夢ロードマップ2024

夢ロードマップ2018

夢ロードマップ2014

夢ロードマップ2011

夢ロードマップ2024

豊かな未来・夢を実現させるセラミックス

2011年、2014年、2018年に出されていた夢ロードマップの2024年版を作成致しました。2024年版はマイナーチェンジですが、カーボンニュートラルに関連する目標を〈CN〉と明記しました。現在では「夢」に近い機能や応用も、2050年頃には実現しているものも多いと思います。このような夢・目標に一歩ずつでも近づけるように努力する指標になれば幸いです。今回の夢ロードマップ2024の作成では、各部会や科学技術委員会など多くの方々にご協力いただきました。心より感謝いたします。

(2024年2月6日 文責:科学・技術委員会委員長 幾原 雄一)

画像をクリックするとPDFが開きます

夢ロードマップ・セラミックス分野2024 説明資料

セラミックスは無機固体材料の総称であり、古くから陶磁器として人間の生活に密着してきた材料である。技術の進展にともないセラミックスの応用分野は広範囲に拡大し、それを支える科学・技術も化学・材料分野だけでなく物理、生命科学、ナノテクノロジー、情報計算科学など極めて多くの分野にわたっている。時代の変遷によりセラミックスの使われ方は変化しても、セラミックスに関わる研究・開発は一貫して「材料技術で人の生活に貢献する」ことを目標としている。しかし、生活への貢献の内容は年代とともに大きく変化している。かつては便利さや物質的な豊かさの追求が目標とされていたが、地球温暖化、人口増加、資源・エネルギー枯渇など多くの地球規模での問題が現実化するにつれ、研究・開発の目標も「心の豊かさ」と「脱炭素社会の実現」へシフトしている。このような中でセラミックス分野の目標は、「人々の心豊かで幸せな生活をセラミックスの科学・技術で実現するとともに、2050年カーボンニュートラル社会の実現に貢献する」ことであり、この目標を達成するための具体的な「夢」を以下のように設定した。

図中、周辺部には、社会に係わる6分野と基礎科学に係わる1分野を示した。それに関連する14件の目標項目をその周辺に配置した。中心から外に向けて、各項目に関連するキーワードを記し、カーボンニュートラル関連は〈CN〉と記載した。
 



IoT・量子・エレクトロニクス 分野

センシング材料〔安心・安全 分野にも該当〕

人の生活に貢献するエレクトロニクス製品は、何らかの信号を受信し、それを変換して出力している。人の居住空間等の安全性の確保にも、センシング技術が重要な役割を果たす。温度、圧力、湿度、ガス濃度、液体・気体流量などのセンサ素子には様々なセラミックスが使われており、これらの性能向上を図ることはエレクトロニクス製品の機能向上や生活環境の監視のため重要である。高温で使用できる圧電センサ(圧力センサ)は、内燃機関内圧力や火力発電所の排気ガス圧力の検知用に期待されている。センシング技術は既に産業として成立し、我が国の最も強い産業分野の一つとなっている。また、様々な分子を対象とする化学センサは、ヘルスケア等の用途に加えて、医療、MaaS(Mobility as a Service)等の産業領域において、IoT、ビッグデータ、AIの進展と相まって、近年急速に注目度が高まっている。麻薬、危険ドラッグ、毒劇物、細菌・ウイルスなどを検知するセキュリティーセンサは人の安全の保障に重要となる。人間の五感を代替する機能の発展も人間の生活の豊かさに貢献する。感性センサと呼ばれ、目や耳の不自由な人を助ける視覚・聴覚センサ、食品の品質を検知する味覚センサ、ロボット用の触覚センサなどがあり、個々のサンサとともに感覚情報を総合して捉えるセンサへの発展が期待される。

情報・信号変換記録材料

信号処理は、電気・磁気・機械・光などの情報のそれ自身および相互の変換を意味しており、これらの変換機能を持つ材料・技術の研究開発は新規デバイスの実現に直結するため、高度情報化社会での有力な産業に結び付く。以下のような材料・デバイスの実現が期待されている。

パワーエレクトロニクスデバイスの利用は、高効率な電力変換およびエネルギー損失の低減に有効である。従来よりも高温で作動するため、半導体素子そのものに加えてキャパシタや抵抗体等の電子部品にも高温で安定に作動する特性が求められ、その開発が進められている。電気-機械信号変換を行うアクチュエータには様々な種類があるが、基本として大きな変位と変形駆動力はトレードオフの関係にあるため実現が難しい。両者を兼ね備え、さらにその制御性に優れるしなやかなアクチュエータは、様々な応用が期待できるため、重要な開発対象である。非常に多量な情報を高密度で記録できる素子や、多くの記憶素子(メモリー)を高集積化したシステムは、ビッグデータを扱う高度情報化社会では不可欠なものとなる。磁性、分極特性、抵抗変化など様々な機構での特性をもつ材料やその集積化プロセスの開発が求められている。

量子ドット半導体に加えてトポロジカル絶縁体・超伝導体等を用いた素子では、超高速演算、低消費電力、極微小素子化が可能と考えられている。このような量子効果エレクトロニクスによる、トランジスタ・センサの極小素子開発や超大容量コンピュータへの展開が期待される。また、光子は情報伝達・変換・処理の究極のキャリアとなる。光子操作が可能な材料にはガラス系や格子制御した結晶が考えられ、その基礎研究が始まっている。実現にはまだ課題が多くあるが、このような電子、スピン、光子を操り利用する材料・デバイスの研究開発は将来の社会への鍵となる。


エネルギー 分野

光・熱の高度利用材料

次世代の発光や発電材料の開発が盛んであるが、同時に、種々のエネルギー形態の中で利用されずに捨てられる割合の高い光・熱エネルギーに着目する。これらは、これまではあまり顧みられなかった分野であり、太陽光の未使用成分の蓄光(タイムシフターによる夜間発電など)や膨大に散逸している熱エネルギーの集散・回収に役立つ熱集積回路などを、形態制御や微細・大型化が容易でかつナノ結晶化等により機能複合化が自在となってきたガラスを母体として開発する。さらに短波長~長波長の広い領域の光を利用できる材料系やシステムを構築する。実際には、既存の太陽光発電や熱電素子等の機能を損ねることなく、シースルーカバーの様な形状により、発エネルギー機能と蓄エネルギー効果を集積化する構造が予想される。

エネルギー創出・貯蔵素子

エネルギーの形態として最も利便性があるのは電気である。物質の化学反応に伴うエネルギーを高効率で電気に変換する燃料電池は、小型素子~大型システムで開発されているが、まだ利用は限られている。水素以外の燃料を用いることができる低温用燃料電池、多様な混合ガスを燃料に用いることのできる高温用燃料電池が長期信頼性を備えて開発されれば、その普及が進むであろう。

