会長 村田 恒夫

新年のご挨拶

2025 年の年頭に当たり、会員の皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。皆様にとって意義深く有益な一年であることをお祈り申し上げます。

昨年は元日に能登半島で大きな地震があり、甚大な被害が発生しました。その後は半島のインフラの脆弱さが障害となり、多くの支援が投入されたにもかかわらず復旧は遅れています。また9 月の集中豪雨が更なる被害を生み出し、立ち直りかけていた能登の人たちの心を折るような打撃を与えました。自然災害とは言え、昨今の各地での線状降水帯の発生や猛暑日の年間最多日数更新などは、人類が利便性を追求する過程で排出してきた地球温暖化ガスの増大が、いくばくかの影響を与えていると考えます。

企業は利潤の追求といった経済価値の向上を目的とする一方、社会の永続的発展を実現するための環境維持を義務として担う立場にあります。自然環境の維持に対しては、すでにさまざまな規制や目標が設定され、それを達成できないものは経済活動を継続するに値しないものとして、コミュニティーから否定され、はじき出されるものと認識しており、SDGs への取り組み強化は喫緊の課題です。

環境維持の中には「CN=Carbon Neutral」や「CE=Circular Economy」の目標があり、それぞれの企業は達成すべきマテリアリティーを設定し、目標達成に向けた取り組みを加速しています。ただ、企業はこれまでは経済価値向上のための研究や開発に力を入れて来た一方で、環境維持、改善のための研究は不十分であったと言わざるを得ません。環境課題への対応には自社がこれまで培ってきた分野と異なる知識や技術が求められることに加え、川上や川下のバリューチェーンの連携の中で解決策を導く必要があり、単独企業だけで成果を出せる領域には限りがあります。

昨年の当協会の秋季シンポジウムにおいて、招待講演ではCN、CE といった課題へのいくつかのアプローチが紹介されました。リチウムイオン二次電池やネオジム磁石からの資源回収やガラス業界のリサイクル技術、セメント業界のカーボンニュートラル技術などの紹介があり、それぞれの業界が環境課題の解決に向けた取り組みを進めていることを理解し心強く思いました。一方でそれぞれの分野での取り組みから一歩踏み出した、連携や共同研究の活動へは至っていない物足りなさも感じました。当協会は複数の学術分野の活動に携わっており、そのそれぞれが環境課題に関わる活動を共有したり、他の活動に対して課題解決の糸口となるような技術や発想を提供できるのではないかと思います。

一昔前、日本は高度経済成長の過程でさまざまな公害を生み出してきましたが、その後環境の維持、改善の重要性を深く理解して国を挙げて解決に取り組み、世界的にも「環境先進国」と認識されました。その過程で生み出された技術は世界中で活用され大きな経済価値も生み出しました。しかし現在の日本は、環境先進国ランキングで21 位に後退してしまっています。環境という広く範囲の長いバリューチェーンの中で課題解決が求められる中で、セラミックスの技術が役立つ分野は少なからずあると信じています。

日本セラミックス協会とその会員メンバーがそうした活動の先頭に立ち、組織横断的な活動を通じて世界の環境課題解決に貢献できることを期待しています。


Tsuneo MURATA(President, The Ceramic Society of Japan)
Presidential New Year's Address


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