セラミックス誌
2024年4月号掲載
(No.30)

ダイバーシティ&インクルージョンの推進における問題は,「マジョリティ側が自らの特権に無自覚であること,および,社会の構造的な不平等について理解が及ばないこと」だそうだ.日本生まれの日本人・男性である私は,職場コミュニティにおいてマジョリティ側にいると言える.マジョリティ側は,労せずして特権を得ているのであるがそれを自覚していないそうである.これはどういうことか?自分自身について考えてみた.
日本語の難解な会議議事録が送られて来ても(私は)読むのに過度な負担を感じない.育休取得に関して(私が)頭を悩ませることもなかった.これらはこれまでの社会制度によりもたらされている「特権」をマジョリティである私が享受しているからということになる.多様性は重要だとか言いながら,私も無自覚で問題に加担してきたようだ.「魚が水の中にいると水に気が付かないように快適な環境にいるマジョリティには問題が見えない」という印象的な記載が書籍にあった.本稿執筆を契機として,自省するとともに固定観念を打破して社会を見なければいけないと思うに至った.
次は,千葉大学の塚田学さんにバトンをお渡しします.

(大阪公立大学 徳留 靖明)

セラミックス誌
2024年1月号掲載
(No.29)

人と物の往来や情報通信網の発達などにより,「ダイバーシティ」を大切にする社会が形成されようとしていることは喜ばしいことです.日本は特に,つい180年前まで鎖国をしていた国であり,現代においても外国人をどのように受け入れるかという問題は根深いと感じています.私の所属する研究室にも多くの外国人ポスドクや学生がいますが,言葉や文化の壁を乗り越えてともに働きともに成長するにはどうすれば良いのでしょうか?
アメリカで反人種差別の動きが高まり,黒人と白人が共闘していた1978年,ロンドンでは黒人と白人が一体となった10万人規模の大コンサートが行われました.Rock Against Racismの名のもとさまざまな融合音楽が生み出され,今日の音楽芸術文化の発展にも繋がりました.また,椎名林檎さんの「赤道を超えたら」という楽曲は,男女のどうしようもない違いを赤道という境界線になぞらえたものですが,曲の後半ではこう歌われています.「屹度(きっと)境目は繋ぎ目でしょう」つまり,ものの見方ひとつによって,対立していたものがひと続きにもなる,と解釈できます.
次は,徳留靖明さんにバトンをお渡しします.

(京都大学 金森 主祥)

セラミックス誌
2023年10月号掲載
(No.28)

経済産業省が策定した「Diversity 2.0」は,「多様な属性の違いを活かし,個々の人材の能力を最大限引き出すことにより,付加価値を生み出し続ける企業を目指し,全社的かつ継続的に進めて行く経営上の取組」と定義されている.その取り組みのひとつに,「女性活躍の推進とともに,国籍・年齢・キャリア等,様々な多様性の確保」が挙げられている.現在,本部組織の国際室で海外連携を担当していることもあり,ここでは,グローバル化について言及したい.
今後,日本がグローバルな産業競争力の維持・強化を進める上でグローバルな人材の獲得は重要な課題である.しかし,島国である日本は,海外からの人材流動性が低く,さらに言葉や文化などの障壁が高いため,陸続きで他国と接している欧米諸国とは置かれている状況は大きく異なることを強く実感している.また,日本ではグローバルな人材を登用するための制度や体制がまだ整っていないように感じる.コロナ禍が明けた今,「真のグローバル化」に向けた変革が推進されることを強く願うとともに,私自身も先入観や固定概念にとらわれないよう心がけたい.
次は,金森主祥さんにバトンをお渡しします.

(産業技術総合研究所 髙田 瑶子)

セラミックス誌
2023年7月号掲載
(No.27)

昨今の「ダイバーシティ」といえば「女性」と解釈されること当たり前になっていると感じられる.ダイバーシティとは多様性を意味するもので,性別はその一つに過ぎないと考えている.一方,男女という性別は,ダイバーシティの中で最も一般的で分かりやすいもので,ダイバーシティを推進する足掛かりとして注目されたかもしれない.性別以外の多様性として,国籍,年齢層,文化圏,学歴,職業などもあるので,これから注目されることを願う.
今回筆者が注目したいのは「ダイバーシティ=女性」になっている現状についてです.なぜそうか自分なりに考えてみましたが,そこは我々が一般的だと思っている,間違えた常識にあるのではないでしょうか.例えば,2021年1月号に中島祐樹さんが書いた「家族サービス」や,「寿退社」,「家内」,「奥さん」など,女性は仕事をせず家にいることを前提に作られた単語がいまだに使われていることです.女性が働きやすい環境を作ることも大事だと思いますが,女性が働いて当たり前になる社会的な雰囲気を作ることの方も大事だと思います.これは,我々各個人の努力が必要な部分ではないでしょうか.
次は,髙田瑶子さんにバトンをお渡しします.

