日本セラミックス協会 夢ロードマップ

夢ロードマップ2014

夢ロードマップ2011

 

 

夢ロードマップ2014

人々の心豊かで幸せな生活をセラミックスの科学・技術で実現する


 2013年11月,前期21期にまとめた「理学・工学分野における科学・技術ロードマップ」を改訂する「理学・工学分野における 科学・技術ロードマップ2014」について,日本学術会議第三部(理学・工学)の元に設置された「理学・工学系学協会連絡協議会」より協力の依頼がありました.科学技術委員会より部会に協力を依頼し,担当者をご指名頂き,各部会より提出された原案を元に2013年12月に検討会を開催し,セラミックス分野の夢ロードマップ2014年をとりまとめましたので,紹介させていただきます.

 今回,資料の作成にご協力いただいた部会,支部の方々に心より感謝します.

(2014年1月5日  文責:科学・技術委員長 鶴見敬章)

 

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 セラミックスは無機固体材料の総称であり、古くから陶磁器として人間の生活に密着してきた材料である。技術の進展にともないセラミックスの応用分野は広範囲に拡大し、それを支える科学・技術も化学分野だけでなく物理、生命科学、ナノテクノロジー、計算科学など極めて多くの分野にわたっている。時代の変遷によりセラミックスの使われ方は変化しても、セラミックスに関わる研究・開発は一貫して「材料技術で人の生活に貢献する」ことを目標としている。しかしながら、近年、生活への貢献の内容は大きく変化しつつあることも事実である。かつては経済成長にともなう便利さや物質的な豊かさの追求が研究・開発の目標とされてきたが、地球温暖化、人口爆発、資源・エネルギー枯渇など多くの地球規模での問題が顕在化するにつれ、持続性のある社会の実現を人々は望むようになり、それにともない研究・開発の目標も「物質的な豊かさ」から「心の豊かさ」へのシフトしている。このような中でセラミックス化学分野の目標は、「人々の心豊かで幸せな生活をセラミックスの科学・技術で実現する」ことであり、この目標を達成するための具体的な「夢」を以下のように設定した。

 

安心・安全のための材料
 人の居住空間、輸送機関、公共施設、さらには食品、薬品の安全性の確保には、センシング技術が重要な役割を果たす。焦電素子による赤外線センサーはそのまま人侵入者センサーへの応用が可能であり、その他にも麻薬、爆発物、有毒ガス、毒物・劇物、細菌・ウイルスなどのセンサーの多くにはセラミックス材料が使われる。これらはセキュリティーセンサーと呼ばれるものである。センサーはもともと人間の五感を代替するものであり、それらの発展も人間の生活を豊かさに貢献する。感性センサーと呼ばれるこれらのセンサーには、目や耳の不自由な人を助ける視覚・聴覚センサー、食品の品質を向上するための味覚センサー、高性能ロボットが持つ触覚センサー、さらには、快適な空間を実現するための匂いセンサーなどがある。一方、放射性廃棄物の処理技術は、人々の安心・安全を実現する上で必須である。セメントやガラスによる放射性廃棄物の固化・貯蔵技術の開発は、セラミックスの夢として実現しなければならない。さらに、公共施設での安全・安心の空間は、閉ざされた密室ではなく、プライバシーを保ったうえで制御された公開性を必要とする。特殊なガラスによるシースルーセラミックスはこのような空間を実現ための材料である。

 

高度センシング・信号変換材料
 人の生活に貢献するエレクトロニクス製品は、何らかの信号を受信し、それを変換して出力している。受信の部分を担うのが高度センシング技術で多くのセラミックスが使われる。たとえば、温度、圧力、湿度、ガス濃度、液体・気体流量、微粒子濃度、アルコール濃度などで、これらの性能向上を図ることはエレクトロニクス製品の機能向上のため必要である。特に高温で使用できる圧電センサー(圧力センサー)は、内燃機関のシリンダー内爆発圧力や火力発電所の排気ガス圧力のセンサーとして期待されている。電気回路における受動部品には抵抗(R),キャパシター(C)、インダクター(L)があり、信号(波形・位相)変換素子として利用されている。これらの素子の多くはセラミックスでできており、既に産業として成立し、我が国も最も強い産業分野の一つとなっている。これらの産業の競争力をさらに高め、画期的な新材料や新技術を作ることが本分野の夢であり、そのための科学・技術の進展を図る。広義の信号処理は、電気・磁気・機械的な信号の相互変換を意味する。たとえば、圧電素子は電気―機械信号の相互変換素子として多くの分野で使われている。電気(誘電)-磁気の変換はマルチフェロイック材料として基礎研究が盛んな分野である。新規な信号変換材料は、そのまま新規デバイスの実現に結びつくため産業界からの期待も高い。時間はかかっても基礎研究から体系的な取り組み、最終的には全く新しいデバイスの実現という夢を実現したい。

