、自己修復するような高信頼性の複合材料など、高度の機能を備えたインテリジェントセラミックスである。 いうまでもなく、セラミックスの組成と組織は複雑であって、目標とする物性と構造とを結びつける理論はまだ未熟であるが、高分子材料や電子材料を対象としたコンピューター科学が発展しており、セラミックスの分野にも適用できる環境が次第に整ってきている。希望する特性をもった材料を原子レベルから造り上げることは、材料研究者の目指す方向である。セラミックスにおいてもこれを実現する曙光が見えてきたのであるから、その実現のために一致して努力すべきであろう。 従来のセラミックス研究の流れを発展させたものとして、有機・無機、無機・金属、または有機・無機・金属ハイブリッド物質の創製研究が台頭しつつある。原子・分子レベルからミクロンオーダーでのハイブリッド物質の創製とその機能の研究は過去においても検討されてはきた。しかし、ゾルーゲル法、CVD法、プラズマ法、アトムマニュピレーション等の最近の合成法、構造制御法の高度化と測定、計測技術の高精度化に支えられ、有機ポリマー・無機、有機分子・無機、生体・無機、金属・無機等の新ハイブリッド物質が出現している。これらのハイブリッド物質の形態、構造・組織は、バルク、薄膜、微粒子として、また界面、表面において重要な役割を果たし、多種多様である。プロセスと機能の種類もそれに劣らず多い。物質創製工学研究の視点から21世紀において予想される新潮流であろう。 セラミックスの将来に向けたもう一つのキーワードは、「地球環境への貢献」であろう。二酸化炭素の増大による温暖化、フロンによるオゾン層破壊、酸性雨、森林破壊、砂漠化、海洋汚染などなど、地球環境保護のための問題提起が急激に多様化している。これは地球を守ろうとする人類の自覚の現れである。セラミックス産業は天然の原料を多量に必要としていること、高温の熱処理が不可欠であることから、環境に影響を与えていることは否定できない。公害物質の放出を減らすための努力はもちろん必要であるが、むしろ積極的にセラミックス部品を利用した新エネルギー、省エネルギー、省資源技術、さらにCO2、NOx、SOxの固定化、PCB、ダイオキシン、フロン等の有機ハロゲン化合物の分解・無害化、放射性廃棄物の固定化など、新しい公害除去・防御技術の開発を行うことがより重要であり、これが地球環境への大きい貢献をもたらすものと期待される。 研究の実施について考えると、セラミックスの製造プロセスに関する技術では日本はトップランナーとしての地位を得ている。従来これを支えた我が国の研究はどちらかというと部分的課題の深化した研究によることが多かった。しかし、全体をシステムの観点から眺めてみると、これらの個々の技術を統合・デザインして生かし得るコンセプトの確立を達成していないので、最先端技術の活用を全体的・総合的な整合性の考え方(システム・コンセプト)に立つ先進国に大きく遅れを取っている。このような課題の解決のための調査・研究を行い、総合的技術の向上と国家的戦略に貢献する必要がある。 我が国の研究開発は狭い分野を深化する傾向がある。国の研究助成策も縦割りのため、セラミックスという広い分野も狭い範囲に細切れにされて研究開発がなされるのが実状である。無機材料全体をとらえるような視点に立った研究開発が進められる事が望まれる。研究テーマ区分として注力する必要があるものとして、次のものがある。
特に我が国の最も得意とする電子・情報分野は本質的に民間に委ねられてきたが、今後も電子・情報分野で産業も含めて世界のトップとしての地位を維持するためには、材料としての特性も限界に近づきつつあるので、新たなブレークスルーを要する研究が切実に求められる。 第5回科学技術庁技術予測調査「2020年の科学技術」によれば、無機材料に関連した技術の進歩は以下のように展望されており、無機材料はこれらの技術を支える重要な材料であり、是非これらを実現するための無機材料の研究を進める必要がある。
セラミックスはその定義や境界がはっきりしないほど領域の拡大が続いており、それに伴い素材としての重要性は高まりつつある。そのため、そこで取り組むべき研究内容とともに研究戦略も重要である。ここでは、研究開発と教育および人材育成の観点から取り上げることとする。 重要課題として基礎研究の拡充をあげる。具体的には、基確研究の担い手である大学、学術団体や国立試験研究機関などにおける学術の振興と研究開発投資の増強や知的基盤の整備が必要である。平成11年度に科学技術庁がまとめた科学技術基本計画の進捗状況によれば、政府の研究予算や若手研究者の育成計画などは5ケ年の目標をほぼ達成できる見通しであるが、大学・国立研究機関の老朽化した研究施設の改善などでは目立った進展がない。産業界から国立研究機関や大学の研究強化という現行の計画に批判的な意見がでているものの、予算的には産業技術の強化など新産業開拓につながる研究に対する取り組みが求められることから、それに添った研究課題が取り上げられることが多くなっている。我が国が世界のトップランナーとして技術立国を目指すためには、このような応用開発という川下のみでなく、今後ともより一層川上の基礎研究にも力を入れる必要がある。この基礎研究拡充の必要性は、1990年代の経済構造の変化によってもたらされた産業界における研究開発の取り組み方の変化とも関係している。産業界ではデバイス指向が強くなるとともに、基礎研究からの撤退が起こっている。それにともない、大学・独立行政法人研究所の基礎研究と企業の応用研究との間にギャップが発生してきている。それと並行して情報の流動化が進展するとともに、研究の国際化と地域の科学技術振興が益々重要になってきている。したがって、今後以下のことを勘案して積極的な活動を行っていく必要がある。 (1)産官学の新しい連携の確立 産業界が求めている新しいニーズと大学・独立行政法人研究所で育まれたシーズを有機的に連携する新しい方策を探ることが求められている。とりわけ、今後の研究進展に向けての新しいテーマの発掘・提案とともに、これまでの研究基盤を整備するための材料・計量の標準化などに取り組む必要がある。 また、材料・計量の標準化は技術基盤の向上のために必要であり、セラミックス分野を広くとらえたJISの国際整合化と、新分野での我が国の優位性を確立する作業を率先して行うことが必要である。さらに、研究者派遣・採用情報を含めた人的交流の促進に貢献することも肝要である。 具体的な例としては、平成13年より、総合科学技術会議や各省庁などで「ナノテノロジー」推進が検討され、提言がなされている。その結果、文部科学省を始め、各省庁の予算配分の決定においても重要な概念として位置付けられた。また、経済産業省においては、国家プロジェクトとして検討され、昨年9月に、材料ナノテクノロジープログラム(超微細構造制御機能能創生技術体系)が策定された。これは、[1]ナノガラス、[2]ナノ微粒子、[3]精密高分子、[4]ナノメタル、[5]ナノコーテーング、[6]ナノ材料共通の知的基盤整備等からなり、産官学の協力のもとに推進されることになった。 これまでの連携は産官学がはっきりした同一の目的、戦略のもとに実施されていたとは必ずしも言えない。また、その評価も多分にあいまいで、報告書の厚さや発表論文数によることが多いというものである。やはり、特許とか試作品の外部評価などのはっきりした評価基準を設けると共に、TLOの設置を全国的規模で進めるなどの方策が必要である。 このためには、大学間や独立行政法人研究機関間のより緊密な相互協力が必要になるが、同時に各種機関や学協会の相互協力についても十分考慮する必要がある。日本セラミックス協会は経済産業省ファインセラミックス室の指導下にある。別組織の日本ファインセラミックス協会もそこに属して、独自の活動を行っている。また、セラミックス産業の業種別に各々工業会がある。設立の経緯や活動内容も互いに異なっているこれらは、現在のところ必ずしも有機的関係には至っていない。今後国家的な戦略の下でプロジェクトや政策を進めるためにも、互いの協力と情報交流は不可欠である。 (2)国際研究交流・共同研究の推進 現在すでに、各研究機関・大学では個別・個人レベルで国際化が進展しているが、先進諸国との研究交流、およびASEAN諸国との研究交流を目標とした、組織化された独自の国際研究交流を展開する必要がある。そのために公的資金を活用した次のような活動を行い国際的なイニシヤティブをとった国際交流計画を実践する必要がある。