電気には「貯める方法が限られる」という決定的な欠点があるため、高性能蓄電システムの研究開発は、現在取り組むべき重要な課題である。現在のリチウムイオン電池は高いエネルギー密度をもつが、大型動力用には難点がある。固体電解質を用いる全固体電池は、高安全性や体積当たりの高エネルギー化が期待できるため、硫化物系や酸化物系のリチウムイオン伝導体の研究開発が精力的に進められている。また、リチウム空気電池や、資源として豊富なNaKMgのイオンをキャリアに用いる電池も研究が行われている。一方、IoTやモビリティー向けにはエネルギー密度に加えて、軽量・省エネ(長時間作動)および高速応答性(高パワー密度)が求められる。高速応答性の実現に向けて、新規な電気化学キャパシタや積層誘電体キャパシタ、およびそれらと大容量電池との組み合わせが検討されている。太陽光・振動・温度差・電波など自然界や身の回りのエネルギーを回収し発電する技術であるエネルギーハーベスティングは、通常の充電が不要になるので、とともに、2050年カーボンニュートラル社会の実現に貢献するとともに、2050年カーボンニュートラル社会の実現に貢献する大電力を必要としないセンサなど省電力電気素子の使用には非常に有効である。高回収効率化とともに新たな機構の開拓により、広範囲な対象に利用が展開されるであろう


インフラ・モビリティー 分野

高度インフラ基盤材料

未来の社会環境に適応した“高度インフラ基盤材料”の構築を目指す。焼成温度の低減化や廃棄物の活用によりカーボンニュートラルと資源循環を促進する環境負荷低減型セメントの開発を進める。公共施設等での空間は、プライバシーを保ったうえで制御された公開性を必要とする。このような快適・安心空間の実現には、特殊なガラスなどによるシースルーセラミックスの開発が求められる。さらに長期的には、“未開拓空間用新材料”として、宇宙や深海、大深度地下といったこれまで未開拓であった超過酷環境空間の利用を可能とするための新材料の開発を行う。

航空宇宙用エンジン部材

航空宇宙用部材には、基本として軽量高強度な耐熱複合材料の使用が不可欠である。航空機では、燃料費削減及び環境負荷低減の観点から燃費向上が強く求められており、その実現にはジェットエンジンの重量減と熱効率の向上が鍵となる。熱効率を上げるため、従来材であるニッケル基超合金では遮熱コーティングの適用が進められている。また、セラミックス長繊維で強化したセラミックス基複合材料は、合金系と比べて比重が1/3と軽量であり、1400ºC以上の高温でも使用できる耐熱性から、次世代タービン部材材料として注目されている。候補材であるSiC等のSi系セラミックスは、高温水蒸気やエンジン内に取り込まれた火山灰・砂等の溶融物に対して優れた耐性を持つことが要求される。そのため、セラミックス基複合材料やそれを保護する遮熱・耐環境遮蔽性コーティングの開発が目標となる。これらの部材の研究開発の成果は、航空宇宙用のみならず、水素等のクリーン燃料を利用した様々な一般産業用燃焼システムへの展開が期待される。


安心・安全 分野
センシング材料〔IoT・量子・エレクトロニクス分野に記載〕
環境浄化材料・有害物質の除去〔環境材料・システム分野に記載〕

セメント材料

我が国がより発展的な社会、経済活動を続けていくうえで社会インフラはその基盤となるものであり、また社会インフラの形成においてはセメントなどの材料が担う役割は非常に大きい。焼成温度の低減化や廃棄物の活用によりカーボンニュートラルと資源循環を促進する環境負荷低減型セメントおよび安心・安全とともに長寿命でライフサイクルコストの大幅な低減を可能とする長寿命セメントの開発を進める。 


環境材料・システム 分野

 環境浄化材料・有害物質の除去

生活環境等における空気や水の汚れの除去は、健康や豊かな生活を持続するために不可欠な課題である。現在、PM2.5や環境ホルモン、PFOAPFOS等の微量有害物、また放射性同位元素による汚染が問題となっている。これらの除去には、有害物質除去と同様に、多孔体への吸着を用いることが有効である。吸着した物質を、可視光応答型光触媒によって分解・変質させることができれば、新たなエネルギーの投入なしに環境浄化が可能となる。また、新型インフルエンザ等の様々なウイルスに対しては、ほとんどの人が免疫を持っていないため、世界的な大流行(パンデミック)がおきれば、大きな健康被害とこれに伴う社会的損失をもたらす。実際、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックによって、莫大な人命が失われ、人々の行動が制限されたことで社会・経済活動に大きな停滞が発生した。それを防ぐための抗菌・抗ウイルス活性を有する素材については、AgCuなどの抗菌金属や光触媒の有用性が確認されているが、コストや妨害イオンの影響、光照射の必要性等の問題があり、新素材へのニーズは高い。抗菌・抗ウイルス活性を示す材料として近年、モリブデンや希土類の酸化物が有効であることが指摘されており、セラミックス分野への期待は大きい。 また、放射性廃棄物の処理技術は、人々の安心・安全を実現する上で必須である。 セメントやガラスによる固化・貯蔵技術の開発は、セラミックスの夢として実現しなければならない。セラミックスは耐熱性や物理的耐久性に優れており、高温使用や再利用に有利である。また、戦略物質である希土類元素、白金族、リチウム、コバルトなどでは、使用量を少なくする技術とともに、使用済み部品からこれらを回収する技術も非常に大切となる。有害元素除去、貴重元素回収ともに、セラミックス表面と対象元素との相互作用が開発のキーポイントとなる。多孔体や層状化合物のナノ構造と表面構造の制御をしつつ、疎水性相互作用、双極子相互作用などの種々の相互作用を駆使して、種々の元素~微粒子が回収可能な材料、さらには統合的な除去回収システムの確立を目指す。

きれいな水の製造

水は、人類をはじめとする生物の根源の一つであり、人類はこれまで安全な水を作ることに邁進してきた。我が国では既に水は安全・安心なものとして水道より供給されるが、世界的にはまだ水道水を安心して利用できない国も多い。また一方で、我が国においても、自然災害時等に安全なおいしい水を手に入れるのは困難な場合もある。さらに、一部では水に対して偏った信仰も存在し、非常に高価に販売されている例もある。そのため、安全・安心な水を作る材料開発は、人類を豊かにする技術として非常に重要である。まず初期段階としては、有害物質の除去や殺菌などの水質調整を簡易に行える技術を開発する。続いて、触媒やセラミックスセンサ等による安全性確保技術を検討し、最終的には、水質改善システムとともに水ハーベスタ技術(水資源の確保と保全に向けた浄化技術)を構築する。