 

美感性材料
 ディスプレイ用ガラスは、現在のセラミックス産業の中で大きな市場を有する分野の一つであるが、さらなる薄型・軽量化が強く求められている。ガラスのみならずセラミックスに共通する本質的な弱点である脆性克服のために、先ずは次世代精密加工や次世代表面修飾プロセスが研究対象となる。さらに、革新的な超薄・軽量型のタッチパネルや光子操作など高度な情報処理機能を有する新型ディスプレイが未来に向けた開発目標となり、その先には人間の感性に整合するあらゆる形態や機能化が可能な美感性材料へと昇華して行く。

 

蓄光・蓄熱用材料
 次世代の発光や発電材料の開発が盛んであるが、同時に、種々のエネルギー形態の中で利用されずに捨てられる割合の高い光熱エネルギーに着目する。これらは、これまではあまり顧みられなかった分野であり、太陽光の未使用成分の蓄光(タイムシフターによる夜間発電など)や膨大に散逸している熱エネルギーの集散・回収に役立つ熱集積回路などを、形態制御や微細・大型化が容易でかつナノ結晶化等により機能複合化が自在となってきたガラスを母体として開発する。実際には、既存の太陽光発電や熱電素子等の機能を損ねることなく、シースルーカバーのような形状により、発エネルギー機能と蓄エネルギー効果を集積化する。

 

高性能蓄電システム
 エネルギーの形態として最も優れているのが電気であることは誰もが認めるところである。しかし、エネルギー源としての電気には「貯める方法が限られる」という決定的な欠点が存在する。この意味で高性能蓄電システムの研究・開発は、現在、人類が取り組むべき最重要の課題であると言っても過言ではない。重量あたりのエネルギー貯蔵量が最も高い素子がリチウム電池であるが、これ以上の向上には抜本的な技術革新が必要となっている。リチウム固体電解質の利用、リチウム―空気電池の実現はまさに夢であり、そのためにセラミックス技術も中核的な役割を果たす。一方、積層セラミックスキャパシターは、放出するパワーの密度では非常に優れているものの、重量あたりのエネルギー貯蔵量は非常に小さい。蓄電システムとして積層セラミックキャパシターを使うには、パワー密度を決める周波数特性は犠牲にしてもエネルギー貯蔵量を増やす材料・素子構造を作る必要がある。現在の高度セラミックス製造技術を用いれば決して不可能ではなく、目指すべき夢として挙げておく。

 

環境浄化材料
 現在、PM2.5や環境ホルモン等、または放射性同位体等の汚染が非常に問題となっている。これらの問題について、まずはセラミックス多孔体を用いて、有害物質の吸着除去について検討する。セラミックスは耐熱性や物理的耐久性に優れており、これは多孔体を高温で使用したり、また再利用するのに非常に役立つ。次の段階としては、光触媒による分解除去である。吸着した有害物質を、特に可視光型光触媒によって分解したり変質させることができれば、新たなエネルギーの投入なしに環境浄化が可能となる。さらに燃焼により発生し、現在問題となっているPM2.5の回収除去など、有害物質から有害微粒子へとそのターゲットを広げていき、最終的には統合的な有害物質や微粒子の除去技術を確立する。

 

特定元素の回収・除去システム
 戦略物質である希土類元素、白金族、リチウム、コバルトやヘリウムなど、比較的貴重な元素の使用量を少なくする技術は非常に重要であると同時に、使用済み部品から、これらを回収する技術も非常に大切である。特定元素の回収・除去については、まずはセラミックス多孔体や層状化合物への吸着を検討する。元素サイズや分子形状によっては、セラミックス多孔体で吸着可能な場合もあるし、イオンであれば層状化合物へのイオン交換による回収が現実的である。またセラミックス表面と回収元素との相互作用が重要なキーポイントとなることから、表面を改質しつつ、疎水性相互作用、双極子相互作用などの種々の相互作用を駆使して、特定元素が回収可能な材料の創製を目指す。最終的には、それらの材料を組み合わせた特定元素回収システムの構築を目標とする。

 

ナノ粒子の科学・応用技術の確立
 新しいナノ粒子構造指針を開発する。例えば、人間の感性に訴える光学機能性といった新しい特性をもつナノ粒子を得るため、感性工学との融合によりナノ粒子構造を設計する。
粒子生成反応が進行する化学反応場を高度制御する「ケミカルデザイン」により、ナノ構造制御したナノ粒子を合成する。ナノ粒子の重要な応用分野である環境浄化(光触媒等)、エネルギー有効利用(燃料電池、先端電子デバイス等)、さらに、医療診断デバイス(医療機器、ヘルスケア)への応用を実現する。