国際的なセラミックスの研究・技術者達のまとまりを高めるために、平成10年度からセラミックスに関する我が国唯一の学術団体である日本セラミックス協会が国際セラミックス連合(ICF)の事務局業務を受け持ち、その活動を強力に支援することとなった。特に、アジアにおける研究牽引のための有効な手段として学術講演会をアジア各地で毎年開催することも重要である。 そのためにも、日本セラミックス協会をはじめ各国のセラミックス団体に呼びかけてアジアセラミックス連盟を創設することが望ましい。米国セラミックス学会の年会は国際的であり、欧州セラミックス協会も汎ヨーロッパ的規模である。アジアではPacRimと呼ばれる環太平洋セラミックス会議が2、3年ごとに開催されているが、アジア地区としての連帯感は弱い。アジア地区には日本、韓国、中国、バングラデシュなどにセラミックス協会があるものの、これらの連係は極めて薄い。アジア地区は世界的にも陶磁器の古い歴史があり、また、優れた製品を生み出していた。21世紀はアジアの時代であり、日本へのアジアからの留学生も非常に多い。日本が現在持っている科学技術力をもとに指導力を発揮して、アジア地区の無機材料の科学と技術を飛濯的に向上させ、産業としての位置付けをさせることが望まれている。 国際間の課題として、セラミックス産業の整備のための標準化の問題がある。特に、ISO-TC206の幹事国として国際関連のプロジェクトを進める必要がある。 (3)地域の科学技術テーマの発掘 今後地域の特異性に基づいた地域テーマの発掘に積極的に取り組む必要があろう。経済産業省の「地域コンソーシアム研究開発」や文部科学省で検討中の「知的クラスター創成事業」などを活用して、地域の魅力あるセラミックス振興に貢献する試みが考えられる。 日本には瀬戸、有田、会津地域をはじめ焼物の産地が全国に散らばっており、そこでは民芸調の陶磁器が数多く生産されている。焼物の他に生活用品への色々な工夫がなされており、伝統的な技術を産業用品へ応用する試みも多く見られている。これらの地場産業を学術的・技術的に支援し、向上させる戦略とそのシステムを確立することが不可欠である。機能もさることながら、デザインや色調などの感性工学的な取り組みを加えて、豊かな日常生活への貢献をめざすことも重要である。 (4)研究・技術情報の流動化促進 セラミックスに関する研究成果や特許の交流の場を整備し、埋もれた技術を広く活用し、工業化への道をつける技術移転の推進を提案する。この制度によって、研究者の志気も高まり、産業の活性化にも役立つと期待される。 材料開発にも多くの情報の公開と相互交流が不可欠で、そのためのリエゾンの役割を早急にシステム化することが望まれる。特に異分野、例えば、触媒、電子、電気、化学品、バイオなどに幅広くアクセスできるフレキシビリティーが必要である。日本学術会議、日本セラミックス協会をはじめとする関係団体や経済産業省、文部科学省の関係部局との調整を行い、活力あるシステムを造り上げることが必要である。 セラミックスに係わる産業の更なる発展のためには、次世代を担う人材の育成と教育を通じた底辺人口の拡大が不可欠であり、独創性に溢れた研究者、熟練した技術を持った技能者、進取の気性に富んだ企業家を育て、輩出させる基盤を築くことが必要となる。 我が国においても、大学におけるセラミックスの研究が事業化され、大きく育ったものがある。例えば、東京工業大学のフェライトの研究が現在のTDKを、また、京都大学の誘電体の研究が村田製作所に発展し、いずれも世界のトップランナーとなっている。その他、発熱体、ボールミルなどを挙げることができる。しかし、現在も大学がこのようなベンチャー企業を育てる芽を提供しているとは言い難い。日本が「物造り立国」として進むためには、研究だけで終わることなく、事業化というはっきりした戦略を持って大学と企業とが連携してこれに臨むことが望まれているところである。特に21世紀の創造・未来材料といわれるセラミックスをいかに人類のために用いるかは若い人材に委ねられており、研究・事業化、技術者・ベンチャー精神育成は当分野においてますますその本領発揮が求められている。 先に述べたように、セラミックスの教育、研究に携わる教育者・研究者の専門領域は非常に多角的な分野に広がっており、セラミックスが将来に向けて広い分野で期待される材料であることと相まって、我が国にはセラミックスを大きく発展させる土壌があることが分かる。また、セラミックスに関しては世界的に見ても既に先導的地位にあり、リーダーとしての力を持ち得ていることが分かる。そこで、今後、この土壌を肥えさせ、種を蒔き、大きく有用に育てるための提言を以下に述べる。 (1)無機材料に関する底辺の拡大 初等・中等教育および社会人に対して次のような啓発活動を実施する。これらを行うためには多大の労力と資金を要するので、実現するためには公的助成あるいは企業との連携が必要である。
なお、教育においてはあくまでも技術的センスと技術に興味をもった次世代の後継者の育成が重要である。学校教育において直接的指導に携わっているのは小学校・中学校・高等学校の教師であることを踏まえると、教育者としてセラミックスの基になる理科を教える環境を作ることを同時に行わなければならない。 (2)高等教育の充実 高等教育では次の点に留意することが望ましい。
なお、専門が細部に分かれ、深化する方向に進みつつあるため、世界に通用するセラミックスの専門技術者の認定制度を具体化する必要があり、前述のように日本セラミックス協会はJABEEに加盟し、活動を進めている。また日本工学会と日本工学教育協会では、世界に通用する技術者育成を目指し、意欲的な能力開発の場を提供する組織として「PDE(Professional Development of Engineer)協議会」の設立に向け準備を整えているので、その情報を取り入れながら進めることが望ましい。 最近のセラミックス研究の細分化専門化により、セラミックス全体を見る目を養うことがおろそかにされつつある。特に研究者が教育者でもある大学ではその傾向が強く、大学院重点化がこれに拍車をかけている。セラミックスが単に高機能化や新機能発現に向けて猛進する時代は終わり、いかに他の素材と共存共栄させるかが課題となる。そのため、学部と大学院における教育システムとプログラムには広い視点からの素養教育が求められている。 (3)セラミックス博物館設立の提言 20世紀の100年間における産業用セラミックスの発展は目をみはるものがある。セラミックスが容器や建材以外の用途に用いられることにより、使用分野は著しく拡大し、また新しい機能をもつ製品が登場した。これらの技術の発展を文献ではなく、実物資料として収容、整理、保存し、また新しいセラミックスの製造プロセス、構造解析、機能発現機構、さらに各種分野における利用の実際にビデオライブラリーや、コンピューター学習、実験などを通して、セラミックスのおもしろさに体験的に触れる場を提供することは青少年や一般社会人へのセラミックスへの関心を喚起し、夢を育てることになる。日本には残念ながら、系統的、網羅的に収集、展示し、体験学習させる機関が全くない。大学での学科の再編成、企業のリストラ、地場産業の変化が急速に進むなかで科学技術博物館の設立は急務である。展示や観覧に加えて、体験を中心とした「夢工房」やデザイン型教育など従来とは全く異なった入館者主導型の科学館としての役割も持たせる。さらに製品や技術の世界的な伝播状況を単なる考古学的興味で追うのではなく、科学技術移転と発展のプロセスとして研究して温故知新から先人の高い技術力を解明し、21世紀の人類の発展に貢献できる知恵の獲得を目指すことなども本館の重要な役割と考えられる。このような視点でのセラミックス全般に関する科学館は世界に全くない。もし完成すれば世界中の材料関係者の注目するところとなろう。 (4)留学生教育 留学生10万人計画はやや鈍化しているが、現在は5~6万人のアジアを主とした留学生が日本で教育を受けている。セラミックスの分野でも中国、韓国、台湾、インドネシア、タイなどから多くの留学生が大学等で学んでいる。これらの留学生の専門分野、国別などの人数については全く把握されていない。また、大学や大学院修了後、日本で研究開発に携わる外国人も増えてきている。日本セラミックス協会などの学会を通じて早急に調査を行い、在日中あるいは帰国後の研究教育におけるアフターケアや自国での産業育成への支援などの相談窓口を整備するなど、きめの細かい政策が望まれる。 既に述べたように、セラミックスに関連する学協会は科学技術創造立国のために課せられた重要な課題を多く背負っている。しかし、変動する社会情勢の中で、今後とも社会と時代が求める役割に答えながら事業活動を縦続するには、学協会活動の中で社会の認知と支持を得られる部分については公的支援を必要とする状況に立ち至っている。 日本学術会議では、平成9年5月30日付け「学術団体の支援について(要望)」を提出し、政府関係機関においても、学術団体すなわち学協会への支援の拡充のための様々な施策を講じているところであるが、その公的支援の現状はいまだ十分であるとはいえない。 学協会は専門分野の科学者・技術者の研究活動や社会貢献のための活動の基盤となる場であるので、その学協会活動の強化・活性化が、専門分野の科学・技術の発展を推進するものであることは言をまたない。したがって、上記の要望に挙げられた多項目にわたる公的支援が速やかに拡充・実施されることが望まれる。 セラミックスが地球環境、福祉、国際性などを考慮に入れた材料として、科学技術の面でも、産業の面でも世界における現在のリーダーシップを持ち続けうると共に、21世紀におけるわが国の産業技術を支えるために、各章で述べられている方策が実現されること強く望むものである。それらをまとめると次のようになる。
これらの活動は、セラミックスに携わる関係機関・団体・個人がボランティア的に行う非常に重要な役目であって、自助努力による実施が基本ではあるが、公共的な活動に対しては公的な支援を強く求めたい。そのために以下の提言をする。
