会長挨拶
会長 村田 恒夫
会長のご挨拶
世界の経済はコロナ後の回復が期待される中、欧米ではインフレーションが加速し、インフレ抑制のための金利上昇、高止まりが継続しています。中国では2023 年初めにゼロコロナ政策が終了し、経済の回復が期待されましたが不動産不況の影響を受け、経済全体の活気が欠けています。こうした経済環境の中、日本においてもインフレーションの兆しが強まり、2024 年の春闘では労働力不足から大企業を中心に5%を超える賃金上昇が合意され、物価と賃金上昇の好循環が実現されようとしています。こうした経済環境を背景に日本銀行は3 月に長らく続けて来た「マイナス金利」政策の解除に踏み切りました。また、株式市場においては34 年ぶりに日経平均株価が最高値を更新しましたが、日本経済全体としては成長の高揚感に欠け、円安の影響もありますがGDP はドイツの後塵を拝し世界第4 位に落ちてしまいました。
この1 年、世界の話題をさらったのはChat GPT で、生成AI は一気に普及し第4 次AI ブームに突入したと言われています。今後その活用分野が広がると予想されるAI は、半導体産業ではAI 機能を搭載したチップの開発に拍車がかかっており、ディープラーニング系のAI サーバーや機能限定型のエッジ端末などの普及はすぐそこまで来ています。材料科学の分野ではマテリアルズ・インフォマティックスの活用分野が徐々に広がりつつあるようですが、その成果を目にする日は近いように感じます。間接生産性の低さが指摘される日本の社会でありますが、こうしたAI の活用に乗り遅れることがあれば、さらに世界とのレベル差が広がりかねないと懸念します。
2023 年の記録的な猛暑で地球の温暖化が進んでいることを体感することになりましたが、化石燃料からの脱却が進まない背景には経済合理性を実現できない壁があり、そうした環境対策におけるブレークスルーが求められています。温暖化だけではなく有限な資源の循環は持続可能な社会の実現に向けての喫緊の課題であり、全世界の英知を集めて対応すべき課題と認識しています。
産業界では個社それぞれの環境対策の成果を持ち寄り水平展開していますが、まだまだ効果が限定的です。産学共同はこれまでに幾度も連携強化の必要性が発信されていますが、まだ大きな動きや成果が見られていないように感じます。セラミックスにはさまざまな機能があり、有害物質の無毒化や分解の加速、環境負荷物質の吸収や再資源化などへの活用も期待されています。また、セラミックスに含まれる希少資源の循環にも注目が集まっており、今こそ産官学をあげてSDGs に向けた取り組みを強化すべきではないでしょうか。人材不足が叫ばれる昨今、学生達からの企業選択の重要評価項目には環境課題への取り組みに対する姿勢、先進性があり、環境への意識の高まりは予想をはるかに超えるレベルにあります。これはおそらく就職に対する選択基準だけでなく、アカデミアにおける専攻科目や研究室の選び方にも当てはまることでしょう。
日本は環境先進国を掲げ、謳ってきましたが昨今の他国の取り組みは迅速で、今や日本は環境や循環社会のルール作りにおいては遅れつつあるようにも見えます。日本セラミックス協会としても日本の科学技術の先進性をこうした方向にベクトルを合わせ、経済価値と社会価値の両輪が、そして産と学との両輪がしっかりと回転することを支援してまいりたいと思います。
Tsuneo MURATA(President, The Ceramic Society of Japan)
Greeting from the President