健康・医療 分野

高齢者医療材料

日本では総人口の約30%が65歳以上になる超高齢社会を迎えて、基礎疾患を有する患者や高齢者が増加し、その治療方法や治療用人工材料の高度化が求められている。セラミックスは医療分野において、歯や骨に代表される硬組織の代替材料として用いられてきた。生体骨は、応力に応じてリモデリングを生じ、骨梁を改善することにより安定した構造を保ち、また、微小骨折が生じた場合、骨組織のリモデリングにより骨折部位を修復し生体機能を回復する。しかし、現在利用されているハイドロキシアパタイトに代表される人工骨補填材料は、このような再生を繰り返すことは困難である。そこで、生体骨の組成や構造に類似したセラミックスや複合材料を開発することにより、生体組織と同様な機能を持つセラミックスを開発する。また、手術の際に患者の負担を減らすために、固形状でなくフレキシブルな形態を持つセラミックスを開発する。さらに、セラミックスを生体内に埋入した場合、感染による抜去、再治療の必要性が生じる場合がある。抗菌活性を有したセラミックスの創製により、抵抗力の低下した高齢者や有病者においても、安心・安全な治療を行うことができる。また、中心静脈栄養などカテーテルを長期留置する場合などに抵抗力の弱い高齢者でも重篤な感染を防止するようなデバイスの創製が期待される。骨粗鬆症では、骨形成の減弱と骨吸収の増加が生じている。このような生体反応をマニピュレートし、低下した生体反応をレスキューできるセラミックスを開発することにより、セラミックスの適応範囲の拡大や、QOLの向上が期待される。

生体を守る材料

セラミックスは生体内に埋入されると、無機イオンやタンパク質の吸着が始まり、細胞接着、機能発現を経て、損傷部位の治癒が開始される。セラミックスの組成や表面性状を制御することにより、生体シグナルを感受し、硬組織や軟組織など適応部位の細胞種に適したセラミックスの創製や表面改質法の開発が期待される。しかしながら、そのメカニズムは未解明のままであり、それらを解明し、細胞の機能発現に基づいたセラミックスの設計・創製が急務である。再生医療の発展と協調して、1015年後にはiPS細胞/ES細胞や間葉系幹細胞などの幹細胞を含む細胞の増殖・分化を制御するセラミックスを創製し、2030年後には細胞の高次機能発現を制御、再生医療に資するセラミックスの実現が期待される。ナノサイズのセラミックスは生体内において吸収可能であり、遺伝子や薬物の複合体を細胞に導入する薬物送達システム(DDS)の担体として開発が進んでいる。細胞の機能を調節しながら、タンパク質産生や遺伝子ワクチンを作製することも可能と考えられ、効率的な遺伝子治療を実現するDDSの担体として期待される。

また、バイオイメージング材料として光機能物質を取り込んだセラミックスナノ粒子の開発が進めば、蛍光内視鏡で腫瘍細胞を特異的に検出し高感度に映し出すことができ、安全かつ確実に手術することが可能になる。さらに、磁性ナノ粒子はがんの温熱療法への効果が期待されるなど、高機能性無機ナノ・マイクロ粒子の開発は医療分野での診断・治療に大きな貢献ができる。


基盤科学・プロセス 分野

マテリアルズ・インフォマティクスによる材料設計

材料探索は従来から材料研究の主要なテーマの1つであり、従前は各研究者がそれぞれの知見と、電気陰性度やイオン半径といった単純な変数を用いた勘に基づいて、様々な物質を合成して特性評価することで行われてきた。計算科学が発展した今日、高速・大容量化した計算機を効果的に利用して、膨大な情報を統合・整理し、必要な知識を取り出す技法が自然科学の様々な分野で実施されている。材料に関する構造や特性など様々な情報をデータベースとして集約し,それを適切に整理して材料研究に応用する学術領域であるマテリアルズ・インフォマティクスは、いわば自然科学と情報科学との融合であり、今後、計算機の情報処理能力の巨大化を背景に、ますますその重要性、有用性が高くなる。量子力学に基づいた電子状態計算に留まらず、電子(磁気)構造、フォノン状態、生成自由エネルギー、誘電率、弾性率などの情報を温度や圧力の関数として定量予測するとともに、それらのデータベースを蓄積すれば、予測モデルの高精度化に繋がる。現在の中心は均質バルク材料であるが、将来的には階層構造が発現する創発的な機能や、多元系、表面機能等の設計へと進み、高精度予測が可能となるとともに、関連する物質科学の学理が大きく進展する。

製造プロセス確立

粒子生成反応が進行する化学反応場を設計する「ケミカルデザイン」により、高度に構造を制御したナノ粒子を合成し、ナノ粒子の重要な応用分野である環境浄化、エネルギー有効利用、医療診断デバイス等への応用を実現する。脆性克服はセラミックス材料に不可欠な課題である。破壊メカニズムの再検討を通じて、ナノ領域の破壊現象にも適用可能な破壊靱性理論を構築し、脆性克服(破壊靱性の向上)のための材料設計指針を示す。また、その実現のために、新規な前駆体を用いた原料粉合成プロセス、結晶配向制御が可能な成形プロセスを開発する。

軽量で、比剛性が大きく、耐熱性・耐食性に優れたセラミックス部材を、製造装置やシステムに組み込むことで、CO2排出プロセスが実現すると期待される。そのためには、マルチスケールの部材設計により、要求性能を発現させるための微構造制御技術とニアネットシェイプの形状付与技術が不可欠である。無焼成緻密化プロセス、積層造形プロセスや外場利用プロセスなどの革新製造技術の実用化プロセスインフォマティクスを活用した従来プロセスの高度化・最適化技術を確立し、軽量・高剛性・高精度セラミック部材製造プロセスを実現する。

 美感性材料

ディスプレイ用ガラスは、現在、大きな市場を有する分野の一つであるが、さらなる薄型・軽量化が求められている。脆性克服とともに、精密加工や表面修飾・コーティングのプロセスが開発対象となる。陶磁器やほうろうなどの伝統的分野でも、形状の精密な制御とともに新規な発色とその制御法を開発し実材料に応用することが望まれている。

さらに、革新的な超薄・軽量型のタッチパネルや光子操作など高度な情報処理機能を有する新型ディスプレイが未来に向けた開発目標となる。将来は、産官学民の連携により、人の心を豊かにする芸術性と先進機能を融合させた美感性材料へと展開することが期待される。


夢ロードマップ2018

豊かな未来・夢を実現させるセラミックス

2011年、2014年に出されていた夢ロードマップの2018年版を作成致しました。2018年版では、関連するSDGs目標も記載しました。現在では「夢」に近いと思われる機能や応用も、将来には実現されるものが多いと思います。このような夢・目標に一歩ずつでも近づけるように努力する指標になれば幸いです。今回の夢ロードマップ2018の作成では、各部会やSJT(進歩賞受賞者の会)など多くの方々にご協力いただきました。心より感謝いたします。

(2019年5月17日 文責:科学・技術委員長 宮山 勝)

画像をクリックするとPDFが開きます

夢ロードマップ・セラミックス分野2018 説明資料

セラミックスは無機固体材料の総称であり、古くから陶磁器として人間の生活に密着してきた材料である。技術の進展にともないセラミックスの応用分野は広範囲に拡大し、それを支える科学・技術も化学・材料分野だけでなく物理、生命科学、ナノテクノロジー、情報計算科学など極めて多くの分野にわたっている。時代の変遷によりセラミックスの使われ方は変化しても、セラミックスに関わる研究・開発は一貫して「材料技術で人の生活に貢献する」ことを目標としている。しかし、生活への貢献の内容は年代とともに大きく変化している。かつては便利さや物質的な豊かさの追求が目標とされていたが、地球温暖化、人口増加、資源・エネルギー枯渇など多くの地球規模での問題が現実化するにつれ、研究・開発の目標も「心の豊かさ」へシフトしている。このような中でセラミックス分野の目標は、「人々の心豊かで幸せな生活と社会をセラミックスの科学・技術で実現する」ことであり、この目標を達成するための具体的な「夢」を以下のように設定した。
図中、周辺部には、社会に係わる6分野と基礎学術に係わる1分野を示した。それに関連する14件の目標項目をその周辺に配置し、中心から外に向けてキーワードを記した。また外周部には関連するSDGs目標を記載してある。
 