【参考資料】セラミックスの分野別研究の方向と課題 1.1 基礎科学分野の現状と必要とされる科学技術 セラミックス技術の主要部分は、古くから”経験と勘”が優先するとみなされてきたが、20世紀の後半にはその基礎科学分野にも多大の労力が傾注され、その結果として、ようやく”セラミックス科学”への展望が開ける基盤が形成されてきたように思われる。最近の国内での基礎科学分野での研究発表では、光・電気・電子・磁気機能、環境・生体材料、計算科学に関係した発表が約半数を占めるに至っており、この傾向は米国セラミックス学会においても同様である。これからのセラミックスの研究開発は、耐熱・構造材料のようにセラミックス以外では代替できない分野での地位の確立と、セラミックスの持つ多様な機能の追求との両面に展開して行くと考えられるが、特に後者においては、基礎科学に立脚した設計・評価手法の確立が不可欠である。 焼物の技術は、本質的には緻密で欠陥の少ない均質な焼結体を創製する方向へのベクトルを有しているが、セラミックスが機能材料として展開できることにも興味が持たれ始め、ナノ構造を制御した多孔体、無機-有機ハイブリッド材料、ナノ複合体、傾斜機能体等への検討が盛んに行われるようになってきた。これらの材料の製造に際しては、アトミック・ナノ・ミクロおよびマクロレベルにおける構造要素の単独あるいは相互の融合化をはじめ、種々の形態制御技術の導入が必要となることから、原料粉体調製、成形、焼成の各段階に様々な新しい工夫を導入することが望まれている。またこのような材料技術に関しては、金属やプラスチック等の他分野で確立されてきているプロセス技術の導入、化学、物理学、物理化学等の基礎科学的成果に立脚した精密な材料設計が要求されつつある。 1.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 具体的な研究課題の例としては、粉体プロセスの展開とその粉体特性を活かした固化(焼結)技術の開発、原子・ナノサイズでの組織構造制御技術の開発、セラミックス分野での組織解析と計算科学分野の確立、地球に優しいセラミックス技術の検討、各種機能の高度制御等が挙げられる。特に今後大きな発展が期待されるのは、セラミックスのケミカルデザインによる特殊構造体の創製技術の研究である。セラミックスの高機能化のため、ナノ複合材料、ハイブリッド材料、ミクロ多孔材料、などの特殊構造体を実現するための分子レベル、クラスターレベル組織制御技術の確立を模索する。 その結果、単結晶、多結晶(焼結体)、複合材料、傾斜機能材料などでこれまでに確立されてきたセラミックスの科学と技術に加えて、無機-有機ハイブリッド化や高度に制御した多孔体、インターカレーション化合物などいくつかの新規な材料形態・組織を導入することにより、セラミックスに機能面での多様性を付加することが近い将来に可能になってくると考える。 またこのような材料を創製する将来技術は、従来のセラミックス研究者・技術者の蓄積の枠を越えた基礎科学的な検討が必要であることから、日本セラミックス協会、日本化学会、日本物理学会、日本金属学会、応用物理学会などの国内の関連学会、およびアメリカ、ヨーロッパを中心とする国外関連学会との連携が不可欠となる。 重点4分野については、 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野 [3]環境関連分野 [4]ナノテクノロジー・材料分野 の全てについて基礎、基盤の研究課題となる。 2.1 陶磁器分野の現状と必要とされる科学・技術 世界の陶磁器製造技術をリードしている有力企業では、皿物のドライプレス化が一般化し、石膏型や乾燥装置のない生産設備と一体化させたコンパクトな成形ラインが普及している。 一方、鋳込み成形では、高圧鋳込み成形法の導入が進みつつあり、鋳込み成形時間の大幅な短縮・自動化が図られている。これらの新成形法ではドライプレス用乾燥粉末、専用鋳込み泥漿等の原材料調製技術が設備開発と一体的に進められており、完成の域に達している。これに対して、従来のロクロ成形に適した可塑性の高い蛙目粘土等の二次粘土類は、新成形法に要求される材料特性からみて悪い方向に作用する場合もあり、新たな原料調製技術が必要となっている。 また、焼成技術では、数時間程度の短時間焼成が推進されており、これに対応する素地、釉薬等の材料開発も盛んである。人手間のかかる絵付け作業についても、線引き機、パッド印刷機の改良が画材の開発と平行して進められており、絵付け方法の多様化、コスト低減化が図られている。 食器、タイル等、陶磁器製品の輸入が増加する傾向にある。特に高価な洋食器にも価格破壊の波が押し寄せている。また、国内の陶磁器関連企業では生産を東南アジアに移して、日本への輸入、第三国への輸出など企業のグローバル化が進みつつあり、益々コスト競争は激しくなり、優れた商品開発力、更なる生産の合理化が必要とされている。また産業廃棄物を出さないなど、環境対策を考慮した企業経営戦略が要求される。 2.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 (1)ドライプロセスによる陶磁器成形方法の確立 乾式成形に適した陶磁器素材として、粘土以外の可塑性材料、例えば有機系のバインダー、粘結剤を利用することも視野に入れて製造プロセスを検討することが必要である。 (2)コンピューターの設計への応用 これまでの陶磁器の形状設計や成形時の石膏型の設計等の多くは経験と勘に頼っていた。経験者,後継者不足に対応するためにもこれらの設計にコンピューターの導入は欠かせない。特に、設計の際に強度や応力の数値計算が欠かせないことを考慮すると、従来機械設計に応用されている有限要素法を取り入れた設計を陶磁器の生産プロセス分野にも利用することが必要となる。碍子等品質管理の厳しい製品の設計にはすでに有限要素法が利用されているが、タイル、食器の分野ではやっと始まったばかりであり、強度、耐久性、耐熱性を考慮した形状設計への応用が目標になる。 (3)陶磁器の高機能化 陶磁器には、これまで外観以外の機能にはそれほど注意が払われていなかったが、時代の推移とともに様々な要求が現れている。特に機械的強度、耐急熱急冷特性、抗菌性などの機能を付与する技術が要求されている。陶磁器の多くの製品に高強度化への要望が高い。強化磁器による食器が生産されてはいるが、重い等の指摘もある。今後軽量化、熱伝導特性を制御した強化磁器の開発が望まれる。公共施設における衛生陶器への抗菌化は既に製品化されているが、学校給食においてO-157等の病原菌による衛生上の問題から、給食用食器にも抗菌効果の付与が望まれている。調理法の多様化と共にオープンで使用に耐える高品質耐熱磁器の開発が望まれている。耐急熱急冷性の高い磁器素材の開発が急務である。 (4)陶磁器の機能測定方法の確立 高機能化された製品を比較し、評価するために、高性能の陶磁器の曲げ強度、チッピング、こめかけ等の機械的特性の正確な測定法、あるいは食器の抗菌効果や抗菌メカニズムを確かめる方法の確立が必要である。 (5)環境対策の推進 陶磁器の装飾に使用される絵具や顔料には多くの重金属類が使用されている。世界的な地球環境保全、衛生環境の見直しを考慮すると、これらの重金属元素の溶出防止技術ならびに無鉛絵具の開発、普及は緊急を要する課題である。代替材料の開発およびこれらの材料に適した生産システムの開発および普及や、再利用を考慮した生産システムへの変換が必要である。また、代替材料の開発が不可能な場合には、徹底的な溶出防止技術ならびに環境への汚染防止技術の開発、普及が必要である。さらに、生産過程で派生する鉛、コバルト、クロム等の重金属酸化物を含んだスラッジ、廃棄物等はセラミックス化することにより溶出を防止しリサイクル製品としたり、溶出防止により安定型廃棄物とすることもできるであろう。その他、ダム堆積土砂、火力発電に伴い排出されるフライアッシュ、下水道汚泥焼却灰等のように他産業からの廃棄物をリサイクル材料として陶磁器化し、国内全体の廃棄物を減少させる手段としてとらえることも必要であろう。 2.3 陶磁製造技術の活用 セラミックスの原点である陶磁器の技術力の向上策のプラスの面の事例を再確認する。 (1)素地調合(競争力) 日本の工業用水は軟水であり、天然粘土を水簸分級して得た水簸粘土及びそれと石英や長石と混合調合して得た陶磁器素地は、世界一可塑性が良く又、成形性が良い為に円高となっても東南アジアを中心に年間10万トンも近くが輸出されている。戦略的に原料処理技術及び土作りの技術を今後も維持する必要がある。 (2)成形技術(省エネ、環境、生産コスト、技術競争力) セラミックス用天然粘土中の微粒子周辺の水(H2O)及び腐植の解析から水可塑成形技術が1992年に確立した。
(3)素焼工程品(省エネ、環境、微生物、ナノテクノロジー、新商品)
(4) 加飾技術(ナノテクノロジー、情報)