(産業技術総合研究所 李 誠鎬)

セラミックス誌
2023年4月号掲載
(No.26)

コロナ禍では職場において実に様々な変化が起きました.私個人においてその最大は,オンラインを活用したコミュニケーションです.職場の小さい単位の会議,大きな国際会議,そして大学講義など,多くの活動がオンラインで実施可能であることを認識するとともに,その利点と欠点を学ぶことができました.これらの経験はダイバーシティの推進に活用できると考えます.例えば勤務地や勤務形態の柔軟化です.育児や介護との両立を可能としたり,勤務場所・時間の自由度を高めたりすると考えます.大学のような教育機関であれば,国際的人材の育成にも有用です.上記のようなことは多くの人が思いつく内容ですが,果たしてどれほどが実行に移されているのでしょうか.コロナ禍の明けた先に「元の生活」を求めるのではなく,「新しい生活」をつくるべきとも言われます.その中にはさらに発展したダイバーシティ環境も含まれるのでしょう.私個人ができることは些細な事ですが,できることから始めない限り何も変わりません.まずは身近な半径数m範囲から取り組みたいと考えています.
次は,李誠鎬さんにバトンをお渡しします.

(名古屋工業大学 小幡 亜希子)

セラミックス誌
2023年1月号掲載
(No.25)

ダイバーシティとは何か,改めて調べてみると実に”多様な”解釈があるようです.私は現在,学部6名,修士7名の合わせて13名と一緒に研究しており,うち5名が女性でみな大学院に進学します.配属・進学に際して,研究室に女性の先輩もいて安心感もあった,といった声も聞きました.進路は自分の意思だ,とは当然だがやはり周りの環境も影響すると思います.女性の教員や研究者を増やしたい,という国内の流れも,研究活動に興味ある女性学生さんにとってもよりよい環境となることは間違いないでしょう.
さて研究室運営でも学生さん各自の考え・希望含め”多様性”とどう向き合うか試行錯誤中です.ゴキブリを研究する研究者が以前に「知らない = 怖い/イヤだ」といった感情について話していました.なるほど,まずは相手の話を聞いて相手を知ることを特に大事にしたいと思っています.留学時のフランスのラボを見習って時折,おやつタイムを設けているが,中々好評で話しやすい環境づくりの一助になっている気がします.多様性を理解しつつ,しかしラボが放漫な仲良しクラブにはならないように,まだ試行錯誤を続けたいと思います.
次は,小幡亜希子さんにバトンをお渡しします.

(名古屋工業大学 大幸 裕介)

セラミックス誌
2022年10月号掲載
(No.24)

言葉には力がある.言霊という言葉はその力をよく示している.若かりしころ“24時間働けますか“と連日CMが流れ,働くことを刷り込まれたように(当時でも労働基準法違反である),言葉の力を利用することは古今東西行われてきた(昨今は”SDGs“ ?).
言葉は変化する.最近では“やばい”も良い意味で使われ,我が子もやばいやばいと良い悪い問わず連発している.本来良い意味であった“ゆとり”も最近では違う意味で使われている.
Diversity(多様性)を語源とするダイバーシティは今,非常に大きな力を持つ言葉となっている.大学で考えれば,人種,性別,キャリアによらず学びたい,探究したい者が集い障害なく活動できることが本意であろう.男女比だけに注目し続けることが本来のDiversityにたどり着く道だろうか?意味が変化していないだろうか?
人口動態で団塊ジュニア,就職状況で氷河期世代,昨今ではロスジェネとさえ呼称される昭和49年生まれとしては,このダイバーシティが輝かしい時代の始まりを象徴し,この言葉に代表される世代が誇りに思えるよう切に願っている.
次は,大幸裕介さんにバトンをお渡しします.

(日本大学 井口 史匡)

セラミックス誌
2022年7月号掲載
(No.23)

私がこのコラムの執筆を依頼された同じ頃,偶然,妻も所属学会からダイバーシティに関わる講演依頼をされ,二人でどういう内容が良いかねと話しました.自分の経験を振り返ってみると,15年前のスイス留学時の事が思い浮かびました.ラボでは常勤研究者は女性の方が多く,一人は私の滞在中に出産・復職と公私ともフル回転でした.学生も多国籍かつ多種多様でエネルギッシュでした.国民性は日本以上に保守的な部分も多いスイスでしたが,小国であるがゆえ産業や研究という分野ではオープンである事が競争力や成長に直結するという合理的判断があるのだと思います.翻って日本では今でもダイバーシティを渋々やらねばという空気がある気がしますが,むしろ人口減の時代に,これまで使い切れていない潜在的な成長領域を我々がどう使いこなすかが問われていると感じています.
妻も私もこれまでのキャリア形成や子育てを行っていく中で,多くの場合「いいよ.やってみたら.」という周囲の寛容な反応に支えられてきました.これからは自分たちが次の世代のそういう挑戦を支え,様々な価値観を受け入れていけたらと考えています.
次は,井口史匡さんにバトンをお渡しします.

