会長 村田 恒夫

新年のご挨拶

令和6年能登半島地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、被災者の救済と被災地の復興支援のためにご尽力されている方々に深く敬意を表します。

2024 年の年頭に当たり、会員の皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。皆様にとって意義深く有益な一年であることをお祈り申し上げます。

世界の政治・経済の状況は一昨年から続くロシアによるウクライナ侵攻、そしてハマスによるテロとその後のガザにおけるイスラエルとの武力による激しい紛争が続く中、エネルギー価格の高騰から世界的なインフレーションの拡大とそれを鎮静化するための欧米における政策金利の引き上げが世界の経済活動を停滞させる危険性を膨らませています。また、コロナ後の中国経済は成長への期待が膨らみましたが、不動産市況の低迷や若年層の失業率増加などさまざまな課題が噴出し、出口の見えにくい混とんとした状況が続いています。

政治・経済環境が不安定な中、世界の気候は温暖化が進み、日本では局所的豪雨の頻発や台風の巨大化といった変化が見られるように、世界中で 100 年に一度と言われる異常気象が日常化しています。こうした気候の変化により農産物の栽培適正地が変化したり、砂漠化が進展したりとさまざまな変化が加速しているとの情報が溢れています。

企業の活動においては SDGs の観点から社会的な課題解決に向けた取り組みが強化されつつあります。これまで経済合理性の低さを理由に後回しにされてきた課題も多く、解決に向けたブレークスルーが必要とされています。これまで以上に産学の連携でこうした難題に取り組む必要があり、当協会としてもこうした課題解決への挑戦を応援すると同時に、情報の共有によるイノベーションの加速に寄与して行きたいと願っています。特にこうした課題に対し若い世代の方々は強い関心を持っており、そうした若い力をひきつける活動を進めることが当協会の発展にもつながると考えています。

世界ではデジタル化の流れが加速しており、さまざまな領域でデジタルデータをベースにした課題解決が加速化しています。材料研究の領域においてはマテリアルズ・インフォマティックスを活用して、これまで多くの実験を必要としていた研究がシミュレーションを通じて加速されたり、モノづくりの現場においてはこれまで見えていなかった現象を可視化したりすることで認識できていなかった因果関係が明らかになり、課題の解決が加速しています。AI を活用することで人間では整理するのが困難であったビッグデータを集積・分類し、予知しえなかった連関性を示唆したりすることが可能となっています。さらに化学プラントでは計測で得られたデータと化学反応の物理モデルを融合させて予測させ、それと加工された成果物の出来栄えを突き合わせて、サイバーとフィジカルの両領域の再現精度を上げることが出来ています。

また、世界の新たな潮流として生成 AI が実用化のレベルに達しており、これまで人の行ってきた比較的単純な反復事務作業などは AI に任せたり、過去の情報の中から課題を整理する作業も AI が行ったり、ある面では利便性が高まっていると言える半面、コピー&ペーストとは言えないような構成力をも身に付けた文章作りさえもやってしまう時代が来つつあり、人間にしかできない高いオリジナリティー、新たな発想が強く求められています。

激動する社会情勢やアプローチの転換が求められる世界のなかで、当協会の会員の皆様方が革新的なチャレンジを継続し、社会全体がありたい姿に一歩でも近づける有意義な 1 年となりますことを祈念して、新年の挨拶とさせていただきます。


Tsuneo MURATA(President, The Ceramic Society of Japan)
Presidential New Year's Address


 [2023年6月]会長就任のご挨拶