IoT・量子・エレクトロニクス 分野

センシング材料〔安心・安全 分野にも該当〕

人の生活に貢献するエレクトロニクス製品は、何らかの信号を受信し、それを変換して出力している。人の居住空間等の安全性の確保にも、センシング技術が重要な役割を果たす。温度、圧力、湿度、ガス濃度、液体・気体流量などのセンサ素子には様々なセラミックスが使われており、これらの性能向上を図ることはエレクトロニクス製品の機能向上や生活環境の監視のため重要である。高温で使用できる圧電センサ(圧力センサ)は、内燃機関内圧力や火力発電所の排気ガス圧力の検知用に期待されている。センシング技術は既に産業として成立し、我が国も最も強い産業分野の一つとなっている。また、様々な分子を対象とする化学センサは、ヘルスケア等の用途に加えて、医療、MaaS(Mobility as a Service)等の産業領域において、IoT、ビッグデータ、AIの進展と相まって、近年急速に注目度が高まっている。麻薬、毒劇物、細菌・ウイルスなどを検知するセキュリティーセンサは人の安全の保障に重要となる。人間の五感を代替する機能の発展も人間の生活を豊かさに貢献する。感性センサと呼ばれ、目や耳の不自由な人を助ける視覚・聴覚センサ、食品の品質を検知する味覚センサ、ロボット用の触覚センサなどがあり、個々のサンサとともに感覚情報を総合して捉えるセンサへの発展が期待される。

情報・信号変換記録材料

信号処理は、電気・磁気・機械・光などの情報のそれ自身および相互の変換を意味しており、これらの変換機能を持つ材料・技術の研究開発は新規デバイスの実現に直結するため、高度情報化社会での有力な産業に結び付く。以下のような材料・デバイスの実現が期待されている。
パワーエレクトロニクスデバイスの利用は、高効率な電力変換およびエネルギー損失の低減に有効である。従来よりも高温で作動するため、半導体素子そのものに加えてキャパシタや抵抗体等の電子部品にも高温で安定に作動する特性が求められ、その開発が進められている。電気-機械信号変換を行うアクチュエータには様々な種類があるが、基本として大きな変位と変形駆動力はトレードオフの関係にあるため実現が難しい。両者を兼ね備え、さらにその制御性に優れるしなやかなアクチュエータは、様々な応用が期待できるため、重要な開発対象である。非常に多量な情報を高密度で記録できる素子や、多くの記憶素子(メモリー)を高集積化したシステムは、ビッグデータを扱う高度情報化社会では不可欠なものとなる。磁性、分極特性、抵抗変化など様々な機構での特性をもつ材料やその集積化プロセスの開発が求められている。
量子ドット半導体に加えてトポロジカル絶縁体・超伝導体等を用いた素子では、超高速演算、低消費電力、極微小素子化が可能と考えられている。このような量子効果エレクトロニクスによる、トランジスタ・センサの極小素子開発や超大容量コンピュータへの展開が期待される。また、光子は情報伝達・変換・処理の究極のキャリアとなる。光子操作が可能な材料にはガラス系や格子制御した結晶が考えられ、その基礎研究が始まっている。実現にはまだ課題が多くあるが、このような電子、スピン、光子を操り利用する材料・デバイスの研究開発は将来の社会への鍵となる。

エネルギー 分野

光・熱の高度利用材料

次世代の発光や発電材料の開発が盛んであるが、同時に、種々のエネルギー形態の中で利用されずに捨てられる割合の高い光・熱エネルギーに着目する。これらは、これまではあまり顧みられなかった分野であり、太陽光の未使用成分の蓄光(タイムシフターによる夜間発電など)や膨大に散逸している熱エネルギーの集散・回収に役立つ熱集積回路などを、形態制御や微細・大型化が容易でかつナノ結晶化等により機能複合化が自在となってきたガラスを母体として開発する。さらに短波長~長波長の広い領域の光を利用できる材料系やシステムを構築する。実際には、既存の太陽光発電や熱電素子等の機能を損ねることなく、シースルーカバーの様な形状により、発エネルギー機能と蓄エネルギー効果を集積化する構造が予想される。

エネルギー創出・貯蔵素子

エネルギーの形態として最も利便性があるのは電気である。物質の化学反応に伴うエネルギーを高効率で電気に変換する燃料電池は、小型素子~大型システムで開発されているが、まだ利用は限られている。水素以外の燃料を用いることができる低温用燃料電池、多様な混合ガスを燃料に用いることのできる高温用電量電池が長期信頼性を備えて開発されれば、その普及が進むであろう。
電気には「貯める方法が限られる」という決定的な欠点があるため、高性能蓄電システムの研究開発は、現在取り組むべき重要な課題である。現在のリチウムイオン電池は高いエネルギー密度をもつが、大型動力用には難点がある。固体電解質を用いる全固体電池は、高安全性や体積当たりの高エネルギー化が期待できるため、硫化物系や酸化物系のリチウムイオン伝導体の研究開発が精力的に進められている。また、リチウム―空気電池や、資源として豊富なNa、K、Mgのイオンをキャリアに用いる電池も研究が行われている。一方、IoTやモビリティー向けにはエネルギー密度に加えて、軽量・省エネ(長時間作動)および高速応答性(高パワー密度)が求められる。高速応答性の実現に向けて、新規な電気化学キャパシタや積層誘電体キャパシタ、およびそれらと大容量電池との組み合わせが検討されている。太陽光・振動・温度差・電波など自然界や身の回りのエネルギーを回収し発電する技術であるエネルギーハーベスティングは、通常の充電が不要になるので、大電力を必要としないセンサなど省電力電気素子の使用には非常に有効である。高回収効率化とともに新たな機構の開拓により、広範囲な対象に利用が展開されるであろう。


インフラ・モビリティー 分野

高度インフラ基盤材料

  わが国がより発展的な社会、経済活動を続けていくうえで社会インフラはその基盤となるものであり、また社会インフラの形成においてはセメントなどの材料が担う役割は非常に大きい。そこで、未来の社会環境に適応した“高度インフラ基盤材料”の構築を目指す。
インフラの基盤となるセメントや耐火物では、焼成温度の低減化や廃棄物の活用による省エネルギー化・CO2排出化、資源循環を促進する環境負荷低減、および安心・安全とともに長寿命でライフサイクルコストの大幅な低減を可能とする長寿命化に関する開発を行う。公共施設等での空間は、プライバシーを保ったうえで制御された公開性を必要とする。このような快適・安心空間の実現には、特殊なガラスなどによるシースルーセラミックスの開発が求められる。さらに長期的には、“未開拓空間用新材料”として、宇宙や海洋、地下といったこれまで未開拓であった空間の利用を可能とするための新材料の開発を目指す。

