会長 村田 恒夫

会長就任のご挨拶

この度6月2日の日本セラミックス協会第98回定時総会において、黒田一幸会長の後任として選任されました村田恒夫と申します。就任に当たり、一言ご挨拶申し上げます。大変長い歴史を持つ本協会は、セラミックスに関する産業および学術分野が互いに協力して、常に時代の先端を行くテクノロジーの進展と産業の拡大に寄与してきました。こうした長い歴史を持つ本協会の会長に就任することとなり、その重責に身の引き締まる思いです。微力ではありますが、皆様のお力添えを頂戴しながら、セラミックス産業の更なる発展と本協会の会員皆様のお役に立てる活動をしてまいりたいと存じますので、宜しくお願いいたします。

本年度は新たに始まる「2023~2025 年度中期計画」の初年度に当たります。当中期計画では前中期の活動方針を継承し、戦略的な取り組みである「社会への価値提供」を目標とし、「産学連携・共創セッション」や「秋季シンポジウム」を通じて活動のすそ野を広げ、先進的な分野での産官学連携を強化して行く計画です。また、国際交流事業についてはコロナ感染症の蔓延によりリアルでの開催が滞っていましたが、今年度からはそうした活動の自由度が広がり、積極的に進められる見通しです。さらに、一昨年に開催が決定した2026 年の「国際セラミックス会議(ICC11)」や2028 年の「国際ガラス会議(ICG)」に向けた準備活動を進めてゆく予定です。教育活動においては、より広くセラミックスを知っていただけるよう「セラミックス大学」や「中高生への啓発コンテンツの充実やセラミックス出前授業等新規活動の検討」などを継続することで、次世代のセラミックスへの興味を引き上げて行きたいと思います。

昨今の世界の経済状況は米国や欧州ではロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギー価格の急騰やサービスコストの高騰などインフレーションが高まりを見せ、政策金利が矢継ぎ早に引き上げられるなど先行き不透明な状況が続いています。一方中国では、ゼロ・コロナ政策による都市封鎖で停滞していた経済活動が、ようやく日常を取り戻す段階にあり、混乱していたサプライチェーンも少しずつ落ち着きを取り戻しています。特に産業規模が大きく裾野の広い自動車市場では、ここ数年半導体の調達が滞り納車の長納期化やオプション機能の制限などが見られた中でも、電動化の進展が加速しているようです。ただ、米国と中国との覇権争いが強まり、産業の分野では世界が分断されるデカップリングの進行が見られ、これまでのグローバル化=効率追求の流れと逆行する動きが今後の世界経済に暗雲をもたらしかねないと危惧されています。

テクノロジーの世界では量子コンピュータの実用化やデータサイエンス、AI の活用などにより、進歩のスピードが格段に加速されつつあるように感じます。セラミックスの新しい機能の探求においてもマテリアルサイエンスが重要な役割を担おうとしており、世界水準の活動なしには後れを招きかねず、当協会にとっても力を入れるべき活動領域と考えます。また、社会的にSDGs が強く意識され、すでに多くの企業やアカデミアの研究はそうした社会課題の解決に向けた取り組みが進められており、当協会としてもカーボンニュートラルや資源のリサイクルといった課題に対して長期の視点を持って取り組み、世界初のイノベーションにつなげる活動が出来ればと考えます。


Tsuneo MURATA(President, The Ceramic Society of Japan)
An Inaugural Address