2.4 今後の方向(ソフトセラミックスへ) 従来は高温で焼結した白磁を量産することへの技術の集中であったが国内的には飽和し、日用品等は発展途上国の人件費に敗退しつつある。日本の陶磁器技術を生かす為に、焼成技術よりも低温焼結を目指すとともに、環境対応を考慮すると水と相互作用を活用したソフトセラミックスへの展開が重要となる。例えば漆喰の科学等や戦後の欠陥住宅問題を解決するために、瓦等の建材の科学を行い、生活への快適性を追求する。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野:2.3の(3)、(4)の課題 [3]環境関連分野:2.2の(5)の課題、2.3の(2)、(3)の課題 [4]ナノテクノロジー・材料分野:2.2の(1)、(2)、(3)、(4)の課題 2.3の(3)、(4)の課題 3.1 セメント分野の現状と必要とされる科学・技術 セメント需要の世界的な推移を見ると、米国、欧州連合(EC)15ヶ国とも年度による増減はあるものの、全体的には近年停滞が続いている。これに対し、世界需要の60%を越えているアジア諸国では、日本や韓国がすでにピークに達しているものの、中国を筆頭に他の国では需要増大が予想されている。一方、再資源化及びCO2排出量抑制から見た混合セメントの使用状況は、日本での割合は22%であり、ECではドイツは日本並みであるものの、フランスは65%、ベルギーは70%,EU全体では47%と高い。また米国では、96年5月に資源保存回収法が制定され、環境保護局の新しいルールとして、1万ドル以上の公共予算工事には水砕スラグかフライアッシュのいずれかをコンクリートに混入しなければならないこととなっている。 今後必要とされる科学・技術としては、資源リサイクル・環境にかかわる諸問題を取り扱う科学技術、高性能コンクリート用セメントの開発研究、およびコンクリートの補修・補強にかかわる技術を挙げることが出来る。 3.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 (1)資源リサイクル・環境問題への取り組み セメントが使われている社会的環境や条件からみて、その研究開発においては従来にも増して資源リサイクルと環境問題に対する取り組みが必要である。具体的な課題としては次のものがある。
これらの研究成果からもたらされることとして、産業廃棄物をセメントキルンで処理することにより、化石燃料使用量の削減及びCO2排出量抑制、鉱物資源使用量の削減、有害物質の無害化、廃棄物のリサイクル化ができること、また各種セメントヘの混合材添加量の増量により、化石燃料使用量の削減及びCO2排出量抑制、鉱物資源使用量の削減ができることなどがある。また、解体コンクリートの再資源化により、骨材資源の削減、廃棄物埋立て処理量の削減ができる。 (2)高性能コンクリート用セメントの開発 セメントの高性能化の面から次の課題が必要とされる。
これらの開発により、建築工事の超高層化、土木工事の大型化が達成され、さらにコンクリート施工作業の省力化と施工欠陥の大幅な防止が可能となる。また、高性能化セメントによりコンクリート構造物が高耐久性となり、放射性廃棄物の長期安定保存が可能になる。 (3)コンクリートの補修・補強 既設の構造物の安全性や耐久性を高めるための研究としては次のものがある。
これらに研究により、大震災に耐える構造物となり、構造物の崩落を防止できる。コンクリート構造物の延命がはかられ、コンクリート廃材量の減少とセメント及びコンクリート資源を温存できるようになる。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野 [3]環境関連分野:(1)の課題 [4]ナノテクノロジー・材料分野:(2)、(3)の課題 4.1 ほうろう分野の現状と必要とされる科学・技術 バブル崩壊後,不況の影響は大きく,1990年の132千トンから1999年には63千トンと47%にまで落ち込んだ。出荷金額では678億円が287億円とに下がり,景気の深刻さを如実に示している。 おもな製品動向を見ると,燃焼用部品の材質がステンレス,耐熱塗装鋼板,フッ素樹脂加工に変わる傾向が強まり,ほうろう部品の生産は半減している。住宅用ほうろうでは,浴槽がステンレス製,FRP製,人造大理石製に変わり,10年間で17万台から3万台になった。台所用流し台では住宅の高級化からシステムキッチンが普及し,需要を伸ばしている。ほうろう建材パネルはバブルが崩壊した1991年を境に減少を続けている。 化学工業用グラスライニングは医薬品の需要が広がり,他のほうろうと比較すれば安定した状況にあるが,競合は厳しい状態にある。 今後必要とされる研究,開発分野として,バイオ,ナノテクノロジー材料,環境,情報の分野を意識したほうろう製品の開発が重要であろう。このようなほうろう製品は高機能特性の付加,生産工程及び製品の環境への対応をあげることができる。前者のほうろう製品への高機能特性の付加については,耐熱性,耐衝撃性,耐摩耗性,耐薬品性,色調,光沢,平滑性,抗菌・滅菌等を満足させる釉薬の開発や,表面処理による機能付加が考えられる。更に,合金,特殊金属へのほうろう加工は新たな密着層を設計することによって,ほうろうの用途を拡大させるであろう。 生産工程及び製品の環境への対応については,環境への負荷を最小限にすることを考えなければならない。顔料として含まれる重金属(カドミウム,セレン)を使用しない釉薬の開発が期待される。また,鋼板ほうろうは電炉で溶融すると,鉄とスラグに分解して再利用できるため,このように再利用できる方向へ業界の統一的動きが期待される。 4.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 新しい琺瑯の定義、そして設計思想の確立を通して、新しい機能の付加した琺瑯開発が期待される。そのための新しい釉薬、金属素地、製造方法などの研究開発が求められる。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 もともと琺瑯は殺菌処理の容易な材料としてプライオリティをもっており、有望な分野である。 (1)抗菌、滅菌機能を有した琺瑯釉薬や表面処理技術の検討 (2)生体親和性機能を有した琺瑯釉薬や表面処理技術の検討 (3)酵素固定機能などのバイオ機能を有した琺瑯釉薬や表面処理技術の検討 (4)金属アレルギー防止など対疾患型琺瑯釉薬や表面処理技術の検討 [2]情報関連分野 [3]環境関連分野 本来、琺瑯は防錆機能という環境材料としての側面が強い。したがって、機能の拡大での対応が考えられる。 (1)現在の琺瑯より、数100℃耐高温性琺瑯の実現と機能の検討 (2)光触媒機能など環境処理機能を有した琺瑯の実現と機能の検討 (3)環境低負荷形の琺瑯製造プロセスの開発と確立 (4)原料としてのリサイクル容易な琺瑯の設計と実現 [4]ナノテクノロジー・材料関連分野 琺瑯の界面はナノレベルで形成されており、ナノレベルの設計ができれば、機能の一段の飛躍が可能となる。 (1)膜ガラス層(ナノレベル)による琺瑯の実現と機能の検討 (2)多層あるいは複合ガラス層による琺瑯の実現と機能の検討 (3)超平滑性ガラス層による琺瑯の実現と機能の検討 (4)新しい界面設計技術の開発と工業化技術の創造 5.1 ガラス分野の現状と必要とされる科学・技術 20世紀のガラス工業の発展は、そのほとんどを技術と製造の文明が沸騰する米国がリードしてきた。ことに光学ガラス、瓶ガラスおよび板ガラスを除外すれば、すべてコーニング社が創り出したといっても過言ではない。それらは、電球ガラス、繊維ガラス、低膨張ガラス(パイレックス、パイコール、パイロセラム)、CRTガラス、光ファイバー、液晶ガラスなどである。日本のガラス業界は第二次大戦後、欧米と技術提携して最新技術を学び、品質管理と創意を加えて技術の改善を行い成長してきた。光学ガラスの連続溶解やCRTガラス生産の合理化、また光ファイバのVAD法など、世界に誇れる技術開発も行われてきた。 従来の板ガラス,瓶ガラスとは異なり,新しい機能を持ったガラス、ニューガラスが現在数多く開発されつつある。このニューガラスについては明確な定義はないが、広く解釈されており、「従来にはない新しい機能を発現するガラス、ガラスより作成された結晶化ガラス、また、ガラスと他の素材と複合した複合材料など」と言われている。 ニューガラスの機能としては、大量の情報を伝送する光ファイバー、情報用光学素子ガラス、光増幅、波長変換、非線形光学ガラス、赤外ファイバーとしてのフッ化物ガラスなどの光機能性ガラス、窒素を構造中に取り込んだオキシナイトライドガラスの高弾性、高硬度ガラス、SiCファイバーと複合一体化したリチウムアルミノ珪酸塩結晶化ガラスの高靭性ガラスなどの機械機能性ガラス、ゾルーゲル法による新しいゾルーゲルガラス、人工骨、人工歯となる生体親和性結晶化ガラス、バイオテクノロジー用の酵素担体用の多孔質ガラスなどの生体、生化学的機能性ガラス、高イオン伝導性ガラスなどの電気、磁性機能ガラス、ゼロ熱膨張性ガラスなどの熱的機能性ガラスなどがある。種々のニューガラスのなかで、現在、既に市場に出て発展しつつあるものや、研究段階のものなどがあるが、光ファイバー用のガラス、フォトマスク、各種ディスク用の基板用ガラスなどがそれをリードし、ニューガラスの発展の経済的基盤を構築している。 新しい組成の例としては、光ファイバーアンプ用のPrイオン含有のLa-Ga-S系ガラス、多量の希土類を含有するハライドガラス、密度が8.5g/cm3の高密度のPbO-Ga2O3-B203系ガラス、屈折率が2.3以上で7umまでの光を透過するBi203-ZnO-BaO-CaO-Li20系、ガラス癌温熱治療用の強磁性生体活性のFeO-Fe203-CaO-SiO2-P2O5系結晶化ガラス、高イオン電導性のLi2S-GeS2-Ga2S3系ガラスまたはLiCl-CaO-P205系ガラス、高開口数で高屈折率の光フアバー用のPbO-In203-P205系ガラス、赤外ファイバーおよび光学ガラス用のBaO-Ga203-GeO2系ガラス等が報告され、ガラスの組成の多様性から、数多くの新しい組成が開発され、応用分野が拡大している。 