 

脆性克服のための材料科学
 破壊靱性パラメーターを再検討して、ナノ構造に対応する破壊靱性理論の再構築し、ナノ構造制御材料による破壊靱性の向上をめざす。共有結合あるいはイオン性結合とともに金属結合性領域をもつ、言い換えると異種結合性領域を内在する超配向バルク体の作製をめざす。この新しい材料設計を実現するため、新規な前駆体となる特異構造粉末を用いてバルク体作製を実現する。前駆体の結晶構造を利用した超配向技術を開発し、均質な超複合化焼結体を作製する。強度・靱性の高度化により、高度非脆性材料を開発する。

 

高効率航空機用エンジン部材
 燃料費削減及び環境負荷低減の観点から、航空機の燃費向上が強く求められており、その実現にはジェットエンジンの重量減と熱効率の向上が鍵となる。熱効率の向上には、タービン入口温度を高めることが効果的であり、例えば、従来材であるニッケル基超合金の場合には、タービン入口温度を高めるために、空気冷却に加えて、遮熱コーティングの適用が検討されている。また、セラミックス基複合材料は、ニッケル基超合金と比べて比重が1/4と軽量であり、1300度以上の高温でも使用できる耐熱性から、次世代タービン部材材料として注目されている。候補材の一つであるSiC等のSi系セラミックスは、水蒸気雰囲気中では、減肉するためにジェットエンジン部材に用いる際には耐環境コーティングが必要になる。そのため、高効率航空機用エンジンセラミック部材及び遮熱・耐環境性コーティングの開発を目標とする。

 

大型部材製造プロセスの確立
 軽量で、剛性が大きく、耐熱性・耐食性に優れたセラミックスを製造装置やシステムに組み込むことで、製造効率の向上が期待される。例えば、液晶・半導体製造ラインでは、セラミックスを大型の精密生産用部材として活用することで、製品の処理能力の向上や微細加工化が可能となる。これらの要求に応えていくには形状付与の自由度を高める必要があるが、従来の一体型のセラミックス成形技術では対応が困難である。軽量・高剛性・高精度セラミック部材を実現するために、例えば、高機能化された小さな精密ブロックを作製し、立体的に組み上げ、高効率で接合・一体化して所望とする大型(巨大)化・複雑化・精密性全てを満たした部材を得ることのできる革新的なプロセス技術の確立を目標とする。

 

おいしい水を作る材料
 水は、人類をはじめとする生物の根源の一つであり、人類はこれまで安全な水を作ることに邁進してきた。我が国では既に水は安全・安心なものとして水道より供給されるが、世界的にはまだ水道水を安心して利用できない国も多い。また一方で、我が国においても、自然災害時等に安全なおいしい水を手に入れるのは困難な場合もある。さらに、一部では水に対して偏った信仰も存在し、非常に高価に販売されている例もある。そのため、安全・安心な水を作る材料開発は、人類を豊かにする技術として非常に重要である。まず初期段階としては、有害物質の除去や殺菌などの水質調整を簡易に行える技術を開発する。続いて、触媒やセラミックスセンサ等による安全性確保技術を検討し、最終的には、水質改善システムを構築する。

 

生体環境に調和する材料
 セラミックスは医療分野において、歯や骨に代表される硬組織の代替材料として用いられてきた。例えば、骨の代替材料には、様々なセラミックスが用いられているが、自家骨をしのぐには至っていない。生体骨は、応力に応じてリモデリングを生じ、骨梁を改善することにより安定した構造を有し、また、微小骨折が生じた場合、骨組織のリモデリングにより骨折部位を修復し、生体機能を回復する。このように生体内において、骨は吸収と再生を繰り返しており、埋入された骨補填材も同様に吸収され、自家骨に置き換わることが望ましいとされている。現在、骨補填材として幅広く利用されているハイドロキシアパタイトは、生体内において難溶性で自家骨に置き換わることが困難とされている。そこで、生体骨の組成や構造に類似したセラミックスや複合材料を開発することによって、生体組織と同様な機能を持つセラミックスの臨床応用が可能となる。

 