航空宇宙用エンジン部材

航空宇宙用部材には、基本として軽量高強度な耐熱複合材料の使用が不可欠である。航空機では、燃料費削減及び環境負荷低減の観点から燃費向上が強く求められており、その実現にはジェットエンジンの重量減と熱効率の向上が鍵となる。熱効率を上げるため、従来材であるニッケル基超合金では遮熱コーティングの適用が進められている。また、セラミックス基複合材料は、合金系と比べて比重が1/4と軽量であり、1300ºC以上の高温でも使用できる耐熱性から、次世代タービン部材材料として注目されている。候補材であるSiC等のSi系セラミックスは、水蒸気雰囲気中では減肉するため、耐環境コーティングも必要になる。そのため、セラミックス基複合材料および遮熱・耐環境性コーティングの開発が目標となる。これらの部材の研究開発の成果は、航空宇宙用のみならず、各種モビリティーにも汎用化が進むであろう。
 

安心・安全 分野
センシング材料〔IoT・量子・エレクトロニクス分野に記載〕

有害な元素・物質・微粒子の除去

放射性廃棄物の処理技術は、人々の安心・安全を実現する上で必須である。セメントやガラスによる固化・貯蔵技術の開発は、セラミックスの夢として実現しなければならない。有害元素の回収・除去は、まずはセラミックス多孔体や層状化合物への吸着を利用する。現在問題となっているPM2.5や環境ホルモン、放射性同位体についても、多孔体を用いた吸着除去が主となる。また、それらを種々の触媒により変性させる。セラミックスは耐熱性や物理的耐久性に優れており、高温使用や再利用に有利である。また、戦略物質である希土類元素、白金族、リチウム、コバルトなどでは、使用量を少なくする技術とともに、使用済み部品からこれらを回収する技術も非常に大切となる。有害元素除去、貴重元素回収ともに、セラミックス表面と対象元素との相互作用が開発のキーポイントとなる。多孔体や層状化合物のナノ構造と表面構造の制御をしつつ、疎水性相互作用、双極子相互作用などの種々の相互作用を駆使して、種々の元素~微粒子が回収可能な材料、さらには統合的な除去回収システムの確立を目指す。


環境材料・システム 分野

環境浄化材料

生活環境等における空気や水の汚れの除去は、健康や豊かな生活を持続するために不可欠な課題である。現在、PM2.5や環境ホルモン等の微量有害物、また放射性同位元素による汚染が問題となっている。これらの除去には、有害物質除去と同様に、多孔体への吸着を用いることが有効である。吸着した物質を、可視光応答型光触媒によって分解・変質させることができれば、新たなエネルギーの投入なしに環境浄化が可能となる。また、新型インフルエンザ等の様々なウイルスに対しては、ほとんどの人が免疫を持っていないため、世界的な大流行(パンデミック)がおきれば、大きな健康被害とこれに伴う社会的損失をもたらす。抗菌活性については、AgやCuなどの抗菌金属や光触媒の有用性が確認されているが、コストや妨害イオンの影響、光照射に必要性等の問題があり、新素材へのニーズは高い。抗菌・抗ウイルス活性を示す材料として近年、モリブデンや希土類の酸化物が有効であることが指摘されており、セラミックス分野への期待は大きい。

きれいな水の製造

水は、人類をはじめとする生物の根源の一つであり、人類はこれまで安全な水を作ることに邁進してきた。我が国では既に水は安全・安心なものとして水道より供給されるが、世界的にはまだ水道水を安心して利用できない国も多い。また一方で、我が国においても、自然災害時等に安全なおいしい水を手に入れるのは困難な場合もある。さらに、一部では水に対して偏った信仰も存在し、非常に高価に販売されている例もある。そのため、安全・安心な水を作る材料開発は、人類を豊かにする技術として非常に重要である。まず初期段階としては、有害物質の除去や殺菌などの水質調整を簡易に行える技術を開発する。続いて、触媒やセラミックスセンサ等による安全性確保技術を検討し、最終的には、水質改善システムとともに水ハーベスタ技術(水資源の確保と保全に向けた浄化技術)を構築する。
 


健康・医療 分野

高齢者医療材料

日本では4人に1人が65歳以上になる超高齢社会を迎えて、基礎疾患を有する患者や高齢者が増加し、その治療方法や治療用人工材料の高度化が求められている。セラミックスは医療分野において、歯や骨に代表される硬組織の代替材料として用いられてきた。生体骨は、応力に応じてリモデリングを生じ、骨梁を改善することにより安定した構造を保ち、また、微小骨折が生じた場合、骨組織のリモデリングにより骨折部位を修復し生体機能を回復する。しかし、現在利用されているハイドロキシアパタイトは、このような再生を繰り返すことは困難である。そこで、生体骨の組成や構造に類似したセラミックスや複合材料を開発することにより、生体組織と同様な機能を持つセラミックスを開発する。また、セラミックスを生体内に埋入した場合、感染による抜去、再治療の必要性が生じる場合がある。抗菌活性を有したセラミックスの創製により、抵抗力の低下した高齢者や有病者においても、安心・安全な治療を行うことができる。また、中心静脈栄養などカテーテルを長期留置する場合などに抵抗力の弱い高齢者でも重篤な感染を防止するようなデバイスの創製が期待される。骨粗鬆症は、骨形成の減弱と骨吸収の増加が生じている。このような生体反応をマニピュレートし、低下した生体反応をレスキューできるセラミックスを開発することにより、セラミックスの適応範囲の拡大や、QOLの向上が期待される。

生体を守る材料

セラミックスは生体内に埋入されると、無機イオンやタンパク質の吸着が始まり、細胞接着、機能発現を経て、損傷部位の治癒が開始される。セラミックスの組成や表面性状を制御することにより、生体シグナルを感受し、硬組織や軟組織など適応部位の細胞種に適したセラミックスの創製や表面改質法の開発が期待される。しかしながら、そのメカニズムは未解明のままであり、それらを解明し、細胞の機能発現に基づいたセラミックスの設計・創製が急務である。再生医療の発展と協調して、10~15年後にはiPS細胞/ES細胞や間葉系幹細胞などの幹細胞を含む細胞の増殖・分化を制御するセラミックスを創製し、20〜30年後には細胞の高次機能発現を制御、再生医療に資するセラミックスの実現が期待される。ナノサイズのセラミックスは生体内において吸収可能であり、遺伝子や薬物の複合体を細胞に導入する薬物送達システム(DDS)の担体として開発が進んでいる。細胞の機能を調節しながら、タンパク質産生や遺伝子ワクチンを作製することも可能と考えられ、効率的な遺伝子治療を実現するDDSの担体として期待される。
 