(東北大学 八代 圭司)

セラミックス誌
2022年4月号掲載
(No.22)

ダイバーシティ四季感のリレーコラムの原稿を依頼され,真っ先に思い出したのは私がポスドクとして2年弱ほど滞在していたノルウェーのオスロ大学での経験です.所属していた理学部化学科の研究室は,ノルウェー人以外に,中国,ロシア,セルビア,スペイン,インドと様々なバックグラウンドを持つスタッフと学生で構成されていて,女性も多く在籍していました.ノルウェー中央統計局のデータを見ると,2020年のノルウェーにおける大学生全体の男女比は4:6と女性が過半数,自然科学および工学系の学部では1/3が女性です.私が学生だった頃の東京大学材料工学科は,女子が一学年に数名,いない年もあったので,全く違う状況に驚きました.オスロ大学には日本の大学には無いシステムも多くあったのですが,特に印象に残ったのはキャンパス内に「学生用の保育園」があったことです.オスロ大学には社会人になってから入学する学生も多く,そうした学生の学びやすさを支援するための仕組みが用意されていました.我々が「できない」と思い込んでいるだけで,日本の高等教育の環境にはまだ多くの伸び代があるかもしれません.
次は,八代圭司さんにバトンをお渡しします.

(ファインセラミックスセンター 桑原 彰秀)

セラミックス誌
2022年1月号掲載
(No.21)

今回,「ダイバーシティと男女共同参画社会」について執筆する機会を頂きました.そこで,何を述べようかと考えたとき,特に議論したい話題がなく困ってしまいました.その理由は以下に述べるとおりであり,私が恵まれたキャリアを送ってきたことを認識した次第です.
教員として働き始めてからは,多くの外国人が所属し男女バランスの良い職場が続きました.助教時代の東工大では,上司の一人が女性の外国人であり,留学生も多数滞在しておりました.また,准教授時代の北大では,化学系の研究室であったため女学生の割合が高く,さらに国外インターンシップ生や女子留学生をお世話することができました.そして,現職の神奈川大でも主宰研究室においてダイバーシティに富んだ状態が続いています.現在,スタッフ4人中2人が女性,客員研究員3人中2人が女性(うち一人は外国人),女学生は6人おります.
周囲では男女バランスに苦労している知り合いも多いため,自身の状況は幸運としか言いようがありません.この手の問題は,多様化がごく当たり前になり話題にのぼらないことが理想です.そのような社会が来る日を待ち望んでおります.
次は,桑原彰秀さんにバトンをお渡しします.

(神奈川大学 本橋 輝樹)

セラミックス誌
2021年10月号掲載
(No.20)

先日,海外大学の先生による国際セミナーにオンラインで参加しました.大学紹介のスライドで学内の男女比を示していましたが,学生の50%,教職員の40%が女性とのことです.北海道大学の女性比率は,学生の30%,教職員の15%でした.この大きな差は今後どれくらいで解消されるのかと少し不安になります.
北海道大学の化学系研究室では高校生向けの体験入学を毎年実施しています(去年はコロナで中止になりました).この参加者の半数以上が女子生徒で,ある年には70%に達したことがあるくらいです.この数値が大学の学生比率に反映されていないことが残念です.化学に興味をもっている生徒に男女差がないことは喜ばしいことですが,進学時に別の道を選んでいる学生が多いのでしょう.大学卒業後の長い人生を考えれば,現実的な選択なのかもしれませんが,好きな分野にまっすぐ飛び込める社会になってほしいと願っているところです.化学系の一教員としては,化学の楽しさを拡げられる学生を沢山社会に送り出すことが一つの使命として教育にこれからも精進していきます.
次は,本橋輝樹さんにバトンをお渡しします.