ガラス分野における研究と技術開発も「情報」を伝えるフォトニクス材料に力点が置かれている。フォトニクス材料として光の透明性は重要であり、ガラスの特性でもある。また、ファイバー状、微小球状、薄膜など機能をより引き出すための形状付加性も高い。これらの利点に加え光機能として光増幅、波長変換、非線形光学光メモリーが期待されている。光ファイバー用のシリカガラスの生産は、年々増加しており、国内の各家庭にまで、敷設されようとしている。光ファイバーの関連材料として、Er含有光増幅ファイバー、光の波長分離、配電機能に相当する分岐機能平面導波路等の光機能材料の開発、実用化が基礎及び応用研究において進展している。 フッ化物ガラスは赤外透過材料として注目されているが、希土類元素を比較的多量に含有することができるために、赤外光→可視光波長変換材料(アップコンバージョン)・レーザー発振材料・赤外・近赤外光の増幅素子などへの応用が期待されている。例えば、フッ素と塩素を陰イオンとした混合ハロゲン化物ガラスにおいて、ErとYbイオンを同時に添加した場合にアップコンパージョン特性が大幅に改良されることが明らかとなった。 酸化物、金属、半導体微粒子などをガラスマトリックス中に分散させた、ガラス複合体にレーザー光を照射すると、量子閉じ込め効果により、非線形性が現れる。このために、光透過性が良く、3次の非線形感受率の大きいものが望まれている。そのために、MnO、Au、CuCl、CdSxSe1-X等数多くの微粒子分散が試みられている。溶融法、ゾルーゲル法、CVD,PVD、イオンスバッタリング、イオン打ち込み法などによって、微粒子のより大きい全容積で透過率が良く、より微細で均質な粒径の微粒子が分散した試料の作製が各国で行われている。これらは、光スイッチ、演算等、未来の大容量光情報処理および光コンピュータに応用されることが期待されている。このような新規な能動光機能材料の研究開発を大学、産業界、公立研究所が連携して推進することは急務であろう。 平成13年より、総合科学技術会議や各省庁などで「ナノテノロジー」推進が検討され、提言がなされている。その結果、文部科学省を始め、各省庁の予算配分にも決定においても重要な概念として位置付けられた。経済産業省においては、国家プロジェクトとして検討され、昨年9月に、材料ナノテクノロジープログラム(超微細構造制御機能能創生技術体系)が策定された。これは、[1]ナノガラス、[2]ナノ微粒子、[3]精密高分子、[4]ナノメタル、?ナノコーテーング、?ナノ材料共通の知的基盤整備等からなり、産官学の協力のもとに推進されることになった。この内、[1]のナノガラスプロジェクトは、「無機非晶質材料の分子間構造を制御して分子を改変させることにより新機能を付加したり、改質した分子を材料表面や材料内部に並べる技術開発を行い、応用研究を行うこと」である。応用研究では、IT関連で、1)光増幅、波長分離、スイッチ等の機能の光波制御ガラスおよび2)光メモリ、ディスプレイ、超残光照明体等の高輝度発光ガラス、3)機械的特性に関連してメモリディスク、ディスプレイ、容器、各種窓材、4)環境関連で調湿、環境ホルモン、有害ガス分離の環境浄化ガラス等の開発が期待されている。珪酸塩系物質では分子の最小構造単位であるSiO2四面体とその結合体を意味する。これらは、外部からのエネルギー、応力によって、その結合角や相対的原子間距離を変えることができるので、これら分子の結合体としての珪酸塩物質の構造を変化、制御することが可能である。例えば、フェムト秒レーザの照射により、照射部の微構造が変化して、部分的に屈折率が変化する。外部からの印加されるのはなにもレーザー光や応力だけではない。考えられるのは、その他、熱、電場、磁場やこれらの組み合わせもあり、結果的に種々の微構造への影響があり、その変化は予測も出来ない程である。 20世紀後半からの資源消費の増大は過去に例がなく、21世紀に起こる真の意味での資源枯渇は人類が初めて経験する事柄である。これに伴って顕在化した炭酸ガスによる地球の温暖化と、NOxやSOxがもたらす酸性雨による湖沼の死・森林の枯死という重大な環境問題への抜本的対策として、酸素燃焼の技術が開発された。「NOxが発生する理由は空気を用いて燃焼させるからである。酸素を用いて燃焼を行えばサーマルNOxはゼロにできる」という論理に基づくプロジェクトはコーニング社が中心になり、1982年から1991年まで各種のガラス溶融炉について実施された。その目覚ましい成果を見て米国のガラス業界は一斉に酸素燃焼の採用に踏み切った。 酸素燃焼は日本でも1993年より導入されているが、その利点として、炭酸ガス(およびSOx)の放出量が約1/2となる、サーマルNOxがほとんどゼロとなる、排ガス量がwetベースで1/4、Dryベースで約1/7となる、蓄熱室が不要になり、重量ベースで耐火物が約70%減、鉄材が約30%減となることが挙げられている。日本での普及には、米国並みの安価な電気料金と酸素が必要である。 5.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 米国のガラス産業は21世紀の技術目標として、生産効率、エネルギー効率、リサイクル、環境保護、および革新的用途で具体的な項目を掲げ、大学およびNFSとの協力体制を築いている。これらの内容は次の通りであり、わが国でも必要とされる研究課題である。 (1)生産効率の向上
(2)エネルギー効率の向上
(3)リサイクル関連
(4)環境保護関連
(5)革新的用途関連
プロセス関連では、地球は有限であるということを前提にした研究課題として、炭酸ガスの排出量を抑制し、エネルギー消費を最小にするガラス溶解の研究がある。我が国でも、ガラスプロセス研究会の環境・エネルギー・ワーキンググループでは酸素燃焼、減圧清澄、および低温溶解を三つの座標軸にして、これらを組み合わせた研究テーマを絞り込む作業に着手している。これらについて科学的解明が行われるならば、三者それぞれにとって有意義な成果が得られると思われる。エンジニアリングの問題は、参加企業が製品の種類、要求品質、製造コストなどの観点から、独自に判断して取り組むことになるが、酸素燃焼と低温溶解、あるいは減圧清澄と酸素燃焼、または低温溶解と減圧清澄を組み合わせた技術が現実化できることは、世界のガラス工業にとって貴重なだけでなく、地球環境の維持と改善に貢献すると思われる。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野:(5)の課題 [3]環境関連分野:(3)、(4)の課題 [4]ナノテクノロジー・材料分野:(2)、(5)の課題 6.1 原料分野の現状と必要とされる科学・技術 これからのライフサイエンス、情報通信技術の発展を支えるセラミックスや、環境対応セラミックスの開発に対して、原料は非常に重要な位置付けとなる。 セラミックス原料は、粘土、陶石のような天然原料と窒化ケイ素やアルミナのような人工原料に分類される。前者の天然原料は石灰石などを除けば相当量を輸入している。人工原料、特にファインセラミックス用は、電子材料や構造材料用の原料の国内生産は技術と生産高において、世界のトップクラスにある。従来我が国がトップレベルであった磁気テープ用の原料微粉末などは日本からの技術移転により、現在では中国、台湾などの研究が盛んである。 人工原料のコストダウンにはある量以上の規模の生産が不可欠であるので、国内だけでなく国外を含めた需要・供給を考える必要がある。また、エレクトロセラミックス用やアルミナ焼結体用の原料粉末は使用され易く調製されて、素人が利用してもある程度のセラミックスが製造できるようになってきている。一方で、焼結助剤をブレンドした調合原料や電極金属粉末のようにペースト状にしたものなどは、より使用者側との十分な情報交換が不可欠である。さらに、今後、原料は粉末の形態としての易焼結性粉末のみならずナノ複合粉末や機能性付与粉末の開発に加えて、有機金属化合物、金属錯体などの液体原料や中間化合物などの材料形態での使用の開発も必要となる。 原料の将来の研究、技術開発の課題としては次のようなものがある。