基盤科学・プロセス 分野

マテリアルズ・インフォマティクスによる材料設計

材料探索は従来から材料研究の主要なテーマの1つであり、従前は各研究者がそれぞれの知見と、電気陰性度やイオン半径といった単純な変数を用いた勘に基づいて、様々な物質を合成して特性評価することで行われてきた。計算科学が発展した今日、高速・大容量化した計算機を効果的に利用して、膨大な情報を統合・整理し、必要な知識を取り出す技法が自然科学の様々な分野で実施されている。材料に関する構造や特性など様々な情報をデータベースとして集約し,それを適切に整理して材料研究に応用する学術領域であるマテリアルズ・インフォマティクスは、いわば自然科学と情報科学との融合であり、今後、計算機の情報処理能力の巨大化を背景に、ますますその重要性、有用性が高くなる。量子力学に基づいた電子状態計算に留まらず、電子(磁気)構造、フォノン状態、生成自由エネルギー、誘電率、弾性率などの情報を温度や圧力の関数として定量予測するとともに、それらのデータベースを蓄積すれば、予測モデルの高精度化に繋がる。現在の中心は均質バルク材料であるが、将来的には階層構造が発現する創発的な機能や、多元系、表面機能等の設計へと進み、高精度予測が可能となるとともに、関連する物質科学の学理が大きく進展する。


製造プロセス確立

粒子生成反応が進行する化学反応場を高度制御する「ケミカルデザイン」により、ナノ構造制御したナノ粒子を合成する。ナノ粒子の重要な応用分野である環境浄化、エネルギー有効利用、さらに医療診断デバイスへの応用を実現する。脆性克服はセラミックス材料に不可欠な課題である。破壊靱性パラメーターを再検討して、ナノ構造に対応する破壊靱性理論を再構築し、脆性克服(破壊靱性の向上)を目指す。たとえば、共有結合やイオン性結合とともに金属結合性領域をもつ材料では、優れた靭性の発現が期待できる。この実現には、新規な前駆体を用いてその結晶構造を利用した配向技術を開発し、均質複合化焼結体とすること等が挙げられる。
軽量で、剛性が大きく、耐熱性・耐食性に優れたセラミックスを製造装置やシステムに組み込むことで、製造効率の向上とともにCO2排出プロセスとすることが期待される。これらの要求に応えるには形状付与の自由度を高める必要があるが、従来の一体型のセラミックス成形技術では対応が困難である。しかし、高機能化された小さな精密ブロックを作製し、立体的に組み上げ、高効率で接合・一体化する、あるいは3D造形法を用いれば、所望とする大型(巨大)化・複雑化・精密性全てを満たした部材を得ることができる。このような革新的なプロセス技術を確立し、多様な形状に対応した、軽量・高剛性・高精度セラミック部材を実現する。

美感性材料

ディスプレイ用ガラスは、現在、大きな市場を有する分野の一つであるが、さらなる薄型・軽量化が求められている。脆性克服とともに、精密加工や表面修飾・コーティングのプロセスが開発対象となる。陶磁器やほうろうなどの伝統的分野でも、形状の精密な制御とともに新規な発色とその制御法を開発し実材料に応用することが望まれている。さらに、革新的な超薄・軽量型のタッチパネルや光子操作など高度な情報処理機能を有する新型ディスプレイが未来に向けた開発目標となる。将来は、産官学民の連携により、人の心を豊かにする芸術性と先進機能を融合させた美感性材料へと展開することが期待される。

夢ロードマップ2014

人々の心豊かで幸せな生活をセラミックスの科学・技術で実現する

2013年11月,前期21期にまとめた「理学・工学分野における科学・技術ロードマップ」を改訂する「理学・工学分野における 科学・技術ロードマップ2014」について,日本学術会議第三部(理学・工学)の元に設置された「理学・工学系学協会連絡協議会」より協力の依頼がありました.科学技術委員会より部会に協力を依頼し,担当者をご指名頂き,各部会より提出された原案を元に2013年12月に検討会を開催し,セラミックス分野の夢ロードマップ2014年をとりまとめましたので,紹介させていただきます.

今回,資料の作成にご協力いただいた部会,支部の方々に心より感謝します.

(2014年1月5日 文責:科学・技術委員長 鶴見敬章)

画像をクリックするとPDFが開きます

セラミックスは無機固体材料の総称であり、古くから陶磁器として人間の生活に密着してきた材料である。技術の進展にともないセラミックスの応用分野は広範囲に拡大し、それを支える科学・技術も化学分野だけでなく物理、生命科学、ナノテクノロジー、計算科学など極めて多くの分野にわたっている。時代の変遷によりセラミックスの使われ方は変化しても、セラミックスに関わる研究・開発は一貫して「材料技術で人の生活に貢献する」ことを目標としている。しかしながら、近年、生活への貢献の内容は大きく変化しつつあることも事実である。かつては経済成長にともなう便利さや物質的な豊かさの追求が研究・開発の目標とされてきたが、地球温暖化、人口爆発、資源・エネルギー枯渇など多くの地球規模での問題が顕在化するにつれ、持続性のある社会の実現を人々は望むようになり、それにともない研究・開発の目標も「物質的な豊かさ」から「心の豊かさ」へのシフトしている。このような中でセラミックス化学分野の目標は、「人々の心豊かで幸せな生活をセラミックスの科学・技術で実現する」ことであり、この目標を達成するための具体的な「夢」を以下のように設定した。

安心・安全のための材料
人の居住空間、輸送機関、公共施設、さらには食品、薬品の安全性の確保には、センシング技術が重要な役割を果たす。焦電素子による赤外線センサーはそのまま人侵入者センサーへの応用が可能であり、その他にも麻薬、爆発物、有毒ガス、毒物・劇物、細菌・ウイルスなどのセンサーの多くにはセラミックス材料が使われる。これらはセキュリティーセンサーと呼ばれるものである。センサーはもともと人間の五感を代替するものであり、それらの発展も人間の生活を豊かさに貢献する。感性センサーと呼ばれるこれらのセンサーには、目や耳の不自由な人を助ける視覚・聴覚センサー、食品の品質を向上するための味覚センサー、高性能ロボットが持つ触覚センサー、さらには、快適な空間を実現するための匂いセンサーなどがある。一方、放射性廃棄物の処理技術は、人々の安心・安全を実現する上で必須である。セメントやガラスによる放射性廃棄物の固化・貯蔵技術の開発は、セラミックスの夢として実現しなければならない。さらに、公共施設での安全・安心の空間は、閉ざされた密室ではなく、プライバシーを保ったうえで制御された公開性を必要とする。特殊なガラスによるシースルーセラミックスはこのような空間を実現ための材料である。