(北海道大学 鱒渕 友治)

セラミックス誌
2021年7月号掲載
(No.19)

ダイバーシティ=多様性と聞くと思い出す映像がある.あるシンポジウムで上映された陸上トラックを疾走する高桑早生さんの姿だ.彼女は中学生の時に病で左膝下を失ったが,日本を代表するパラアスリートになった.多様性のある社会とは,ジェンダーフリーだけを指すのではあるまい.障害者も老人も子供達も子育て世代もいて,それぞれが当たり前に活躍できる社会のことだ.
科学技術は「当たり前」の社会参画を後押ししてきた.高桑さんは3Dプリンタで作製したソケットを履き,競技用の義足で飛ぶように走る.ALSの患者は瞬きでパソコンを操作する.子育てをしていても自宅から会議ができる.発言はリアルタイムで字幕になる.
残された課題は,頑陋な前時代的価値観の克服だ.東京オリパラ組織委員長が「女性が多い理事会は長引く」と放言した.最近の風潮に乗って女性委員の数は揃えたが,意見は言うなということだ.多様性はインクルージョン=意見の受容と対であって,「受容のない多様性」に国内外から批判が殺到したのは当然だ.上辺だけの寛容は蔑視と同義だろう.そんなことをやっている組織に,そして社会に未来はない.
次は,鱒渕友治さんにバトンをお渡しします.

(ファインセラミックスセンター 木村 禎一)

セラミックス誌
2021年5月号掲載
(No.18)

「男子德あるは便ち是れ才,女子才無きは便ち是徳なり.」
中国・明の時代から言い伝えられているこのことわざに基づくステレオタイプな考え方は,数百年経った今でも多くの人の心身に染みついてしまっています.特に私の親世代から続く,男女間の教育機会および教育期待への格差は未だに深刻な社会問題となっています.修士課程から留学生として来日し,博士進学した自分.気づけば周りの女子学生はますます減っていました.
来日から10年目.外国人女性研究者のひとりとして邁進してきた4年間.国籍や男女の違いに関わらず純粋に好きなことを仕事としてやり続けることができたのは,子どものころから科学が好きだった私を理解し支えてくれた両親のみならず,今まで様々な人や環境・機会に恵まれてきたからだと思っています.また,現在所属している名古屋工業大学でも女性研究者支援推進組織が設置されており,研究経費支援などのサポートを受けています.
一人でも多くの方々に理工研究分野での男女平等推進現状を知って欲しい.そして多くの女性が好きなことを仕事にできる人生を拓ける社会になりますように.
次は,木村禎一さんにバトンをお渡しします.

(名古屋工業大学 辛 韵子)

セラミックス誌
2021年1月号掲載
(No.17)

私が大学に入学したのは,女性研究者の割合を増大する働きが活発になってきた時期でした.学部は比較的女性比率の高い有機化学系でしたが,その当時は女性比率が2割程度でした.その後,女性比率が増大してはいるものの,依然3割程度です.この原因は,個人的には研究職は男性がなるものという潜在意識のためかなと考えております.私自身の話になり恐縮ですが,最近,妻との会話の中で子供を動物園に連れていくのを「家族サービス」と発言したところ,サービスとは何と偉そうな言葉だ,サービスではなくそれは当たり前のことだと言われました.今まで,全く違和感のない言葉でしたが,特別意識していなくても,男性が仕事,女性が家事・育児との古い潜在意識がこの発言に繋がっているのかなと気づかされました.単なる一例ですが,言われるまで気づかない潜在意識とは難儀なものであると実感しました.今後,ダイバーシティ等の仕事に係ることがあれば,このような潜在意識を変え,ダイバーシティ推進の力になれるよう頑張りたいと思います.
次は,辛韵子さんにバトンをお渡しします.

(産業技術総合研究所 中島 佑樹)

セラミックス誌
2020年10月号掲載
(No.16)

5歳息子の母である.ポスドク時分,育児と研究の両立に悩み,周囲の研究者に聞いて回った.いわゆるロールモデルを探していたわけだが,話を聞けば聞くほど,ものすごく優秀じゃないとできないじゃないか・・・と落ち込み,研究者への道を諦めていた時期があった.そんな中,留学の機会に恵まれた.息子を置いて単身留学した私を非難する声は意外にも無く,拍子抜けした私がさらに圧倒されたのは,育児の有無に限らずプライベートをおろそかにしない研究者の姿であった.「Are you happy?」と研究者仲間によく聞かれ,留学当初は即答できなかった私も,「誰かとの比較じゃない.自分が幸せかどうかだ」と気付いた.アカデミックポジションに身を置くことに何度も二の足を踏んだ私は,2018年にようやく,「若手か?」という年齢に達してからの助教となったが,人にも環境にも恵まれて幸せだ.
女性研究者が増えたとはいえ,まだ珍獣扱い.良くも悪くも目立つ.でも私のように,細々とでも研究を続けたい女性もいると思う.“女性”研究者が特別な存在でなくなり,男女関係なく働きたい人が働きたいスタイルで働ける社会になればいい.
次は,中島佑樹さんにバトンをお渡しします.