細胞に機能する材料
 セラミックスは生体内に埋入されると、無機イオンやタンパク質の吸着が始まり、細胞接着、機能発現を経て、損傷部位の治癒が開始される。セラミックスの組成や表面性状を制御することにより、細胞機能をマニピュレートすることが可能であり、硬組織や軟組織など適応部位の細胞種に適したセラミックスの創製や表面改質法の開発が期待される。しかしながら、セラミックスが細胞機能をマニピュレートするメカニズムは未解明のままであり、それらを解明し、細胞の機能発現に基づいたセラミックスの設計・創製が急務である。
 再生医療の発展と協調して、10年後にはiPS細胞/ES細胞や間葉系幹細胞などの幹細胞を含む細胞の増殖・分化を制御するセラミックスを創製し、20〜30年後には細胞の高次機能発現を制御、再生医療に資するセラミックスの実現が期待される。
 また、セラミックスは、薬物送達システム(DDS)の担体として開発が進んでいる。ナノサイズのセラミックスは、生体内において吸収可能であり、遺伝子や薬物の複合体を効率よく細胞に導入し、細胞の機能を調節しながら、タンパク質産生や遺伝子ワクチンを作製することが可能であることから、効率的な遺伝子治療を実現するDDSの担体として期待される。

 

高齢者の高度医療のための材料
 日本国内では、4人に1人が65歳以上になる超高齢社会を迎えて、基礎疾患を有する患者や高齢者が増加し、その治療方法や治療用人工材料の高度化が求められている。骨量および骨質の減少を伴う骨粗鬆症は、主に閉経後の女性や糖尿病患者などで主に発症し、骨形成の減弱と骨吸収の増加が認められる。このような生体反応をマニピュレートし、低下した生体反応をレスキュー可能なセラミックスの臨床応用により、セラミックスの適応範囲の拡大や、QOLの向上が期待される。
 また、セラミックスを生体内に埋入した場合、感染による抜去、再治療の必要性が生じる場合がある。生体機能が低下した場合、通常では予知し得ない感染が生じるが、抗菌活性を有したセラミックスの創製により、抵抗力の低下した高齢者や有病者においても、安心・安全な治療を行うことができる。
 また、中心静脈栄養などカテーテルを長期留置する場合などに抵抗力の弱い高齢者でも重篤な感染を防止する様なデバイスの創製が期待される。

 

 

 

 

 

夢ロードマップ2011

セラミックスはイノベーションを実現するキーマテリアルである

 

 2010 年7 月,日本学術会議第三部(理学・工学)の元に設置された「理学・工学系学協会連絡協議会」のメンバーに「理学・工学分野における科学・夢ロードマップ」作成にあたり,協力の依頼がありました.依頼文によると「(前略)誰もが魅力を感ずる理学・工学分野の科学の将来の夢を描いた図等を作成し,社会全体の理解や支援を得ていくことは大変重要である.イメージとしては,天球儀(時間を3次元的に放射状を含めて)の満天に理学・工学の夢が恒星や星雲のように光り輝くような形の「理学・工学分野の科学・夢ロードマップ」を作成していきたいと考えている.これによって,国民が理学・工学は魅力的で人類に恩恵を与えてくれると感じ,また多くの若者が自分も科学・技術分野の仕事に携わりたいと感ずるような影響を与えることができれば,大きな意味がある…(後略,依頼文より抜粋)」とあり,協会では理事会で検討の結果,その趣旨に賛同し,「グリーン・イノベーション」「ライフ・イノベーション」とセラミックスというテーマの元に,各部会関係者に協力を依頼し,セラミックス分野の夢ロードマップを作成し,日本学術会議に提出しました.今回はこの内容をご紹介します.関係者の努力による労作であるので,是非,関係各位にその内容を知っていただきたいと思います.


日本セラミックス協会科学・技術委員会としては,今回作成した夢ロードマップを実現するための具体的方策の一環として,プロジェクト提案なども視野に入れ活動をしています.科学技術を牽引するのは「夢」であることは言うまでもありません.東日本大震災後の日本は未だ復興の目処が立たず,人々は意気消沈しています.当委員会は,セラミックスこそが日本復興のキーテクノロジーだと確信し,セラミックスに関わる科学者・技術者の目標を具現化するため,今回,セラミックスに関わる夢のロードマップを作成しました.資料の作成にご協力いただいた部会,支部の方々に心より感謝します.

(2011年10月1日  文責:科学・技術委員長 鶴見敬章)

必要な箇所のみを昇温するセラミックスのプロセッシング
グリーンイノベーションを実現するための幾つかのアイデア 環境・生命技術開発のためのナノパーティクルイノベーション 常温・常圧セラミックスプロセスの実現とエネルギー関連部材の開発 バルクから膜へ,材料機能・資源の極限利用
生体・生物に働きかけるスーパーバイオセラミックスの創製 生体環境に応答する多機能発現型バイオセラミックス 摂取素材としてのセラミックス(健康になれるセラミックス)

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