6.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 具体的な研究課題として次のようなものを挙げることができる。 (1)Si3N4やSiCから有望な高温用セラミックスが製造できることが明らかとなったが、これらは難焼結性物質であって、焼結性に優れた原料粉体への要望が高まった。このようなニーズに応えるべく1970年代半ばから、粉体合成の研究が活発になってきた。セラミックス製造の出発点は原料粉体であり、「原料を制するものがセラミックスを制する」といわれ、1980年代には我が国の多くの化学系企業が原料粉体の製造技術の開発に参入した。その結果、Al2O3、ZrO2、Si3N4など、主要原料の我が国の製造技術は世界のトップを占めるに至っている。今後の課題としては、製造法の低コスト化、超微粒子の分散技術、球状以外の特異形態をもつ粒子の合成などが重要と考えられる。 (2)無機化合物粉体は焼結体原料以外に、電磁気材料、光学材料(顔料を含む)、プラスチックなど、多くの分野で利用され、今後も拡大すると予想される。これらの分野でも我が国は世界の先頭に位置しているが、今後もトップの地位を守るためには研究開発を進めなければならない。そのためには、粒子のnm~μmにわたるサイズ、形態、粒形分布の制御法、ナノ複合粉末や機能性を付与した粒子の合成法と物性に関する研究が必要である。 (3)これまでの原料の概念はセラミックスを創製するための出発物質であり、そのため製造上使い易い粉や、セラミックスに機能を持たせるための粉の開発が研究目標となってきた。しかし、バルクセラミックスを前提にした調製、成形、焼結を通じたプロセスの最適化のみの捉え方では、限界があることは明白である。これからはナノ粒子の可能性を十分に生かすため、粒子個々の機能を前面に押し出したドラッグデリバリシステム(DDS)や、機能性ペイント、あるいはセンサー機能粒子等、ナノテクノロジー領域における新しいセラミックスの展開につなげることが重要である。さらに、低環境負荷プロセスやバイオミメテックプロセスなどの新しいプロセスの開発も重要である。 (4)原料のあり方として、例えば陶磁器は粘土を必要成分として含まざるを得ない。これは極論すれば粘土=可塑性に象徴されるような伝統的なろくろ成形に依拠する面が強い。粘土は焼成後には粘土とは異なる物質に転換し、粘土としての再利用は不可能である。したがって、循環型社会の構築には、たとえ陶磁器でも粘土を必要としない成形法を含めた新しい製造プロセスの開発に連動した原料提供が重要である。また、電子材料や構造材料はマトリックス自体や電極等に希少な金属元素を含むことが多い。これらの再資源化を達成するためには、安価で高精度な分離技術の開発や分離が容易な素材提供が新世代における原料技術として重要となる。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野 [3]環境関連分野: [4]ナノテクノロジー・材料分野:(1)、(2)の課題 7.1 高温・構造材料分野の現状と必要とされる科学・技術 最先端のエンジニアリングセラミックスに限らず伝統的な構造用セラミックスにおいても日々着実に進歩をしている。例えば、シリコン引き上げ用の坩堝や周辺治具を取り上げてみても、発泡抑制による坩堝寿命の延長、シリコン単結晶の大型化による引き上げ治具の2倍以上の強度の要求がなされ、それらの要求に応えている。また、耐火物の分野では使用条件の過酷と省エネルギー省力等のニーズに対応して、カーボン含有複合定形耐火物および高機能不定形材料が開発され、使用寿命の延長、製品品質の向上に貢献し、着実な進歩を見せている。ファインセラミックスでは、大型国家プロジェクトの実施による周辺技術への波及効果が大きい。例えば、次世代産業基盤技術研究プロジェクト「ファインセラミックス」の成果は、国内は勿論、世界のセラミックス関連企業において粉体調整、成形技術、焼成プロセス、加工技術、非破壊検査技術の向上に少なからず活かされた。一例を挙げると、これに続く国家プロジェクトの「300kWCGT」では、米国でほぼ20年かけても成功しなかったセラミックスガスタービンの開発に成功している。このガスタービンの成功は、やはり材料の開発とともに薄肉大型品のニアネットシェイプ成形技術とその焼成技術、シール技術、及び、非破壊検査技術等の大幅な向上によるところが大きい。また、このプロジェクトの推進の中で行われた異業種技術者との交流はセラミックス技術者の視野を広め、次の新技術開発の可能性を提供した。現在、「シナジーセラミックス」「HYPER」「テクノインフラ」等セラミックスに関連した国家プロジェクトが進行している。海外でも日本の新しいプロジェクトの発足に刺激され、国家プロジェクト提案の動きがある。 さらに、「セラミックスガスタービン(GGT)普及のための補助金制度の導入」の国家プロジェクトに参画した企業ならびに研究機関のレベルが向上したことは確かである。例えば、「ファインセラミックス」プロジェクトの成果としてのGGTは世界で達成できなかったコジェネレーションのシステムを完成しつつある。地球温暖化が問題となっている現在、省エネルギーが可能であるコジェネレーションの普及にこそ国が補助金制度等を制定して推進するべきである。 日本の特質にあったグループで行う継続的な研究は、既存技術のレベルアップと異分野技術との融合には有効であり、今後ともその重要性は変わらないであろう。大学や国立研究機関のフロンティア研究分野と企業の有する科学技術のポテンシャルを基盤とした学と産の連携、すなわちシーズとニーズに対するアプローチの方法は、素材を提供するというよりは、素材の特性を十二分に活かすアッセンブリーを考えるようにすることも重要であろう。 これからは、環境問題抜きでは産業も研究も成り立たない。ISO9000や14000では環境に絡んで製造責任まで問われるが、構造用セラミックスに関しては、幸い他の材料に比べて化学的に安定であるために、環境には優しい材料であろう。ただし、金属やプラスチックに比べて、後加工や溶融という過程を経ることが難しいが故にリサイクル化に問題があることは否めない。今後、エコ・カスケイド的思考が必要である。 また、ファインセラミックスやシナジーセラミックスなどの次世代国家プロジェクトで開発された材料や手法を積極的に普及していくことが重要である。得られた成果等に関して情報の公開を積極的に行い、参画した企業ならびに研究機関ばかりでなくセラミックス産業全体に税金を還元すべきである。 7.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 (1)高温高強度を有する酸化物セラミックスの開発 ナノからメゾスコピックのスケールでの組織制御による力学的特性の向上をめざす。現在主流となっている高温・構造材料は非酸化物であるが、酸化の問題は避けられない。酸化物は酸素雰囲気下でも安定である。しかし、高温では拡散が頼著となり、強度が下がり、高温変形が問題となる。ムライト系等の複酸化物は耐クリープ性に富む材料であり、この周辺を攻めることにより、高温高強度を達成できる可能性がある。その場合、ナノ・メゾスコピックな構造制御が必要となる。 (2)機能性材料の脆性改善 セラミックスは脆性であり、強度のバラツキが大きいことから信頼性に乏しいといわれている。これはセラミックスの基本的問題であり、テーマと期間を絞り徹底的な検討を行うことが必要である。 (3)金属・有機とのハイブリッド材料の展開、および材料の複合化による特性の役割分担の追求 (4)セラミックスに対するエコ・カスケード的思考の展開 エンジニアリングセラミックスで培われた高強度化の技術を電磁気的機能を有する材料に対して適用し、構造機能と電磁気機能を兼ね備えたセラミックスの開発が必要である。その場合、セラミックスの枠を越えた材料の展開が鍵を握るであろう。セラミックスは金属に比べて比重が軽く、金属のような還元の問題も少なく、プラスチックのような廃棄の問題が少ないが、リサイクルが難しいと言われている。エコカスケード的に考えた材料の展開が必要であろう。 (5)脆性セラミックスの特性に合わせた機械部品形状の設計指針の開発 金属材料で構成された機械の設計・製作現場ではセラミックスの特性を十分理解しておらず、その使用に懐疑的になっているきらいがある。この点を改めるためには、強度・脆性に優れる材料を開発するばかりでなく、使ってみようというムード作りも重要である。これはセラミックスが使いなれた金属の感覚で金属の代替材として扱われることが多く、使い方が分からないままに、毛嫌いされているところも多い。これを解消するためには、小中高の学校教育や、一般家庭などの裾野の教育も欠かせないであろう。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野 [3]環境関連分野:(4)の課題 [4]ナノテクノロジー・材料分野:(1)、(2)、(3)、(5)の課題 8.1 電子材料及び関連分野の現状と必要とされる科学・技術 セラミックコンデンサーやセンサー、フェライトに代表されるエレクトロセラミックスは、1932年のフェライトの発見、1945年頃のチタン酸バリウムの強誘電性の発見、さらに、1986年頃の高温超伝導体の発見と、常にその時代の電気・電子産業を支える材料を開発しつづけてきた。この間、日本は、上記の応用研究、実用化研究を通して、世界をリードしつづけてきた。特に、第2次世界大戦後のソリッドエレクトロニクスの発達にはエレクトロセラミックスの貢献は計り知れないものがある。日本は世界のエレクトロセラミックスの50%以上を生産している突出した国であり、また、その研究においてもフロントランナーである。1999年度現在、日本のファインセラミックス部材の生産高の71%が電磁気・光学用部材で占められており、今後とも当分野の研究・開発、生産が日本のファインセラミックスの牽引者的役割を果たしていくことは間違いない。しかしながら、エレクトロニクスの急速な発達につれてエレクトロセラミックスも成熟期にさしかかっており、これまで開発された汎用型部材は新興工業経済地域(NIES)などの国々での生産が活発になっているので、いずれ、コスト競争などにつながっていくものと考えられる。 日本が当分野でのフロントランナーの地位を維持し続けるためには、従来からの研究開発への取り組み方を抜本的に改善する必要がある。従来、電子材料の研究開発は主に企業中心で、エレクトロニクス技術に追随するかたちで進められてきた。しかし今後は、基礎的学術研究をより一層推進して、関連諸問題の学術的理解を深化し、さらに、これまでに蓄積された膨大な量のノーハウ(know-how)を整理し、シミュレーション化して、これらが効率よく技術開発に活用される方法を確立することが必要である。