(岐阜大学 高井 千加)

セラミックス誌
2020年7月号掲載
(No.15)

筆者は2016年度から3年間,本務先のハラスメント防止対策室室長を務めた.防止対策室は2009年に設置され7年経過しているとはいえ,体制も整わないなか,途切れることなく持ち込まれる新しい事案の対応に追われた.当時はマタハラ,アルハラ,オワハラなどハラスメントをつけた新しい言葉が次々生まれていた時期でもあった.防止対策室が相談や防止に対する啓発活動を行う組織であるのに対し,起こってしまった事案に対し調査,調整,調停を行うのがハラスメント防止委員会である.その委員長して,法務・コンプライアンス担当副学長であった宮本由美子先生が就任した.宮本先生は元裁判官の弁護士で,実務家として法科大学院の教育にたずさわっていた.当時岡山大学は全国に知られるようなハラスメント事案を抱えており,宮本先生無くしては大学の正常化は大きく遅れていたであろう.そんな宮本先生はハラスメント防止に道筋をつけるさなか病を得,在職中にお亡くなりになるという悲劇に見舞われた.企業や大学のみならず省庁や政治家をも含んでまだまで続くハラスメントに,泉下の宮本先生はなんといわれるであろうか.
次は,高井千加さんにバトンをお渡しします.

(岡山大学 岸本 昭)

セラミックス誌
2020年4月号掲載
(No.14)

理工系分野にいる女性研究者はその研究人生を多くの男性に囲まれて過ごしてきたと思うが,私自身はその反対で女性の多い環境で過ごしてきた.学生時代は同期の半分は女子,ポスドクをしていたポルトガル・ポルト大学では9割が女性研究者,客員として滞在していたイタリア・トリノ大学の研究室もボス以外は全員女性,そして研究室を立ち上げた際も当初は女性だけという状況であった.海外では出産ぎりぎりまで働き(出産予定を聞くと明日とか),出産後半年も経たず復帰し,子供を連れて研究室へ来る女性研究者ともたくさん接してきた.研究室を運営するようになってからは,非正規雇用の支援職員の方の出産・育児を,未経験者である私がどのようにサポートできるのか考えなくてはいけない状況である.それぞれの環境や立場でサポートできる内容やして欲しい内容が異なるため,その場その場で会話をしていくことは大変重要である.日本はまだ作られた仕組みを利用する立場でいるだけの女性の方が圧倒的に多い.出産・育児を経験した女性達がもっと上司という立場になれば,よりよい形になっていくのではないかと思っている.
次は,岸本昭さんにバトンをお渡しします.

(九州工業大学 城﨑 由紀)

セラミックス誌
2020年1月号掲載
(No.13)

私の研究室は女子学生と留学生の数が多いため,まず,日本における“女子学生”の誕生について調べました.1913年,創立から間もない東北帝国大学は,独自の判断で4名の女性の受験を認め,3名の日本初「女子学生」が東北大学で誕生したのが始まりです.それからまた期間が空きましたが,1922年,2名の女性が理学部数学科に聴講生として入学され,翌年から,正規の学生として毎年女子学生が入学するようになったそうです.私が所属している研究科では,女子学生は全体の約3割を占めておりますが,私の研究室では,特に女子学生の数が多いです.一時期,日本人の学生は女子学生のみとなった期間もありました.
また,東北大学は,建学以来の伝統である「研究第一」と「門戸開放」の理念を掲げ,外国人研究者・留学生も積極的に受け入れております.私の研究室ではインドネシアや中国の留学生が数多く在籍しております.日頃研究室内では,言語はもちろん,文化や生活習慣の異なる多様性に溢れています.お互いの違いを認め合い,ポジティブな刺激を感じながら,面白い研究アイデアが生まれることに期待しています.
次は,城崎由紀さんにバトンをお渡しします.

(東北大学 殷 澍)

セラミックス誌
2019年10月号掲載
(No.12)

『女性研究者』に注目が集まることが多々ありますが,性別が女性で研究をしている人のことですので,既婚,未婚,子どもの有無にかかわらず,女性の研究者は『女性研究者』です.今はまだ人数が少ないので良くも悪くも注目される機会が多いのでしょう.女性研究者を増やすためには,工学系に進学する女子学生を増やす必要があります.工学分野を目指す子ども達を増やせるよう,彼女たちの憧れの存在となるべく,カッコよく,スマートに,楽しく働きたいものです.
昨年度末,一番下の子が保育園を卒園しました.我が家の子ども達は保育園に10年間お世話になったのですが,たった10年で福岡の田舎であっても男女共同参画が進んだように感じています.10年前は我が家の夫も含め,送迎時にお父さんの姿を見る機会があまりなかったのですが,ここ数年,ぐっと増えてきました.たった10年ではありますが,確実に時代は変わっています.
研究は競争の世界ですが,一人で行うことはできません.他者との違いを認め,『困ったときはお互いさま』の精神を持つことがダイバーシティ(多様性を受け入れる社会)につながると思っています.
次は,殷澍さんにバトンをお渡しします.