高度センシング・信号変換材料
人の生活に貢献するエレクトロニクス製品は、何らかの信号を受信し、それを変換して出力している。受信の部分を担うのが高度センシング技術で多くのセラミックスが使われる。たとえば、温度、圧力、湿度、ガス濃度、液体・気体流量、微粒子濃度、アルコール濃度などで、これらの性能向上を図ることはエレクトロニクス製品の機能向上のため必要である。特に高温で使用できる圧電センサー(圧力センサー)は、内燃機関のシリンダー内爆発圧力や火力発電所の排気ガス圧力のセンサーとして期待されている。電気回路における受動部品には抵抗(R),キャパシター(C)、インダクター(L)があり、信号(波形・位相)変換素子として利用されている。これらの素子の多くはセラミックスでできており、既に産業として成立し、我が国も最も強い産業分野の一つとなっている。これらの産業の競争力をさらに高め、画期的な新材料や新技術を作ることが本分野の夢であり、そのための科学・技術の進展を図る。広義の信号処理は、電気・磁気・機械的な信号の相互変換を意味する。たとえば、圧電素子は電気―機械信号の相互変換素子として多くの分野で使われている。電気(誘電)-磁気の変換はマルチフェロイック材料として基礎研究が盛んな分野である。新規な信号変換材料は、そのまま新規デバイスの実現に結びつくため産業界からの期待も高い。時間はかかっても基礎研究から体系的な取り組み、最終的には全く新しいデバイスの実現という夢を実現したい。

美感性材料
ディスプレイ用ガラスは、現在のセラミックス産業の中で大きな市場を有する分野の一つであるが、さらなる薄型・軽量化が強く求められている。ガラスのみならずセラミックスに共通する本質的な弱点である脆性克服のために、先ずは次世代精密加工や次世代表面修飾プロセスが研究対象となる。さらに、革新的な超薄・軽量型のタッチパネルや光子操作など高度な情報処理機能を有する新型ディスプレイが未来に向けた開発目標となり、その先には人間の感性に整合するあらゆる形態や機能化が可能な美感性材料へと昇華して行く。

蓄光・蓄熱用材料
次世代の発光や発電材料の開発が盛んであるが、同時に、種々のエネルギー形態の中で利用されずに捨てられる割合の高い光熱エネルギーに着目する。これらは、これまではあまり顧みられなかった分野であり、太陽光の未使用成分の蓄光(タイムシフターによる夜間発電など)や膨大に散逸している熱エネルギーの集散・回収に役立つ熱集積回路などを、形態制御や微細・大型化が容易でかつナノ結晶化等により機能複合化が自在となってきたガラスを母体として開発する。実際には、既存の太陽光発電や熱電素子等の機能を損ねることなく、シースルーカバーのような形状により、発エネルギー機能と蓄エネルギー効果を集積化する。

高性能蓄電システム
エネルギーの形態として最も優れているのが電気であることは誰もが認めるところである。しかし、エネルギー源としての電気には「貯める方法が限られる」という決定的な欠点が存在する。この意味で高性能蓄電システムの研究・開発は、現在、人類が取り組むべき最重要の課題であると言っても過言ではない。重量あたりのエネルギー貯蔵量が最も高い素子がリチウム電池であるが、これ以上の向上には抜本的な技術革新が必要となっている。リチウム固体電解質の利用、リチウム―空気電池の実現はまさに夢であり、そのためにセラミックス技術も中核的な役割を果たす。一方、積層セラミックスキャパシターは、放出するパワーの密度では非常に優れているものの、重量あたりのエネルギー貯蔵量は非常に小さい。蓄電システムとして積層セラミックキャパシターを使うには、パワー密度を決める周波数特性は犠牲にしてもエネルギー貯蔵量を増やす材料・素子構造を作る必要がある。現在の高度セラミックス製造技術を用いれば決して不可能ではなく、目指すべき夢として挙げておく。

環境浄化材料
現在、PM2.5や環境ホルモン等、または放射性同位体等の汚染が非常に問題となっている。これらの問題について、まずはセラミックス多孔体を用いて、有害物質の吸着除去について検討する。セラミックスは耐熱性や物理的耐久性に優れており、これは多孔体を高温で使用したり、また再利用するのに非常に役立つ。次の段階としては、光触媒による分解除去である。吸着した有害物質を、特に可視光型光触媒によって分解したり変質させることができれば、新たなエネルギーの投入なしに環境浄化が可能となる。さらに燃焼により発生し、現在問題となっているPM2.5の回収除去など、有害物質から有害微粒子へとそのターゲットを広げていき、最終的には統合的な有害物質や微粒子の除去技術を確立する。

特定元素の回収・除去システム
戦略物質である希土類元素、白金族、リチウム、コバルトやヘリウムなど、比較的貴重な元素の使用量を少なくする技術は非常に重要であると同時に、使用済み部品から、これらを回収する技術も非常に大切である。特定元素の回収・除去については、まずはセラミックス多孔体や層状化合物への吸着を検討する。元素サイズや分子形状によっては、セラミックス多孔体で吸着可能な場合もあるし、イオンであれば層状化合物へのイオン交換による回収が現実的である。またセラミックス表面と回収元素との相互作用が重要なキーポイントとなることから、表面を改質しつつ、疎水性相互作用、双極子相互作用などの種々の相互作用を駆使して、特定元素が回収可能な材料の創製を目指す。最終的には、それらの材料を組み合わせた特定元素回収システムの構築を目標とする。

ナノ粒子の科学・応用技術の確立
新しいナノ粒子構造指針を開発する。例えば、人間の感性に訴える光学機能性といった新しい特性をもつナノ粒子を得るため、感性工学との融合によりナノ粒子構造を設計する。
粒子生成反応が進行する化学反応場を高度制御する「ケミカルデザイン」により、ナノ構造制御したナノ粒子を合成する。ナノ粒子の重要な応用分野である環境浄化(光触媒等)、エネルギー有効利用(燃料電池、先端電子デバイス等)、さらに、医療診断デバイス(医療機器、ヘルスケア)への応用を実現する。

脆性克服のための材料科学
破壊靱性パラメーターを再検討して、ナノ構造に対応する破壊靱性理論の再構築し、ナノ構造制御材料による破壊靱性の向上をめざす。共有結合あるいはイオン性結合とともに金属結合性領域をもつ、言い換えると異種結合性領域を内在する超配向バルク体の作製をめざす。この新しい材料設計を実現するため、新規な前駆体となる特異構造粉末を用いてバルク体作製を実現する。前駆体の結晶構造を利用した超配向技術を開発し、均質な超複合化焼結体を作製する。強度・靱性の高度化により、高度非脆性材料を開発する。

高効率航空機用エンジン部材
燃料費削減及び環境負荷低減の観点から、航空機の燃費向上が強く求められており、その実現にはジェットエンジンの重量減と熱効率の向上が鍵となる。熱効率の向上には、タービン入口温度を高めることが効果的であり、例えば、従来材であるニッケル基超合金の場合には、タービン入口温度を高めるために、空気冷却に加えて、遮熱コーティングの適用が検討されている。また、セラミックス基複合材料は、ニッケル基超合金と比べて比重が1/4と軽量であり、1300度以上の高温でも使用できる耐熱性から、次世代タービン部材材料として注目されている。候補材の一つであるSiC等のSi系セラミックスは、水蒸気雰囲気中では、減肉するためにジェットエンジン部材に用いる際には耐環境コーティングが必要になる。そのため、高効率航空機用エンジンセラミック部材及び遮熱・耐環境性コーティングの開発を目標とする。