また大学、国公私立研究機関、企業が共同して技術開発に取り組むことのできる基盤を整備することも緊急に解決すべき課題である。 エレクトロセラミックス関連の今後の研究開発の方向としては、情報通信および環境・エネルギーが主になるが、そのための材料プロセス技術の開発も必要になる。 情報通信関連では、軽薄短小化への製造技術の開発が望まれるところである。そのためにはナノメータサイズの粒子により構成されるセラミックスの物性解明と合成技術の開発、および、複数の機能を1つのモジュールに組み込む複合化技術の開発が必要となる。また、シリコンテクノロジーとの整合性がより重要となろう。その点でも、ナノテクノロジーとの接点を生じる。最も興味ある重要課題はPZT,Ylなどの強誘電体による不揮発メモリーFeRAMの実用化である。これらの用途のためには、従来のバルク型デバイスに代わるセラミックス薄膜創製技術の確立と新しい薄膜型デバイスの基礎開発が我が国にとって重要になる。 エネルギー関連の研究対象は、主に電気エネルギーとしてとり出す方法やその材料であり、新型二次電池、燃料電池、熱電材料、Siに代替するソーラーセル材料が研究の中心になっている。特に、リチウム電池の研究は大きく進展している。熱電材料は1960年代以来ほとんど進歩がなく、画期的な材料開発が期待される。この分野の研究は、従来、材料研究者よりも電気化学や電気工学の研究者が多く手がけていたが、これらに共通した将来の技術開発として、[1]新材料開発、[2]電極材料、[3]デバイス、[4]複合化のための材料技術の開発が挙げられる。 環境問題には、各種センサーの開発とリサイクル問題がある。センサーは界面現象が最も重要な手掛りになりそうで、従来の知識を超えた材料を見出す努力が必要となろう。センサーはインテリジェント化を常に念頭におき、また多くの場合、過酷環境に耐えうる材料を指向すべきであろう。もう一つの重要課題は、最近、FeRAMやDRAM、アクチュエーターなどには鉛含有材料が多く、鉛の環境への問題が指摘されていることである。非鉛系材料への移行の研究が盛んになることが予想されるが、その研究開発が全く新しい特性をもつ材料の発見につながることも期待される。 セラミックスは、エレクトロセラミックス、構造用セラミックス、バイオセラミックスなどに分類されることが多い。しかし、これらの分類の境界ははっきりしたものではない。例えば、バイオセラミックスでは、バイオセンサー関連でエレクトロセラミックスとの接点を持つ。バイオセンサーを構成する上で、エレクトロニクス化は不可欠であり、実用化の途上において、バイオセラミックスとエレクトロセラミックスの研究者の協力が必要になろう。 ノーハウ(know-how)データの整理は緊急の課題であり、計算機科学やシミュレーションなどはセラミックス材料の研究開発へ大いに取り入れることが必要である。 エレクトロセラミックスの今後の方向は、特定な物性のチャンピオンデータを競い合うよりは材料の総合化技術、デバイス化技術などに対応できるように材料の各種特性を最適化する材料開発が不可欠となる。さらに、エネルギーや環境問題には片手間でなく取り組み、経済的にも、工業的にも持続できるような技術基盤を構築することが必要である。 8.2 具体的研究課題・方策と研究成果の展開 重点分野の具体的な研究課題の例を以下に挙げる。 (1)情報通信関連材料 ・薄膜による機能向上:セラミックスの持つ機能を有効に用いるためには、薄膜の利用が不可欠である。薄膜を構成する結晶粒子の大きさは、ナノメーターのオーダーである。粒子サイズがナノメーターになることにより、界面の寄与が大きくなることや量子サイズ効果などにより、バルクセラミックスとは異なる特性が出現する。そこで、粒子サイズと物性との関連を明らかにし、その物性を積極的に利用する材料設計の開発が必要となる。 ・通信機器やIT用材料の高性能化の研究:セラミック電子デバイスは今後更なる小型、軽量、が必須となる。そのための一つの手段が複合化であり、特にナノ構造制御による異種材料の複合化により、多くの機能を単一素子に組み込んだモジュールの開発が必要である。そのための学術的な基礎研究と、それと並行して工学的な開発研究が重要である。また、新しい概念による情報通信ネットワークに必要なデバイスの開発も必要になる。例えば、いつでも、どこでも、ITネットワークに接続して、高度のITサービスが享受できるユビキタス社会の構築には、様々な機能を利用する新たなデバイスの実現が不可欠である。 ・材料間をつなぐインターフェース材料の研究:デバイスのチップ化が進み、セラミックスと電極金属を一体的に構成する複合化がより進む。複合体では異種材料界面が特性に大きな影響を及ぼす。これまでは単に単一体的な界面を考えがちであったが、今後は、合成時の界面の変化を含めた界面の挙動を解析するほかに、界面のインターコネクト材の利用をも考慮した異種物質間の界面の基礎研究も重要である。 ・記憶材料:これは現在でも大きな分野であるし、将来にわたってなくなることはない。新材料の開発、特にデバイス化のために必要な種々の電気特性を総合的かつ最適に活用した材料の開発とデザインが重要である。 ・酸化物高温超伝導材料の探索とデバイス化技術:超高速コンピューター、SQUID、ミリ波帯用高性能素子などには、高Tc、高Jcの超電導材料の開発が欠かせない。さらに、より高温安定で安価な材料が求められている。開発された材料を実際に使う場合は超電導薄膜および厚膜にする成膜技術、また、これらの超徹細加工技術などデバイス化技術が重要である。 ・高周波領域に於ける電気的特性に優れた材料の研究開発:移動体通信、衛星通信、光ファイバー通信などマルチメディア社会を支える基幹技術における超高速化、大容量化は今後急速に進み、これに対応する高周波領域で高度な機能を発揮するセラミック材料の開発が重要である。 (2)環境関連材料 ・環境調和型セラミックスの開発:例えば、セラミックス圧電体や強誘電体では、鉛を多く含む組成が使用されている。このように、製造中あるいは廃棄後に環境に負荷を与える元素を含まないエレクトロセラミックスの探索が重要である。また、バルク型セラミックスは高温で焼成される。焼成温度を低下する組成や製造プロセスの開発が重要である。 ・二酸化炭素関連:CO2ガスの分離技術(セラミックフィルター材料)やCO2ガス固定化技術によるCO2の削減が必要である。例えば、燃料電池用に開発されたセラミックスがCO2固定化剤として高い特性を有するように、エレクトロセラミックスとして用いられている素材もこの分野の用途に重要な働きを持つ。そこで、電子材料としての機能の探索だけではなく、CO2分離・固定化剤としての機能探索が重要になる。 ・NOx関連:酸化物NOx触媒やTiO2光触媒の開発およびセラミックエンジンの採用によるNOxの低減を目指す素材探索とデバイス化が重要である。 ・リサイクル:環境への負荷を少なくするために、リサイクル可能なセラミック材料の開発やセラミックスのリサイクル技術の開発が必要となる。 ・ 電気的特性を利用した環境汚染物質除去の研究:環境汚染物質の除去には化学反応が伴う。 (3)プロセス開発・ナノテクノロジー 上記の情報通信関連およびエネルギー・環境関連のセラミックスの実用化には、素材の揮発だけではなく、材料の新しい製造プロセスの開発が必要である。 ・ナノテクノロジー:エレクトロセラミックスの構成単位である粒子のサイズがミクロン単位からナノメーター単位になりつつある。粒子サイズは物性にも影響を及ぼすが、製造プロセスにも大きな影響を及ぼす。ナノメータサイズの粉体では、粉体粒子間の凝集がその取扱いを困難にする。また、バルクや薄膜において粒径分布を狭く保ったまま高密度の多結晶体にするには従来の技術の延長では困難である。そのため、ナノメーターのオーダーの粒子を持つセラミックスの製造技術を開発する必要がある。 ・素子の薄膜化・微小化技術:エレクトロニクスにおけるダウンサイジングの流れはまだしばらく続く。このため材料や素子の薄膜化、微小化技術が重要となると考えられる。現在、いろいろな薄膜作製技術が提案されているが、安価で技術的に容易な薄膜作製技術の確立が求められる。また、Si半導体が主体の集積回路にセラミックスを導入するために、LSI製造技術とマッチングした薄膜製造プロセスの開発が必要である。 ・薄膜の精密設計:現在、原子レベルのマニピュレーションが可能になる技術レベルに達しつつある(人工格子など)。これらの技術を用いることにより、原子(イオン)の配置を制御した薄膜の作製法を確立し、構造と性質の関係を明らかにする必要がある。この技術は究極のナノテクノロジーといえる。 ・微細構造を制御したセラミックス:エレクトロセラミックスの多くはは結晶粒子の集合体である。良好なセラミックスを得るためには、結晶粒子一つ一つの構造を制御する必要がある。現在は、これらのセラミックスが作られ始めた段階である。例えば、分子集合体や結晶粒子をテンプレートに用いたり、バイオミメティツク合成を利用することにより、結晶粒子の形態や配向方向を制御したバルクおよび薄膜セラミックスの製造技術を確立する必要がある。また、2次元配向膜の表面の性質を利用した低次元材料デバイス構築法の開発も、新規な機能を発現させるために必要である。 ・複合体の作製技術:従来、エレクトロセラミックスの複合化というと、複数のセラミックスを含む複合体を意味していた。しかし、更なる小型・高機能の素子、あるいは、複雑形状の素子を作製するためには、セラミックス、有機ポリマー、金属などの異種材料を複合する必要がある。そのために、複合化に適した素材と製造過程を開発する必要がある。例えば、従来の成形法に加え、電気泳動、磁場、重力場、応力場などの外部場を利用した成形法が挙げられる。また、高度な機能を有する複合体を作製するためには、ナノサイズの精度を有する回路パターンが必要になり、パターン付与技術も開発しなければならない。 ・セラミックスの省エネ製造:従来のセラミックスは高温で加熱して作られる点で、エネルギーを多く消費していた。しかし、省エネルギーのためのセラミックスの製造法を開発する必要がある。例えば、材料組成を調整することにより焼成温度を低下する合成法や、電着法等の利用により焼成過程を経ないでセラミックスを作製する方法を開発する。 (4)エネルギー関連分野 ・新エネルギー源創出のための材料の探索で、電池、太陽光発電、燃料電池、熱電変換素子、廃熱利用システム材料などがこれにあたる。これらの材料は、電気エネルギーを作る機能の他に、省エネルギーと二酸化炭素削減への貢献という側面も有する。 ・リチウムイオン電池:Liイオン電池は、情報通信携帯機器や電気自動車への応用に多大の期待が寄せられている。この電池を構成する材料の開発が応用への課題解決への重要な手掛りの一つとなっている。 ・色素増感型太陽電池:太陽電池は、化石燃料の大量消費による地球温暖化や大気汚染など、地球環境問題とエネルギー問題を解決する切り札として期待されている。一方、シリコン太陽電池はコストが高いため、IC用の規格外品の多結晶シリコンが原料として使われているが、これも安定供給が困難となっている。低コストで豊富に存在するワイドギャップ半導体酸化物を用いる色素増感型太陽電池の開発が待たれている。 ・SOFCの研究:高性能電解質及び電極材の開発や平板型モジュールの設計、組立などの研究が重要である。 ・熱電変換素子:廃熱を電気に変えるという意味で省エネルギーと二酸化炭素削減に貢献する熱電変換素子では、金属間化合物が主に注目されていたが、酸化物でも効率の高い物質が発見され、今後の進展が期待される。酸化物熱電変換素子は次の2点の特徴を有する。[1]金属間化合物に含まれる有害な重金属を含まない。[2]セラミックスの結晶構造は金属より複雑であり、結晶構造の異方性に関連した熱電特性の異方性を制御する方法を導入できる。 ・新触媒:従来型のものに加え光触媒や燃料電池とともに用いられる触媒等の新しい材料の開発と実用化が多くの分野で期待されている。 ・電気化学的なアプローチ。電池反応の多くは電気化学的なものであり、従ってこの分野での基礎科学的課題へのセラミックス材料による貢献も可能と考えられる。 (5)基礎研究の充実 新しい電子セラミックスを開発する上で、基礎研究の充実も不可欠である。特に必要とされる領域は、以下の3点である。 ・ナノテクノロジー:エレクトロセラミックスを構成する結晶粒子のサイズはミクロン単位からナノメーター単位へ微小化している。結晶粒子がナノメーター領域に入ることにより、例えば量子サイズ効果や欠陥の導入などにより、物性に影響が生じる。従って、ナノメーターの結晶粒子で構成される物質について、微小領域での化学組成、結晶構造、格子欠陥、ドメインなどの物質の構造を確定し、電子、光などの物性と構造の関係を調べ、物性を支配する因子を明らかにする研究が必要である。 ・複合体:異種物質からなる複合体は、いろいろな種類の界面を持つ。これらの界面は、製造プロセスと物性に影響を与える。製造プロセスを設計するためには、界面における原子の配列(格子欠陥)、熱力学的性質(相の安定性)、拡散などの物質移動および熱膨張などの力学的挙動を把握する必要がある。また、物性に及ぼす影響を明らかにするためには、界面における物質の電子および光物性を把握しなければならない。これらのことは、実用材料での調査は困難であり、モデル界面を用いた基礎研究が必要である。 ・シミュレーション技術と材料開発:エレクトロセラミックスの材料設計は、従来、試行錯誤により得られたデータに基づいて行われていた。しかし、基礎データの蓄積により、シミュレーションにより材料の設計と作製プロセスの設計が可能になる段階に入ってきた。シミュレーションによる材料設計は、特に複雑な組み合わせを有する複合体に対して有効である。今後、セラミックス材料設計の為のシミュレーション技術を向上させると共に、シミュレーションの基礎となるデータベースの整備が必要である。 重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野 [2]情報関連分野:(1)の課題 [3]環境関連分野:(2)の課題 [4]ナノテクノロジー・材料分野:(3)の課題 9.1 生体関連セラミックス材料分野の現状と必要とされる科学・技術 日本や欧米の先進諸国では急速な社会の少子・超高齢化の進行に対応すべく、生体の支持組織(骨、関節や歯)の修復材や置換材用として、生体に埋入(インプラント)されほぼ半生にわたる長期に安定な材料(バイオマテリアル)の開発を行ってきた。臓器の一部または全機能を代行する人工臓器としては、ポリマー製の血管やカテーテル、あるいは金属の人工歯根や関節が開発されてきた。しかしながら、これらは生体とのなじみ(生体親和性)が限られているため、長期間生体内で安定に活用することが困難であることが指摘された。セラミックスはイオン結合からなる材料で、優れた生体親和性を有することより、既にリンとカルシウムからなるハイドロキシアパタイトや高強度を有するジルコニアセラミックスは単独または、金属やポリマーとの複合化により人工関節や人工歯根として臨床応用されている。セラミックスはこれらに加えて、抗菌材、生体関連物質の分離精製材、医薬徐放材、バイオセンサー、バイオリアターなど多種多様な応用が研究されている。したがって、生体関連(バイオ)セラミックスの応用は医用のみならず、汚水の浄化や、土壌の改質、有害物質の除去など環境材料としての活用も大いに期待されている。バイオセラミックスの優位性を勘案して、前回(平成11年3月)の21世紀ビジョンの提言においてもバイオセラミックスを用いた数種類のプロジェクトが提案されている。 バイオセラミックスの研究・開発は学術的には世界の最先端のレベルにあると評価されている。しかしながら、大学および企業の研究者の数は十分とは言えず、しかも現在の日本の医用材料は80~90%を輸入に頼っていて、その費用は数千億円に達すると言われている。少子・超高齢化社会を想定すると今後は一層の膨大な輸入額が予想され、国内産業の育成からも早急に対策を立てるべきであろう。 これらに対処するには、在来のインプラント材の改良のみでは十分には対応できないであろう。この間に、生体に関する生体組織や臓器の再生や修復に関する科学(ライフサイエンス)は大きく進展した。あらゆる臓器や組織を形成していく幹細胞を利用するティッシュエンジニアリングや、遺伝子解析と操作を目的としたゲノム科学、生命現象を分子レベルで解析を行う分子生物学の進歩は新規な生体関連セラミックスの開発にも大いに役立つものと考えられ、同時にこれらの進歩を実用化する上でセラミックスの重要性はさらに増していくものと期待されている。また、本来生体とバイオマテリアルの反応は分子レベルで進行していくので、ナノテクノロジーの利用は以前から検討されている。これらの周辺科学や技術の進歩を勘案し、前回の提言を併せて、以下の分野をこれからの重点研究領域として挙げる。
これらがもたらす成果は以下に示すように人々の生活の質(QOL)の向上に資するのみならず、新産業の創出を促し、膨大な社会貢献をするものと期待される。 9.2 具体的体研究課題・方策と研究成果の展開 重点分野について、以下の課題がある。 (1)バイオセラミックスに関連する課題と方策
(2)環境用セラミックスに関連する課題と方策
(3)ナノテクノロジーのバイオセラミックスへの応用に関する課題と方策
(1)と(3)の成果は高齢者や疾病患者のQOLの大幅な改善と、新規なバイオデバイスや治療法の創出につながり、関連市場の大幅な拡大をもたらすであろう。(2)ではセラミックスの親和性や安全性を活用するもので、新規な応用を創出する可能性があり、新産業への発展が期待される。 上記の課題を具体的に推進されるには次の事柄が重要である。医用材料は医薬品と同様に、基礎研究から実用化まで長い期間と多額の費用を要する。しかも医薬品と異なり、実用化後大量消費を望めない。従って大学、公立研究機関、企業、いずれにおいてもこれを研究テーマとして取り上げる人は少ない。しかし、高機能医用材料開発への社会的要請は大きい。そこで、この分野の研究を推進するためには、次のような特別な資金的支援が求められる。
重点4分野については、以下の課題がある。 [1]バイオ関連分野:(1)の課題 [2]情報関連分野 [3]環境関連分野:(2)の課題 [4]ナノテクノロジー・材料分野:(3)の課題 〔付記〕 本参考資料は、日本セラミックス協会ビジョン改訂検討委員会の協力を得て作成された。ここに委員会の委員名簿をあげ、感謝する次第である。
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