(九州大学 稲田 幹)

セラミックス誌
2019年7月号掲載
(No.11)

今回,本欄執筆のお話をいただき,「ダイバーシティ(Diversity)」と男女共同参画社会について考える機会を頂戴しました.これまでも先生方が述べられているようにSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)分野で学ぶ女子学生の少なさは日本のみならず国際的な課題となっていると聞きます.私自身は研究職を目指すことに全く反対された事ありません.しかし,オープンキャンパスでお会いする方や,周囲の女性と話していて感じるのは,理系に苦手意識を持つ母親や理系を敬遠する女性が多いということです。私はこの女性自身の意識から変えていく必要があると考えています.STEM分野の女性研究者のための環境整備と促進事業が展開され,多くの取り組みが進められております.同時に,今の女性研究者の多様なライフスタイルとロールモデル,そこから学ぶキャリアパスを社会に示し,女性のもつ価値観を変えていくことも大事と考えます.そのために,私には何ができるか,何をすべきかを考えながら,今日も頑張りたいと思います.
次は,稲田幹さんにバトンをお渡しします.

(大阪大学 後藤 知代)

セラミックス誌
2019年4月号掲載
(No.10)

皆様は,自分の所属する組織がどのようなダイバーシティ推進に取り組んでいるかを具体的にご存知でしょうか?筆者は昨年まで,いくつかの取組について漠然と知るのみでした.今年度,所内のダイバーシティ推進室へ出向となり,女性の活躍推進,外国人研究者の支援,ワーク・ライフ・バランスの実現等,多岐にわたる取組を行う中で,ようやく状況を把握できてきたように感じます.
女性の活躍推進においては,現職員のための環境整備のみならず,これから研究者となり得る理系女子学生に向けた研究所・研究職紹介等も行っています.このような活動は,女性管理職比率や女性採用比率等の数値目標を盛り込んだ女性活躍推進法の行動計画等に基づいています.数値目標を定めることについての賛否は様々かと思いますが,現場では,法律に基づく数値目標があることで取組を促進できる部分も大きいと感じています.将来的には数値目標がなくても,ダイバーシティ推進が実現する世の中になることを願っています.今後も出向先での経験をもとに,様々な場所でダイバーシティ推進に関わっていければと考えています.
次は,後藤知代さんにバトンをお渡しします.

(産業技術総合研究所 中村 真紀)

セラミックス誌
2019年1月号掲載
(No.9)

日本の女性研究者割合は諸外国に比べて低く,中でも理工系分野において特に低い状況です.改善のための様々な取り組みがなされていますが,現場の研究者は,そもそも理工系に進学する女子学生が少ないのだから仕方ない,と諦めに似た気持ちを抱きがちです.先日,科学史を専門とする研究者から「理工系研究職に女性が少ないのは,一部の層の関心しか集めない状況を放置してきた結果」という趣旨のご意見を頂きました.これまでは,昼夜問わず実験・研究に没頭できる体力・気力・家庭環境の三拍子揃った一部の人材が理工系研究職を選び,この分野を支えてきたのでしょう.
一方,幼少期からのジェンダーバイアスに加え,博士進学・就職後のキャリアパスの不透明さ,身近なロールモデルの不在,家庭との両立の困難な職場環境(任期付きポスト,長時間労働など)といった様々な要因により,理工系研究職は多くの女性の関心を集めるだけの魅力に欠けているということです.女性にも男性にも働きやすい職場環境を整備し,研究職の魅力を向上させていくことを諦めてはならないと思います.それは,理工系分野全体のためでもあるからです.
次は,中村真紀さんにバトンをお渡しします.

(産業技術総合研究所 大矢根 綾子)

セラミックス誌
2018年10月号掲載
(No.8)

「貴方は変わっているから,研究者に向いていると思う.」父から言われたこの言葉は,筆者の進路決定に大きな影響を与えた.ならばと研究の世界に入って早20年.周囲には,さらに変わった(誉め言葉だと思う),個性的な研究者が多くいる.特に女性研究者は,際立って個性を発揮していると感じる.そのような方と接すると,感服すると同時に,筆者にはこのようなオーラはないと落ち込んでしまう.名古屋大学男女共同参画センター長の束村博子先生は,「控えめな研究者がいてもいい.多様な研究者がいるからこそ,後に続く人が出る.」とおっしゃって下さる.この言葉にいつも励まされている.
筆者は,研究ができる環境にいることを,つくづく幸せに感じている.咄嗟に気の利いた発言をするのは苦手だが,より時間のかかる研究や執筆活動を通じて,自分らしさを表現できるし,それを認めてくれる人もいる.学生も十人十色.瞬発力のある学生は目立つが,黙々と考えた末に,教員を唸らせるアイディアを持ってくる学生もいる.多様な人材がベストパフォーマンスを発揮できる社会.それを目指し,社会の一構成員として努力したい.
次は,大矢根綾子さんにバトンをお渡しします.