大型部材製造プロセスの確立
軽量で、剛性が大きく、耐熱性・耐食性に優れたセラミックスを製造装置やシステムに組み込むことで、製造効率の向上が期待される。例えば、液晶・半導体製造ラインでは、セラミックスを大型の精密生産用部材として活用することで、製品の処理能力の向上や微細加工化が可能となる。これらの要求に応えていくには形状付与の自由度を高める必要があるが、従来の一体型のセラミックス成形技術では対応が困難である。軽量・高剛性・高精度セラミック部材を実現するために、例えば、高機能化された小さな精密ブロックを作製し、立体的に組み上げ、高効率で接合・一体化して所望とする大型(巨大)化・複雑化・精密性全てを満たした部材を得ることのできる革新的なプロセス技術の確立を目標とする。

おいしい水を作る材料
水は、人類をはじめとする生物の根源の一つであり、人類はこれまで安全な水を作ることに邁進してきた。我が国では既に水は安全・安心なものとして水道より供給されるが、世界的にはまだ水道水を安心して利用できない国も多い。また一方で、我が国においても、自然災害時等に安全なおいしい水を手に入れるのは困難な場合もある。さらに、一部では水に対して偏った信仰も存在し、非常に高価に販売されている例もある。そのため、安全・安心な水を作る材料開発は、人類を豊かにする技術として非常に重要である。まず初期段階としては、有害物質の除去や殺菌などの水質調整を簡易に行える技術を開発する。続いて、触媒やセラミックスセンサ等による安全性確保技術を検討し、最終的には、水質改善システムを構築する。

生体環境に調和する材料
セラミックスは医療分野において、歯や骨に代表される硬組織の代替材料として用いられてきた。例えば、骨の代替材料には、様々なセラミックスが用いられているが、自家骨をしのぐには至っていない。生体骨は、応力に応じてリモデリングを生じ、骨梁を改善することにより安定した構造を有し、また、微小骨折が生じた場合、骨組織のリモデリングにより骨折部位を修復し、生体機能を回復する。このように生体内において、骨は吸収と再生を繰り返しており、埋入された骨補填材も同様に吸収され、自家骨に置き換わることが望ましいとされている。現在、骨補填材として幅広く利用されているハイドロキシアパタイトは、生体内において難溶性で自家骨に置き換わることが困難とされている。そこで、生体骨の組成や構造に類似したセラミックスや複合材料を開発することによって、生体組織と同様な機能を持つセラミックスの臨床応用が可能となる。

細胞に機能する材料
セラミックスは生体内に埋入されると、無機イオンやタンパク質の吸着が始まり、細胞接着、機能発現を経て、損傷部位の治癒が開始される。セラミックスの組成や表面性状を制御することにより、細胞機能をマニピュレートすることが可能であり、硬組織や軟組織など適応部位の細胞種に適したセラミックスの創製や表面改質法の開発が期待される。しかしながら、セラミックスが細胞機能をマニピュレートするメカニズムは未解明のままであり、それらを解明し、細胞の機能発現に基づいたセラミックスの設計・創製が急務である。
再生医療の発展と協調して、10年後にはiPS細胞/ES細胞や間葉系幹細胞などの幹細胞を含む細胞の増殖・分化を制御するセラミックスを創製し、20〜30年後には細胞の高次機能発現を制御、再生医療に資するセラミックスの実現が期待される。
また、セラミックスは、薬物送達システム(DDS)の担体として開発が進んでいる。ナノサイズのセラミックスは、生体内において吸収可能であり、遺伝子や薬物の複合体を効率よく細胞に導入し、細胞の機能を調節しながら、タンパク質産生や遺伝子ワクチンを作製することが可能であることから、効率的な遺伝子治療を実現するDDSの担体として期待される。

高齢者の高度医療のための材料
日本国内では、4人に1人が65歳以上になる超高齢社会を迎えて、基礎疾患を有する患者や高齢者が増加し、その治療方法や治療用人工材料の高度化が求められている。骨量および骨質の減少を伴う骨粗鬆症は、主に閉経後の女性や糖尿病患者などで主に発症し、骨形成の減弱と骨吸収の増加が認められる。このような生体反応をマニピュレートし、低下した生体反応をレスキュー可能なセラミックスの臨床応用により、セラミックスの適応範囲の拡大や、QOLの向上が期待される。
また、セラミックスを生体内に埋入した場合、感染による抜去、再治療の必要性が生じる場合がある。生体機能が低下した場合、通常では予知し得ない感染が生じるが、抗菌活性を有したセラミックスの創製により、抵抗力の低下した高齢者や有病者においても、安心・安全な治療を行うことができる。
また、中心静脈栄養などカテーテルを長期留置する場合などに抵抗力の弱い高齢者でも重篤な感染を防止する様なデバイスの創製が期待される。

夢ロードマップ2011

セラミックスはイノベーションを実現するキーマテリアルである

2010 年7 月,日本学術会議第三部(理学・工学)の元に設置された「理学・工学系学協会連絡協議会」のメンバーに「理学・工学分野における科学・夢ロードマップ」作成にあたり,協力の依頼がありました.依頼文によると「(前略)誰もが魅力を感ずる理学・工学分野の科学の将来の夢を描いた図等を作成し,社会全体の理解や支援を得ていくことは大変重要である.イメージとしては,天球儀(時間を3次元的に放射状を含めて)の満天に理学・工学の夢が恒星や星雲のように光り輝くような形の「理学・工学分野の科学・夢ロードマップ」を作成していきたいと考えている.これによって,国民が理学・工学は魅力的で人類に恩恵を与えてくれると感じ,また多くの若者が自分も科学・技術分野の仕事に携わりたいと感ずるような影響を与えることができれば,大きな意味がある…(後略,依頼文より抜粋)」とあり,協会では理事会で検討の結果,その趣旨に賛同し,「グリーン・イノベーション」「ライフ・イノベーション」とセラミックスというテーマの元に,各部会関係者に協力を依頼し,セラミックス分野の夢ロードマップを作成し,日本学術会議に提出しました.今回はこの内容をご紹介します.関係者の努力による労作であるので,是非,関係各位にその内容を知っていただきたいと思います.


日本セラミックス協会科学・技術委員会としては,今回作成した夢ロードマップを実現するための具体的方策の一環として,プロジェクト提案なども視野に入れ活動をしています.科学技術を牽引するのは「夢」であることは言うまでもありません.東日本大震災後の日本は未だ復興の目処が立たず,人々は意気消沈しています.当委員会は,セラミックスこそが日本復興のキーテクノロジーだと確信し,セラミックスに関わる科学者・技術者の目標を具現化するため,今回,セラミックスに関わる夢のロードマップを作成しました.資料の作成にご協力いただいた部会,支部の方々に心より感謝します.

(2011年10月1日 文責:科学・技術委員長 鶴見敬章)

必要な箇所のみを昇温するセラミックスのプロセッシング
グリーンイノベーションを実現するための幾つかのアイデア 環境・生命技術開発のためのナノパーティクルイノベーション 常温・常圧セラミックスプロセスの実現とエネルギー関連部材の開発 バルクから膜へ,材料機能・資源の極限利用
生体・生物に働きかけるスーパーバイオセラミックスの創製 生体環境に応答する多機能発現型バイオセラミックス 摂取素材としてのセラミックス(健康になれるセラミックス)