(名古屋大学 鳴瀧 彩絵)

セラミックス誌
2018年7月号掲載
(No.7)

1960年代の米国では平等を求める黒人による公民権運動の嵐が吹き荒れました.このとき反対派は,人種だけでなく性別による差別をも禁止する条項を加えて反対者を増やし,公民権法案全体の否決を狙ったのですが,法案は可決,結果的に女性は大きな権利を手にしたのでした.すなわち、女性が大統領候補になる米国でさえ、女性が男性と平等の権利を獲得したのはわずか50年前,しかも,それは人種差別撤廃のおまけという棚ぼた的なものだったのです.また,多くの国際機関が立地するスイスは、平和と平等の国のような印象がありますが,実はこの国で女性参政権が完全に認められたのは,なんと1991年のことです.このように男女雇用機会平等の歴史は実はまだ浅いのです.それでも,日本の雇用環境は,女性が結婚とともに離職する寿退社が当然だった30年前とは様変わりしています.私の学生時代に女性の教授を見かけた記憶はほとんどありませんが,今では研究教育の場で多くの女性が活躍しています.道は半ばです.あせることなく,多様性をパワーとする社会に向けて地道に努力していくことこそ重要であると思います.
次は,鳴瀧彩絵さんにバトンをお渡しします.

(慶應義塾大学 今井 宏明)

セラミックス誌
2018年4月号掲載
(No.6)

仕事は人が動かすもの,どんな仕事にも個性が反映されています.「こんなスゴイ研究をどんな人がしたのだろう?」という素朴な疑問から,その人に会ってはじめて性別や国籍が分かり,バックグランドや人柄を知り,その研究に対する理解が一層深まったという経験をお持ちの方は多いと思います.個性は生まれつき備わっている先天的要素と環境によって育つ後天的要素からなると聞きます.成人の個性は後天的要素が大部分を占めているように思いますが,ある年齢を超えると固定化してしまうようにも感じます.仕事を進める上で,多様な個性を一様に尊重するのは至難の業と言っても過言ではないでしょう.
「自己組織化」現象は,最先端の解析技術を駆使することにより,化学や物理学に基づいて整然と理解されるようになりました.イオン,分子,クラスター,ナノ粒子のように構成単位は様々です.そのサイズや形の分布が重要因子となって秩序を導き,結果として高次の階層構造が跳躍的な機能を発現することが注目されています.多様性と秩序の両立は,組織の機能を最大限に発揮するためにも,組織自体が持続的に発展するためにも,大切な視点であると痛感しています.
次は,今井宏明さんにバトンをお渡しします.

(産業技術総合研究所 加藤 一実)

セラミックス誌
2018年1月号掲載
(No.5)

本欄の第5回目の担当としてバトンを渡されましたので「女性研究者の昇進」について述べてみます.第3回目の安盛 敦雄先生は東京理科大学材料系学科に所属する女子学生の割合を分野別に調べられています.そこで私は女性のプロの研究者について述べてみます.
日本の女性の研究者は2016年で約14万人で研究者全体の16%を示しており,年々増加しています.しかしロシア(40%),英国(37%),イタリア(36%),米国(34%)に比べると半分以下です.これらの女性研究者は果たして指導的な地位についているのでしょうか?
JSTの該当する約1万2千人の研究者データベースをもとに文科省の藤原綾乃さんが教授昇進について興味深いデータを出しています.教授昇進の条件は論文や書籍の多さ,引用件数の多さ,受賞,競争的資金の獲得の多さや外国との共同研究などが評価されるといわれています.女性は男性と比べ,ほかの条件は同じでも理工系は50%,医学・生物学で29%,人文社会学で19%と低かったという残念な結果が得られています.これらをもう少し掘り下げて調査しセラ誌3月号で述べてみます.
次は,加藤一実さんにバトンをお渡しします.

(日本セラミックス協会会長 平尾 一之)

セラミックス誌
2017年10月号掲載
(No.4)

私の所属する村田製作所はセラミック電子部品を主力とした部品メーカーです.海外売上比率は90%以上と高く,グローバルに事業展開しています.海外にも生産拠点を持ち,主要ビジネスである通信市場だけでなく,M&Aを活用して事業展開を行っています.
様々なバックグラウンドを持つ社員が働いており,「多様性(ダイバーシティ)」をお互いに「受容(インクルージョン)」してイノベーションを生み出し企業成長につなげようと,D&Iの活動を推進しています.
このような取り組みでは,マネジメント側には「多様な人材が働きやすい環境・制度充実」が期待されます.
その中で私自身がこの活動に対してどのように取り組むべきか,難しく感じていました.そこで先ず,次の2つを心がけることにしました.1つ目は,自分と異なる意見を否定しない事.活動名の通り,否定から入ってはイノベーションを生み出せません.2つ目は,組織での自分の役割を意識する事.自分が何を提供できるか考えながら業務にあたり,組織の成果に貢献したいと考えています. 正解は分かりませんが,これからも自分で出来る事を考えていこうと思います.
次は,平尾一之さんにバトンをお渡しします.

(株式会社村田製作所 福盛 愛)

セラミックス誌
2017年7月号掲載
(No.3)

指導的な地位に占める女性の割合の目標を表す「202030」が決まってから10年以上経ち,2020年まで残り3年となりました.そこで,数字を少し調べてみることにしました.私の所属する材料系学科の女子学生の割合は約20%で,大学全体でも20%を少し超える数字です.その中で,化学系は30%程度,生物系や薬学系では50%ですが,機械系や電気系は10%以下です.次に協会の会員数(2017. 3現在)をみますと,学生会員の女性比率は約17%ですから,化学系と機械・電機系の中間で,私としては何となく頷ける数字ですが,個人会員(つまり就職後)になると約5%と大幅に下がります.しかし30歳以下の若手に限ると12%に上がります.
これらの数字が表す意味は,いろいろ考えられると思います.興味を持つ分野や得意科目はいつ決まるのか,それらは将来の就職先を考えた結果なのか,社会制度や文化は変わりつつあるのか,等々.もちろんダイバーシティの意味は男女比だけではありませんが,この辺りをみんなで考えていくと,多様な価値観が尊重される社会に繋がっていくのではないかと思っています.
次は,福盛愛さんにバトンをお渡しします.

(東京理科大学 安盛 敦雄)

セラミックス誌
2017年4月号掲載
(No.2)

本欄の第2回目の担当としてバトンを渡されたものの,自分の生活においてあまり男女ということを意識しているわけではありません.私自身の話をすると,独身期間も比較的長く,子供も年をとってから産みましたので,自由に研究し,人と交流することに多くの時間を費やすことが出来ました.それが研究の幅を広げることにつながっているように思います.一方,現在は子供(3歳)の育児に追われる日々を過ごしており,ゆったりとした時間はほとんどありません.以前に比べると仕事をする時間は減りましたが,子育てを通じて多くのことを学び,我慢強くなったように思います.育児はほとんど保育園任せになっていますが,保育園の先生やお友達と過ごす時間を楽しんでたくましく育っている我が子を見ると仕事を続けることが親と子が成長する上で重要な役割を果たしてくれているように感じます.仕事を続けることは大変ですが,家族や友人,上司や研究者仲間の助けがあってこそ頑張れます.騒がしい子供を連れての学会参加などもしますが,温かい目で見守っていただけるとうれしいです.
次は,安盛敦雄さんにバトンをお渡しします.

(物質・材料研究機構 瀬川 浩代)

セラミックス誌
2017年1月号掲載
(No.1)

日本セラミックス協会は,協会をより活性化するために,2014年に男女共同参画委員会を発足させ,新しいイベントを企画・実行してきました.今回は,皆様と「ダイバーシティ」について考える機会となりますよう,日頃思っていること,悩んでいること,仕事と家庭の両立,育児や介護,グローバル化など,約500文字で思いを書いて,次の著者にバトンリレーしていきます.
日本のジェンダーギャップ(男女平等)指数は,145ヵ国中101位(2015年)です.1位アイスランドで,ノルウエー,フィンランド,スウエーデンと北欧が上位を占めています.2016年9月にフィンランドのオウル大学を訪問し,研究者・技術者ら13人と交流をする機会を頂きました.効率の良い仕事と短時間労働を推奨し,これにより,帰宅後でも家事,育児,趣味を家族で楽しむ時間がたっぷりとあり,男性も自然に家事や育児を分担していました.残業をしなくても平均給与が比較的高く,社会保障が充実しており,時間が豊かで,自然が豊かで,人生をゆっくり楽しんでいるようでした.素敵な国にうらやましさを感じ,日本の長時間労働社会を憂いている,今日この頃です.
次は、瀬川浩代さんにバトンをお渡しします.

(男女共同参画委員長 中野 裕美)